人事コラム
鉄鋼業における次世代型人事制度
変革期にある鉄鋼業が取り組むべき、「役割×成果」で定義する人事制度モデル設計
鉄鋼業界を取り巻く経営環境と人事課題を踏まえ、従来型人事制度(年功序列・職能資格)から役割×成果の視点で再構築。現場データを活用しつつ、公平で成長を促す次世代型制度に見直すモデル設計の5ステップとそのポイントを紹介。
「役割×成果」で定義する鉄鋼業の次世代人事制度モデルの設計
鉄鋼業を取り巻く経営環境と人事課題
鉄鋼業は、原料高や再編統合の波、国内需要の減少といった構造変化の只中にあります。製鉄から圧延までの一貫生産体制を持つ大手と、系列構造の下で製鋼・圧延を担う中堅・中小企業が並立しており、近年は生産量が横ばい〜減少傾向にあります。建設需要や自動車産業の動向に強く影響される一方、脱炭素・電炉化・高付加価値鋼の開発など、新技術への転換も進められています。
鉄鋼業におけるこのような業界構造の変化の裏では、高齢化や人材構造の歪みといった課題が深刻化しています。
同業界では、高度経済成長期を支えた技能職世代が定年退職を迎える中、若年層の採用・定着が難航し、「属人的なノウハウ依存」や「ベテラン頼みの技能伝承」といった構造課題に悩む企業が増えています。
その一方で、デジタルを活用した企業変革は各社の喫緊の課題となり、このような現場改革を担う人材の育成が急務となっています。
つまり、"人への投資"をどう進めるかが企業の競争力を分ける状況に立たされているのです。
このような環境下にある中、年功序列・職能資格に依存した人事制度では、変化に対応できず、
・挑戦意欲が報われにくい
・役割や貢献が見えにくい
・人件費と付加価値の連動が薄い
といった問題が浮き彫りとなっています。
従来型人事制度(年功・職能資格制度)の限界
鉄鋼業の評価制度は、長年「年功序列」・「職能資格」を中心に運用されてきました。
大量生産・安定稼働を前提とする環境では一定の合理性がありましたが、少量多品種化・品質高度化・海外連携など業界構造の変化が激しくなる中、もはや役割と成果を切り離した制度は限界を迎えています。
以下は、鉄鋼業の企業が陥りがちな課題の代表例です。
- 1
- 成果と評価の曖昧性:現場の改善活動や新製品提案など、成果が数字に表れにくく、評価が曖昧になってしまう。
- 2
- 挑戦の抑制:組織の枠を超えた提案や改善活動が評価や報酬に反映されなければ、若手の自発性を引き出せず、変化に対する抵抗やベテラン依存が助長されてしまう。
- 3
- 説明責任の欠如:評価基準が曖昧である場合、若手を中心とした社員が「どうすれば昇格できるか」を理解できず、社員の成長加速の足枷になってしまう。
- 4
- 低生産性による収益への悪影響:製造業全体に比べ鉄鋼業の売上高利益率・付加価値率は低い傾向にある中、人に関わる効率を引き上げなければ、労働分配率(付加価値に占める人件費の割合)が高止まりし、企業収益に悪影響を及ぼしてしまう。
制度の形骸化が組織の硬直化を生み、結果として若手の離職や生産性の低下を招いてしまう懸念もあります。
次世代型「役割×成果」モデルの設計
こうした背景を踏まえ、本稿では「役割×成果」で評価する、鉄鋼業における次世代型モデルを提言します。
これは単なる評価制度のみの更新ではなく、「役割定義」「成果目標」「行動基準」を三位一体で設計する仕組みです。
以下、従来型の人事制度と役割×成果モデルのポイントを整理しました。
<従来型人事制度と役割×成果モデルの違い>
| 評価軸 | 従来制度 | 役割×成果モデル |
|---|---|---|
| 昇格基準 | 年功・職能 | 役割・責任・成果到達度 |
| 評価対象 | 能力・努力 | 成果+行動(挑戦・改善・協働) |
| 処遇反映 | 定期昇給中心 | 評価結果を賞与・昇格・役割給に反映 |
| 管理者の役割 | 評価者 | 育成者・コーチ |
このモデルの鍵は、「何を期待されているのか」を明示し、「何ができたか」をデータで"視える化"する点にあります。
