退職金制度の移行する目的を明確に、
「既得権」と「期待権」の観点から押さえることが重要である。

退職金制度の現状
退職金制度は戦後から高度経済成長期にかけ終身雇用が広がる中、年功序列の賃金制度や勤続年数によって金額が積み上がる仕組みである退職金制度と働き方の親和性が高く、安定的・長期雇用が前提の労働環境下では上手く機能していた。
しかし、現代のような先行きが不透明な経営環境下の中、定年時に企業の財政悪化による積み立て金の不足により退職金が満額支払われない可能性や従来の年功序列的な価値観から、個人のキャリアアップや成長を重視する意識が強まり、1社で長く働き続けるという価値観が変化してきている。
そのため、タナベコンサルティングが支援する企業の中でも、社員が自ら掛金を積み立てていく確定拠出年金制度の導入や、退職金の前払い制度を検討する企業が増えている。
但し、定年時に支払うことを約束している退職金制度を変えることは不利益変更と受け取られてしまう可能性も高く、制度変更には細心の注意を払わなければならない。
本コラムでは退職金制度の移行時に注意すべき点について述べる。

「既得権」と「期待権」
退職金制度の移行において押さえておかなければならない点は「既得権」と「期待権」である。
1.既得権:制度改定前の退職金の総額を下げることや積み立て金額を下げることを指す。
既得権を侵害するケースとして例えば、現制度で1,500万円支払われる退職金が、制度移行に伴い1,000万円まで下げられることや、毎月積み立てている退職金額が2万円から1万円に減額になることを指す。
2.期待権:制度改定後の勤続に対する退職金を下げること(今後勤続しつづけた場合に貰えるであろう将来の退職金に対する保証)を指す。
期待権を侵害するケースとして例えば、3年後在籍していれば1,000万円支払われる退職金が、制度移行に伴い900万円まで下げられてしまうことを指す。
これらの観点を押さえる必要がある一方で、不利益変更は●額以上減額すれば不利益があると取られてしまうといったような定量的指標があるわけではない事も押さえていただきたい。
退職金を下げる必要性や新制度移行に伴うメリットについて労使間で十分に協議をしていくことが重要となる。
退職金は賃金制度の一種であることから、一例ではあるが、退職金制度は引き下げるものの、退職金原資を基本給に組み込み月々の給与を増やすということや、定年年齢の引上げにより雇用の確保と生涯年収の増加すると言った代償処置の内容について十分に検討し、労使間で協議を重ねていくことで必ずしも不利益と取られるわけではない。
これらを踏まえ制度移行を行う場合は、以下の3点を明確にしておく必要がある。
①制度移行に伴い「既得権」と「期待権」はどのようになるのか
②制度移行に伴いどのような不利益を被る可能性があるのか
③不利益がある場合の代償処置や経過措置

退職金制度移行に伴うポイント
退職金制度の移行に踏み切る場合は、「なぜ見直す必要があるのか」といったコンセプトを明確にすることから始めていただきたい。
若手社員のモチベーションや採用力確保の観点から退職金の一部を月例給に割戻し支給していくことは理にかなっているが、既存社員にとってはどうだろうか。
住宅ローンの支払いや老後の計画について退職金をもとに考えている社員も少なくないだろう。
退職金制度は金額も大きい場合が多く、社員の生活を左右する内容であるため経過処置の内容や制度導入のタイミングなど複数の視点から十分に検討を重ねていただきたい。
改めて自社にとって退職金が担う役割や目的を明確にしつつ、制度移行について検討を進めることが必要となる。
この課題を解決したコンサルタント

タナベコンサルティング
HRコンサルティング事業部
チーフマネジャー山中 惠介
- 主な実績
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- 大手小売業向け人事制度構築コンサルティング
- 製造業向け退職金制度再構築コンサルティング
- 建設業向け定年延長制度設計コンサルティング
- 飲食業向け人事制度構築コンサルティング
- 製造業向け人事制度再構築コンサルティング
- 中堅製造業教育カリキュラム再構築コンサルティング
- 福祉法人人事制度再構築コンサルティング
- 学校法人人事制度再構築コンサルティング