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世界的パンデミック、新型コロナウイルスは、その前と後で経済環境を激変させました。変化が大きい時代だからこそ経営理念を起点としたビジョン・中期経営計画を明確にし、従業員が進むべき指針とすることが重要です。本稿では、アパレル業界における課題と変化する市場を捉えながら、中期経営計画策定のポイントを解説します。
アパレル業界の課題とは?
(1)低価格競争
近年の物価高や増税による節約志向も相まって、衣服を低単価で購入できるファストファッションが主流となっています。そして、低価格競争が激化するほど、各企業の利益率低下を招き、経営に悪影響を及ぼしています。
(2)大量生産、余剰在庫による環境に対する負荷
低価格で販売するファストファッションの流行により、多くのアパレル企業がコスト削減のために大量生産をした結果、多くの売れ残りが発生しています。また、トレンド予測の見誤りから余剰在庫を生み出すケースもあります。これらの在庫は処分されることになるため、環境に大きな負荷がかかっていることが問題となっています。
(3)少子化
若い世代が少なくなれば、その分、働き手も減少します。特に店舗スタッフは少人数で長時間にわたって仕事を行うにも関わらず、他の業界と比較して給料が低く、ノルマや売上のプレッシャーもあって人手不足を招いています。また、若い世代の減少は、トレンドという視点からすれば消費者のニーズ減少につながっています。
コロナ禍を経て変化する市場
(1)コロナ禍による消費者のライフスタイルの変化
コロナ禍により消費者のライフスタイルが大きく変わりました。自宅で過ごす時間が増えたことでカジュアルな衣服を着用する機会が増え、スーツなどフォーマルかつ高級な衣服の着用機会が減ったことで、低価格な衣服を求める傾向にあります。その一方で、頻繁に衣服を買う必要性が薄れたことから、自分の気に入った衣服を長く着用することができる高級な衣服を求める消費者も増えています。その結果、消費者のニーズは二極化が進んでいます。
(2)ECニーズの大幅な増加
コロナ禍により、多くの人が外出を控えたことでオンラインショッピングがこれまで以上に利用されています。オンラインショッピングは、実店舗よりも販売にかかるコストが低い傾向あるため消費者は低価格で衣服を購入することができ、住んでいるエリアに店舗がなくても、欲しいブランドの衣服が購入可能です。デザインやサイズ感など、実際に見たり触ったりしないと分かりにくい課題はあるものの、デジタル技術の進展によりバーチャル試着など可能になったことで、ECサイトの利用が拡大しています。
具体的な対策と中期経営計画の重要性
(1)具体的な対策
上記の課題や市場の変化から以下の具体的な対策があげられます。
①サステナブルな産業への変化
サステナビリティへの関心が高まっています。大量生産、余剰在庫が問題となっているアパレル業界において、環境に優しい素材を使用することや、環境に配慮した製造工程への見直しが求められています。また、余剰在庫が発生しないように、需要予測の精度を高めることや在庫管理の対策も重要な要素といえます。
②オンラインを活用した販売
コロナ禍をうけてオンラインショッピングの利用が増えたため、商品を直接消費者に販売するD2Cモデルの導入も対策の1つといえます。消費者ニーズを直接把握することで市場の変化により早く対応が可能であり、中間業者に支払うコストや流通コストを抑えることで、より高い利益率を実現します。
コロナ禍が明けてからは、実店舗へ足を運ぶ機会も増えており、オンラインとオフラインを組み合わせて顧客体験の向上を図るOMO(Online Merges with Offline)マーケティングを導入することで、消費者にとって最適なショッピング体験を提供することができます。
③ブランド価値を高める
商品の性質を高めることも重要ですが、ブランド価値を高めることも大切です。ブランドファンであるロイヤルカスタマーを育成することで、購入率を高め売上を安定させられるだけでなく、SNS等で発信してもらうことで新規顧客の獲得にもつながります。
(2)中期経営計画の重要性
上記なような具体策も、やみくもに実施してはなかなか期待するような効果がでない可能性があります。会社のなりたい姿、目指す姿とつながっていることが大切です。そこで重要になるのが、会社の「なりたい姿の設計図」といえる中期経営計画です。中期経営計画とは、企業が未来を共有し、未来投資を行いながら「なりたい姿を実現していくための設計図」です。社員が1つになるための考え方、行動の仕方、数値計画が体系化されたものであり、企業体質強化への健全な危機感を醸成するものでもあります。なりたい姿を常に明示し、意識し、修正し、実践継続していくことで、現実のものとなっていきます。
アパレル業界の中期経営計画策定方法
ここでは、中期経営計画の策定方法のポイントを記載します。
(1)バックキャスティング方式で落とし込む
3年後、5年後に自社がどのような企業に成長するのか、企業の使命(存在価値)と外部環境、内部環境分析からみて、中期経営目標としての定性的ビジョンをまとめます。同時に定性的ビジョンとなる基本数値目標を、過去の延長線上ではなく、経営数値分析からみた3年後、5年後に達成すべき数値を経営レベルから設定します。現状からみた目標ではなく、未来のなりたい姿から逆算することが重要です。
(2)自社を取り巻く環境の予測
アパレル業界では、市場のトレンドや消費者の嗜好、デジタルの技術革新を的確に把握することが不可欠です。自社を取り巻く環境を踏まえ、課題や競合他社との差別化をとらえ、成長戦略を描くことが必要です。
(3)行動まで落とし込む
せっかく策定した中期経営計画も実行されなければ意味がありません。幹部・社員まで巻き込んで作り上げ、計画の内容が社内で理解され、行動まで落とし込まれていることが大切です。
環境が目まぐるしく変わる昨今、外部環境の変化に合わせて、戦略や計画はアップデートする必要があります。未来ビジョンは堅持し、そこに至るための中期経営計画を外部環境に合わせて柔軟に変化させていくことが重要といえます。
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