鉄鋼業のように多工程・複数職種が連動する業界では、
・操業効率・品質不良率・稼働率などの定量KPI
・改善提案・安全遵守・チーム貢献などの定性KPI
を組み合わせる設計が有効です。
また、IoTやセンサーなどで現場データを取得できる体制が進むと、人事評価×生産データの連動は、制度運用の信頼性を担保する指標になってきます。
モデル設計の5ステップ
以下は、役割×成果モデル設計の5つのステップです。
- STEP1
-
現状認識とコンセプト設計
現状認識として、
①現状の人事制度(等級制度・評価制度・報酬制度)の実態を棚卸しする
②事業戦略・経営戦略との整合性を整理する
③全社および各部門の組織課題(技能伝承、人員過多、モチベーション格差など)を定性・定量両面で把握する
ということを行います。
課題が明確になった上で、制度再構築のコンセプトを設計します。このコンセプトは、制度再設計の核となる重要な概念であるため、あるべき姿と現状のギャップを踏まえ「どのような人事制度を目指すのか」をじっくり定義することがポイントです。
- STEP2
-
役割定義の設計
工程(部署)別・職群別に「何を期待する役割か」を明確化します。
例えば、圧延オペレーターの場合「安定稼働・不良率低減」、技術スタッフの場合「工程改善・設備更新提案」など、職種に応じた役割を明文化します。
- STEP3
-
評価項目の設計と具体化
上記2を基に、各職種別・等級別などで評価項目を設定します。そのうえで成果指標(品質、稼働率、改善提案件数など)と、行動指標(安全、協働、学習姿勢など)を具体的に設定します。
また評価項目はすべて同じ重みづけ(ウェイト)ではなく、重みづけを職種や等級ごとに変えることで社員の方に対して「どの項目を会社として重視しているか?」というメッセージにもなるため、柔軟に調整することがポイントです。
- STEP4
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評価結果の処遇反映方法の設計
評価結果をもとに昇給・賞与を決定します。ただし、「成果=即報酬」とするのではなく、「成果+行動」が持続的成果をもたらす前提であるとし、過度な短期成果への偏重を避けることを推奨します。役割給は基本的に年齢は関係なく役割の発揮度合いに応じて賃金を決定するため、役割等級制度へ切り替える場合年齢給を導入している企業においては見直しが必要です。
- STEP5
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運用・定着支援
制度導入・運用フェーズにおいては、社内説明会・評価者研修・フィードバック面談などを通じて、納得感を醸成する取組みを丁寧に行うことを推奨します。制度を形骸化させず、しっかりと根付かせるためにも、新制度の目的も含めて運用側の社員に浸透させることが重要です。
特に、技術系の社員が多い鉄鋼業の製造現場においては、職長・班長が部下を評価する・育てるといった思考が弱いケースが散見されます。設計だけではなく、確実に制度が定着していくような運用サポートは設計以上に重要な要素です。
また、評価情報をデータベース化し、次期人材配置や教育計画に活用する仕組みを整えることも検討いただきたいです。
まとめ:人事制度の刷新が「鉄鋼業の未来」をつくる
鉄鋼業は今、脱炭素・DX・人手不足をはじめとした課題に直面しており、大きな変革期にあります。
生産設備の刷新だけでなく、人材制度の刷新が企業の競争力を左右する時代です。
「役割×成果」モデルは、単に報酬を変える仕組みではなく、社員の意識を未来志向に変えるプラットフォームです。
勤続や年齢に偏ることなく、「役割を果たし、成果で報われる」文化をつくることが、若手を惹きつけ、熟練者を活かし、組織の力を引き出すことに繋がります。
その第一歩を、制度設計の見直しから始めることが求められています。
本稿が、"人"に課題を抱える鉄鋼業の企業における変革のきっかけになることを願っています。