人事コラム
職場の雰囲気の悪さはインシビリティ(礼節の欠如)が原因?
ハラスメントが起こりにくい職場をつくるコミュニケーション改善施策とは
「インシビリティ(礼節の欠如)」の考えを活用し、行動変容に繋げる
インシビリティとは、相手を傷つけようとする積極的意志は曖昧なものの、他人に対する思いやりや配慮を欠いた、失礼で無作法な言動のことです。
本記事では、インシビリティ(礼節の欠如)に着目し、そのメカニズムから行動変容のポイントまでお伝えします。
なぜあの人の言動は職場の雰囲気を悪くするのか?インシビリティ(礼節の欠如)による組織への影響と行動変容のポイント
なぜ今「インシビリティ」が注目されているのか
インシビリティとは、相手を傷つけようとする積極的意志は曖昧なものの、他人に対する思いやりや配慮を欠いた、失礼で無作法な言動のことです。
パワハラ発生の前段階に位置するものであり、改善の余地がある言動とされています。
インシビリティ行動の例
- 挨拶したのに無視する
- すれ違ったときに嫌悪感に満ちた表情で見つめる
- いじる、からかう
- 相手の意見に関心を示さない
- 相手の担当業務に関して、相手の判断を信用しない
- 未婚の人、結婚していてこどもがいない人に対して、「結婚しないの?」「こどもつくらないの?」と聞く
- 他の人のことは「さん」付けで呼んでいるのに、特定の人だけ「おまえ」「~くん」「~ちゃん」と呼ぶ
インシビリティな言動を受けたことがある日本人労働者は約半数に上るとされています(※1)。
さらに、インシビリティな言動を受けた人は、自身も他人に対してインシビリティをする傾向があることも報告されています(※2)。
このようにして、いわゆる「ギスギス職場」が蔓延してしまうのです。
組織のインシビリティを改善することは、グレーゾーンな言動を変えることであり、ハラスメントが起こりにくい職場づくりに有効なアプローチの1つとして期待できます。
※1 Tsuno K, Kawakami N, Shimazu A, Shimada K, Inoue A, Leiter MP. Workplace incivility in Japan: reliability and validity of the Japanese version of the modified Work Incivility Scale. J Occup Health. 2017 May 25;59(3):237-246.
※2 Eva Torkelson, Kristoffer Holm, Martin Bäckström, and Elinor Schad (2016)a Factors contributing to the perpetration of workplace incivility:the importance of organizational aspects and experiencing incivility from others
インシビリティがもたらす影響
個人への影響
【行為者】
行為者の意図が曖昧であることがインシビリティの特徴です。そのため、行為者には「傷つける意図がない」「自覚がない」ことがあります(※4)。
【行為を受けた側】
行為を受けた側は「嫌な気持ちになる」「パフォーマンスが下がる」「心理的ストレス反応やワークエンゲージメントが悪化する」といった影響を受けます。
研究では、インシビリティに該当する行為を受けた人のうち、20%近くが退職したことが分かっています。さらに、行為を受けた人は、自身も他人に対してインシビリティをする傾向があることも示されています(※5)。
【第三者】
第三者の立場においても、インシビリティに気が付いている場合には「インシビリティが起きる職場に居たくない」あるいは「自分も同じような振る舞いをしても許される」と思う傾向があります。
組織への影響
インシビリティの横行が常態化することによって、他部署にも悪影響を及ぼし、「組織としての生産性」や「ワークエンゲージメント」の低下に繋がります(※6)。
また、長期化により組織風土自体が悪化し、課題解決がさらに困難な状況になることも予想されます。

※4 Anderssen, L.M. and Pearson, C.M. (1999), "Tit for tat? The spiraling effect of incivility in the workplace", The Academy of Management Review, Vol. 24 No. 3, pp. 452-471.
※5 Eva Torkelson,Kristoffer Holm,Martin Bäckström,and Elinor Schad,Factors contributing to the perpetration of workplace incivility: the importance of organizational aspects and experiencing incivility from others,Work Stress. 2016 Apr 2; 30(2): 115-131. Published online 2016 Apr 21. doi: 10.1080/02678373.2016.1175524
※6 CHRISTINE M. PEARSON LYNNE M. ANDERSSON CHRISTINE L. PORATH, Assessing and attacking workplace incivility, November 2000Organizational Dynamics 29(2):123-137 DOI:10.1016/S0090-2616(00)00019-X
インシビリティはなぜ起きるのか?
