人事戦略との連携がストックオプション成功の鍵!
人事制度と連動させることでストックオプションの効果を最大化する。
ストックオプションと人事戦略の関係
本稿前編では、ストックオプションの種類や導入の流れについて解説してきたが、後編ではさっそくストックオプション成功の鍵となる人事戦略との連動について解説していく。
IPO準備企業がストックオプションの導入に期待する効果は、採用競争力の向上 ・モチベーションの向上・離職の低減などであり、人事戦略に深く結びついている。ストックオプションは報酬制度の一部であるため、人事戦略との連携を鑑みた導入が成功の鍵になる。ストックオプション導入時に人事戦略との連携で特に考慮すべきポイントは以下の3つである。
1. 労働市場の現状を鑑みた雇用ポートフォリオ形成に寄与
2. STIと連動するLTIのKPI設定
3. 期待パフォーマンスとストックオプションの付与基準との整合性
1. ストックオプション導入の留意点 :労働市場の現状を鑑みた雇用ポートフォリオ形成に寄与
多くのIPO準備企業は、採用戦略として優秀な人材を雇用するための【給与の代わり】にストックオプションの導入を検討する。それは、資金力に乏しい状況でもあっても、ストックオプションを活用することで労働市場の報酬水準と自社の報酬水準を調整することができるためだ 。
また、ストックオプションは【雇用ポートフォリオ】の形成にも役立てることができる。労働力人口減少により、直接雇用における労働力の確保のみでは事業推進が困難な今、外部協力者の活用を人事戦略の1つに据える企業が増えている。ストックオプションを外部協力者に付与することで、業績貢献にモチベートさせ継続的な協力関係を築くことができるためだ。
労働力人口が減少する一方で人材の多様性・流動性が高まる昨今、ストックオプションを労働市場の現状に適した報酬制度として活用し、雇用ポートフォリオ形成に役立てていくことが重要だ。
2. ストックオプション導入の留意点:STIにLTIの付与基準を連動させるKPI設定
日本は株式に対するリテラシーが高いとは言えない。そのためストックオプションを経営層以外の従業員にも配布しても、従業員がその効果がわからず付与されたメリットを感じられないことがある。結果として、経営者が期待していたモチベーションの向上等、人事戦略上の効果が得られないケースが見られる。
そこで、経営層以外の従業員に対し、ストックオプションを付与する場合は、従業員にとって一番身近である賞与、いわゆるSTIと紐づけることが重要となる。LTIの付与基準である業績目標や定量目標などをブレイクダウンしSTI評価に設定し、両者を密接に連動させることによって、従業員がSTIを通じてLTIであるストックオプションを継続的に意識するようになり、会社への貢献意欲を醸成していくことに繋がる。
3. ストックオプション導入の注意点:期待パフォーマンスと付与基準の整合性
ストックオプションは、優秀な人材の確保および離職防止施策(リテンション)としても活用されている。しかし採用時に期待していたパフォーマンスとストックオプションの付与基準に整合性が取れていないと逆効果になるケースがある。たとえば、採用時にストックオプションを一括で付与し、その後期待するパフォーマンスを出せなかった場合、他の役員・従業員は付与基準に疑問を感じ、不平・不満が生まれ、最悪の場合離職してしまう可能性がある。
パフォーマンスに応じてストックオプションを付与する方法としては「信託型ストックオプション」が適している。信託型ストックオプションでは、信託設定後に役員・従業員が獲得したポイントに応じて、新株予約権の割当て量を決定することができる。獲得するポイントには、会社の業績、勤続年数や個人の貢献度などの人事評価も考慮する。
適切なストックオプションの種類を選択すること、そして期待パフォーマンスと整合性のとれた付与基準を設定することが重要である。
ストックオプション成功の鍵は人事戦略との連動
ストックオプションは、IPO準備企業にとって有益な報酬制度である。
しかし、実際にIPO準備企業におけるストックオプションは成功と言えないケースが多々見受けられる。その理由は、前述のとおり、人事戦略と連動できていないからだ 。
ストックオプションを人事戦略と捉え、等級・報酬・評価・退職金などの人事制度と連携させることで、ストックオプションは真の効果を発揮することができる。
IPO準備段階は、事業戦略や業績などに注力せざるを得ない時期のため、そのような時にストックオプション制度を詳細に作り上げることを推奨しているわけではない。
それでも、ストックオプションはあくまでも報酬制度であることを忘れずに、今回ご紹介した3つの留意点だけは取り入れてほしい。
ストックオプション成功のカギは人事戦略と連動にかかっている。
関連情報
この課題を解決したコンサルタント
グローウィン・パートナーズ
執行役員
HRコンサルティング部 担当山本 怜美
グループ会社30社の採用・研修・労務・制度構築(等級・報酬・評価制度、海外勤務者制度、限定社員制度等)ならびにM&Aの労務デュー・デリジェンス、人事領域のPMI検討から、等級・評価・報酬・年金・退職金・システムの統合、従業員の移管(承継・転籍)に係る諸手続き、従業員コミュニケーション(交渉・説明会)、リテンション施策など多数プロジェクトを担当。
2019年 当社入社、プライム市場企業から中堅・中小企業の人事PMI・人事制度構築・システム導入プロジェクトを多数PMとして主導する他、セミナー講師を多数登壇。2023年よりHRコンサルティング部の部長職。
- 主な実績
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- 【人事制度構築】
- 老舗建設業の人事制度再構築プロジェクト(PM)
- 老舗運送業の人事制度再構築プロジェクト(PM) 他多数
- 【組織戦略】
- 社員数約2,500名の海運業のタレントマネジメント・システム導入要件定義およびタレントデータを活用したサクセッションプラン策定プロジェクト(PM)
- 【労務DX】
- 社員数約5,000名の就労システム・人事給与システム・契約書管理システム選定および導入システム支援プロジェクト(PM)
- 【労務DD/人事PMI】
- 不動産業、観光業、IT業、出版業、サービス業など計30件以上のプロジェクト実績(PM)
- 【人事制度構築】