人事制度を部分的にとらえることなく、
「経営目線・社員目線」を立体的にとらえ、再構築を図る

人事制度再構築トレンドの背景
昨今、人事制度を刷新・再構築する企業が増えてきている。
実際、当社にも多くの経営者や人事担当から人事制度に関する相談が寄せられており、その数は年々増加している。人事制度の見直しが模索されるタイミングは、大きく分けて企業の「中」の変化と「外」の変化に大別される。
1.企業の「中」の変化
(1)企業の成長期・変革期
企業規模の拡大やビジネスモデルの転換期においては、旧来の人事制度では対応が難しくなるため、組織の規模や事業内容に応じた人事制度の見直しが求められる。
(2)社員の人事制度に対する不満や、組織全体の労働意欲の低下
評価制度・賃金制度に不満があるゆえにモチベーションが上がらずに、離職する社員は少なくない。このような場合において、企業は人事制度の見直しを迫られることとなる。
2.企業の「外」の変化
(1)変化する経営環境に対応した人事戦略の変化
タナベコンサルティングでは「企業とは『環境適応業』である」と提唱している。
変化する外部環境に適応して、企業自体も変化していかなければ、存続してくことが難しくなるという意味合いである。昨今、急速な世界情勢の変化に伴い、経営環境も劇的に変化している。経営環境に即して、企業の成長へ貢献する人材を採用・育成・活躍させていくことが企業における人事戦略の重要なポイントである。その仕組み・基盤として「人事制度」の重要性を見つめ直す企業が増えてきていると考えられる。
近年においては、特に企業の「外」の変化が人事制度見直しのきっかけとなっている企業が多い。
他方で、人事制度を再構築ないし新制度を導入する際には気を付けておきたいポイントがいくつかある。
本コラムでは新人事制度導入時に避けるべきポイントを3点解説していく。
人事制度設計時に避けるべきポイントとは?
避けるべき3つの制度設計
1.経営理念・MVV(ミッション・ビジョン・バリュー)を無視した制度設計
企業の究極の目標は「理念の実現」である。経営理念は人事制度の根幹であり、人事制度は理念・ビジョン・戦略の実現に向け設計していく必要がある。
したがって、経営理念やMVVの整理を行う前に、些末な項目に見直しをかけてしまうと、全社方針から外れた、ピントのずれた制度設計となってしまう可能性が生じる。
2.社員の声をないがしろにした制度設計
人事制度の対象者は決まって社員である。したがって対象者である社員の声を無視した制度設計は、反感・不満を生む可能性がある。必ずしも社員に迎合せよ、というわけではないが、制度改定の事前には現行の制度における課題のヒアリングを行うとよい。
3.複雑すぎる制度設計
人事制度は「設計が2割、運用が8割」である。制度を作るだけでなく、それをどのように活かし、組織全体で機能させるかが肝要であるという意味合いである。したがって、制度に対して社員の理解が欠けていてはならない。制度が複雑すぎると、社員は混乱し、人事制度を十分に理解できない可能性がある。結果として、制度刷新の際に目指していた、人事制度のゴールを見失ってしまうリスクがある。全社として十分な理解納得がなければ、せっかく作った制度もうまく運用することができず、「宝の持ち腐れ」となってしまうのである。また複雑多岐な制度設計は、人事担当者の疲弊を引き起こすケースも少なくない。目指すべきは明瞭かつ平易であり、社員が容易に理解し、人事担当がきちんと運用できる人事制度である。

人事制度が機能するためのポイント
人事制度成功のコツは、上記の避けるべき人事制度設計手法の裏返しとなるが、各項目に補足を加えた「人事制度成功のポイント」をお伝えしたい。
1.経営理念・MVVの棚卸
前述の通り、経営理念・MVVは人事制度の根幹である。
したがって、人事制度の見直しをかける前に、最低限、以下3点の整理が必要である。
【価値観の整理】
(1)自社の経営理念とは何か
(2)理念を実現するための自社の中長期ビジョンは何か(あるか)
(3)前述の理念・ビジョンを叶えるために必要な人材要件(=人材ビジョン)はなにか
どのような人材であれば、理念・ビジョンの実現に貢献できるか
2.社員へのアンケート調査
社員の現行の人事制度に対しての評価をある程度聞いておくと、再構築する上での判断材料となるだろう。
全社員を対象に匿名性のあるアンケート調査を行うことで、社員は率直な意見を述べやすくなる。
エンゲージメント調査などを行い、その結果を活用するのも有効な手段となる。
調査項目としては、「現行制度への評価」「変更希望点」に加え、制度に直接関係しないが「組織風土」「業務環境」等についても調査することで、制度設計のヒントとすることができる。
3.透明性と一貫性の担保
社員にも分かりやすく、明瞭な人事制度を設計するためには「透明性」と「一貫性」が肝要である。
透明性とは、組織の人事制度やプロセスが明確であり、社員に対してオープンであることを指す。
一貫性とは、各種制度の軸が一貫しており、社員に対して公平に適用されることを指す。
本コラムでは各制度における透明性と一貫性担保のポイントをお伝えしたい。
(1)評価制度
①透明性を確保するためには、評価基準や評価プロセスを文書化・明文化し、社員に共有することが肝要である。
②一貫性を保つためには、評価基準を部署単位・職位単位で統一し、明瞭な評価基準のもと、どの評価者も同じ基準に基づいて評価を行うことが求められる。
(2)等級制度
①透明性担保のためには、各等級において必要なスキル・コンピテンシーを明確に定義されており、社員がアクセス可能となる環境整備が求められる。
各等級に必要なスキル・コンピテンシーが何か、社内で洗い出すことが必要となる。
②一貫性維持のためには、
全社的な統一基準が定められ、等級の決定プロセスが全ての従業員に対して公平に適用されることが求められる。
(3)賃金制度
①透明性を確保するためには、賃金体系や給与決定の基準を明確にし、社員に対してオープンにすることが求められる。
給与の構成要素や昇給の条件が明示され、社員が自身の給与に対する算出根拠を理解できていることが目標である。
②一貫性を保つためには、賃金制度の設計時に、同じ等級・役職の社員については同様の算出ロジックに基づいて給与が決定されるようにすることが求められる。
さいごに
人事制度再構築においては、「木を見て森を見ず」ではならない。
まず大局的に組織全体・経営全体を捉えなおすことが大切である。
そのうえで、人事制度を経営全体の「森の中の木」としてとらえることで、包括的な制度設計を行っていただきたい。
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