インシビリティが起きる背景には以下3つの要因が潜んでいます。
要因①:性格特性
1つ目は性格特性です。「他者への共感性が低い」場合、「自分の言動によって他者がどのような気持ちになるか」を想像することが難しく、無意識のうちにインシビリティにあたる言動をしてしまうことがあります。
「他者への共感性が低い」という性格特性は案外ありふれたものであり、珍しいことではありません。
要因②:生育環境
2つ目は生育環境です。「インシビリティにあたる言動が当たり前の環境で育った」場合などが当てはまります。
自分の中では「普通」「当たり前」と思っている言動が、他者にとってはきついものであったり、失礼に受け止められることがあります。
要因③:個人の価値観(先入観・偏った価値観)
3つ目の個人の価値観は、その人の経験によって構築された価値観を指します。「若いうちの苦労は買ってでもしろ」「管理職は優秀であるべきだ」といった考え方は、それぞれの人生経験によって培われた価値観によるものといえるでしょう。しかし、このような価値観に基づいた言動が人を不快にさせることに気づいていないケースも、少なくありません。
さらにリーダーシップに着目した研究からは、ハラスメントを起こしやすい上司の特徴が分かっています。
特に「専制型」「脱線型」「放任型」と呼ばれる傾向の場合、部下とのコミュニケーションが取れておらず、インシビリティな態度が共通して見られます(※7)。
専制型リーダーシップ
「専制型」は部下を支配下に置き、全て自身の言うとおりにさせるタイプを指します。部下を追い込みすぎるが故に、メンタルヘルス不調にしてしまったり、自尊心を傷つけたりするだけでなく、怒りやフラストレーションを蓄積させることに繋がり、結果的に組織の生産性を低下させる可能性があります。
脱線型リーダーシップ
「脱線型」は、それまでは適切なリーダーシップを持っていたものの、新しい環境の変化に対応できなかった等の理由によって、管理職としての道から"脱線"してしまうタイプです。意図しないパワハラ的な言動が目立ちます。自身の利益を中心に考える傾向があり、何が部下や組織にとって良いかを考慮できないため、適切なマネジメントに繋がらない特徴を持ちます。
放任型リーダーシップ
「放任型」の特徴は、業務へのフィードバックをしないため、部下のモチベーションを高められない点が特徴です。コミュニケーションが希薄であることから、部下は「自分は嫌われているのではないか」「指導してくれないということは、自分を辞めさせようとしているのではないか」と不安になる傾向があります。適切な指示がないため、職場が不安定になり、社員同士の衝突が起きやすい状態になります。
部下や同僚に対し、普段は礼儀正しい態度を取れていても、繁忙期や余裕のない時期になるとインシビリティな言動が増えてしまうケースも多々見受けられます。
シビリティ(礼儀正しい態度)が増えてもインシビリティな行動が減るとは限りません。
根本的にアプローチするのであれば、インシビリティ行動をシビリティ行動に「置き換える」視点が大切になります。

※7 津野 香奈美「パワハラ上司を科学する」
まずは行動を変える、次に自分の認知に向き合う
ご紹介した3つの要因は、人それぞれ内容や比重が異なるため、一様にインシビリティに気づいたり、行動変容を起こしたりすることは容易ではありません。この章では、行動変容を促す際のポイントをお伝えします。
Step1. まずは行動を変える ーインシビリティをシビリティにー
インシビリティを無くすために、言動の根幹にある価値観を無理に変える必要はありません。
インシビリティと対になる概念として「シビリティ」があります。シビリティとは「相手に対する否定的/無礼な言動をしないという決定であり、社会規範を維持するための最低限の礼節がある言動」と定義されます。
シビリティの定義に精神性が含まれていないことからも、インシビリティをシビリティに変えるためには、その人の価値観を変えるのではなく、あくまで行動を置き換える点がポイントになります。
例えば、自分がイライラしている時に部下から話しかけられると無視してしまう場合には、「無視」を「5分待ってくれませんか」という返答に置き換えることでインシビリティは解消されます。
イライラしないようにするのではなく、イライラしている時の行動を置き換える考え方です。
Step2. 次に自分の認知に向き合う
自身の言動の中には「行動を置き換える」ことが難しいケースもあるでしょう。その場合は、言動の根幹にある自分の認知と向き合うことが効果的です。
人には誰でも、個人の持つ価値観によって、無意識に生じる考え方や感情があります。程度の差はありますが、誰にでもある考え方の癖のようなもので、自動思考と呼ばれます。
自身の価値観や自動思考によってインシビリティが起こっていることを認識し、行動変容に繋げることがポイントです。
自分の認知に向き合うための3ステップ
【気づく】
認知に向き合い、行動を変えるためには、自身の自動思考に気づくことが第1歩です。「絶対に~ない」「普通は」「〜べき」などのネガティブワードを手がかりに自分の自動思考へ意識を向けるとよいでしょう。
【止める】
自動思考に気が付いたらその考えを続けることを止めてみましょう。止めるのが難しい場合には、コーヒーを買いに行くなど、その場から離れる工夫も有効です。
【書き換える】
自動思考から咄嗟に出てくる言葉を飲み込み、「別の考え方は出来ないだろうか」と働きかけることで、行動を変えることに繋がります。思い浮かばない場合には、「尊敬する人ならば」「友達・親ならば」「絶好調の自分ならば」「今この瞬間から1年経った時は」と考えてみるとよいでしょう。
さいごに
無意識の行動を変えることは容易ではありませんが、「行動を置き換える」ことで、インシビリティからシビリティに変換することができます。
ピースマインドでは、インシビリティマネジメントⓇ研修をご提案しています。
本研修でアプローチするのは、職場風土や対人関係に悪影響を及ぼすようなギスギスしたコミュニケーションの改善です。
単に知識を学ぶだけではなく、実践的なロールプレイを通じてインシビリティでない行動パターンを獲得することができます。
詳細は以下のサービスページより、ご確認ください。
インシビリティマネジメントⓇ研修
※「インシビリティマネジメント」は、ピースマインド株式会社の登録商標です。
