COLUMN

2024.03.19

新規事業をスケールアップさせるポイントと推進体制

新規事業をスケールアップさせるポイントと推進体制

新規事業開発の目的は、当然ながら新たな収益の柱を確立することや企業価値のさらなる向上などにあります。移り変わりの激しい現代のビジネスシーンでは、持続的に企業が成長発展していくために新規事業開発は重要な経営課題と言えます。しかし、0(ゼロ)から1を生み出す開発フェーズと、それを1→10に、10→100へと拡大していくスタートアップ・スケールアップフェーズは、0→1の開発フェーズと推進体制が大きく異なります。優れた新規事業でも、フェーズに応じて正しい体制を取らなければ成功するものも成功させることは難しくなります。今回は、開発フェーズ以降のスタートアップ・スケールアップフェーズにおける推進体制について解説します。

新規事業の成長フェーズイメージ

新規事業の成長フェーズイメージ

出所:タナベコンサルティング作成

スタートアップ(1→10)フェーズ

(1)リーンスタートアップで特定の顧客を獲得

スタートアップフェーズでは、1~数社の特定の顧客で構わないので、とにかく顧客を獲得することに注力し新規事業が市場に受け入れてもらえそうだという「確からしさ」を確立していくことが必要です。1社も新規事業に対して理解を示さないのであればあれば、そもそもその事業は市場にマッチしておらず収益化していくことは極めて難しく企画倒れになるでしょう。
特定の顧客を獲得するために、既存のご縁先や紹介先などに話を持ち掛け、顧客の反応を伺ってみてください。そこで得られたフィードバックを基にビジネスモデル(商品・サービスのスペック、コスト、提供方法 等)の見直しを行い、より顧客ニーズにマッチするビジネスモデルへとブラッシュアップを図っていきます。いわゆるリーンスタートアップの手法で言う「仮説構築」→「計測・実験」→「学習」→「再構築」のサイクルを、顧客との対話を通して高速で回していきます。これによってスピーディーでより確実性を高めることができます。
このようにスタートアップフェーズでは、まず特定の顧客を獲得しスケールアップへの足掛かりをつくっていくことが重要です。

(2)スタートアップの推進体制

スタートアップフェーズでは、新規事業開発部門がそのまま継続して推進でも、社内のプロジェクト的位置づけでも、開発フェーズの延長のような位置づけで人員体制を組んでも構いません。ただし、その取り組みには必ず具体的な目標(売上高や契約社数 等)と期限、そしてリーダーを明確に設定します。特に、リーダーとなる人物には強いリーダーシップが求められます。リーダー像としては、開発フェーズで構築した戦略に沿って計画を推進し、何としても新規事業案を具現化しようとする強烈な執念と熱量を持った人物が望ましいです。一般的に推進リーダーは、事業の発案者が担当することが多いですが、社内でも特に優秀なエース級の人材を抜擢することをお勧めします。
また、開発フェーズで立てた計画は不確定要素や仮説要素を多く含んでいることから、スタートアップで実行に移ったとき、計画や想定と異なる事象が生じることも多々発生します。そのため、スタートアップフェーズでは臨機応変に戦略を見直し軌道修正していく判断力も求められます。

スタートアップ(1→10)フェーズ

スケールアップ(1→100)フェーズ

(1)戦略投資

スケールアップフェーズでは、これまでのフェーズとは異なりより大きな投資判断が伴ってきます。当然ながら、スタートアップフェーズまでのような少人数、限られた設備ではスケールアップした時のキャパシティに対応できなくなってきます。主に判断・検討すべき投資項目は以下の3点です。

①マーケティング・ブランディング投資
より多くの潜在顧客にリーチし、業界における自社のブランドポジションを確立していく必要があります。まずはマーケティングファネルにおける「未認知」から「認知」のステップに潜在顧客を引き上げるために4大マスメディアやWeb広告、SNS広告、業界メディアなど、様々な媒体を活用した広告・宣伝活動を行っていきます。もちろん、広告費を一切かけずに口コミなどで評判が広がっていくことも期待できますが、スピード感をもってスケールさせていくためには、一定の広告・宣伝投資を行い、一気に認知拡大を図っていくことも有効な手段と言えます。
さらにその次のステップとして、増えていく新規顧客をロイヤルカスタマー化していくために、ブランディングにも注力すべきです。ブランディングについての詳述は割愛しますが、前述の認知拡大だけでは十分なブランディングとは言えず、本質的には獲得した顧客が自社のファン化するように、サービスそのものの機能はもちろん、品質、人、社会、あらゆる面からブランド構築について検討します。

②設備投資
新規事業がものづくりの場合、量産に対応できる設備が必要になるため既存設備で賄えない場合は新たに設備を導入しなければなりません。
データサービス系の場合でも、大量のデータに対応できるシステムに強化したり、サーバやクラウドを構築するなどの検討が必要になるでしょう。
いずれにおいても、設備投資の検討は発生することが考えられ、その投資費用を自社で賄うか、外部から調達しなければならず、資金調達ができないと事業の成長は投資能力に左右されることになるでしょう。

③人材の獲得
スケールアップフェーズでは、メンバーの役割や責任を明確にし、それぞれが業務を遂行することで事業を運営していきます。そのため、より専門的なスキル・ノウハウを持った人材を育成することや、外部から採用することで人員強化を図っていく必要があります。ヒトに対する投資も計画に入れ、事業成長のネックが「人がいない」ということにならないようにしましょう。

(2)スケールアップの推進体制

スケールアップフェーズでは、これまでのフェーズと同じ体制ではスケールさせることは出来ません。スタートアップフェーズで足掛かりはついているので、企業としてしっかりこの事業を収益の柱としていくのであれば、独立した組織として組成し、メンバーも専任として配属します。メンバーはそれぞれ営業・製造・開発・マーケティング・事務など、明確に役割を設定し業務遂行します。
また、組織には予算も割り振り、チームに意思決定の権限も与え事業運営を任せていきます。管理指標としては、予算(売上高・コスト)だけではなく、顧客獲得コストやLTV、チャーンレートなど主要指標を明らかにしモニタリングしていきます。そうすることで、何がうまくいっていて、何を改善する必要があるのかについてのポイントを知ることができます。

スケールアップ(1→100)フェーズ

まとめ

新規事業をスケールアップさせていくためには、開発フェーズと異なる考え方をしていかなければなりません。新規事業はリスクを伴う挑戦ですが、挑戦しなければ成功もありません。自分たちの新規事業開発がどのフェーズにあるのか、課題は何なのかをしっかり検証し、状況に応じて臨機応変にリスク管理と適切な判断を行いながら進んでいくことで成功に近づけていくことができます。

著者

タナベコンサルティング
ストラテジー&ドメインコンサルティング事業部
チーフマネジャー

林 洸一

大手アパレルメーカーにて、ファッション・ユニフォーム・インナー・産業繊維など幅広い研究開発業務に従事し、当社入社。クライアントのコアコンピタンスを軸とした新規事業開発や事業戦略策定をはじめ、ナンバーワンブランド研究会サブリーダーとして、ブランディング・マーケティング領域においても企業価値を高めるコンサルティング活動を展開。

林 洸一

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