人事コラム
退職金制度を変更するポイントとは?
不利益変更の注意点と手続き
人事制度変更に伴う退職金制度の留意点を掴む!
退職金制度の移行する目的を明確に、
「既得権」と「期待権」の観点から押さえることが重要である。
退職金制度とは
退職金制度とは、社員が退職する際に企業から支給される金銭的な報酬のことである。退職手当や退職功労金と呼ばれることもある。退職金制度の導入は法律で義務付けられているわけではないため、制度を設けるかどうかや、具体的な支給ルールは各企業に委ねられている。一般的には、長期間勤務した社員に対する功労や、老後の生活資金の保障など、福利厚生の一環として広く利用されている。退職金制度があることで、社員の離職防止や、採用時における優秀な人材の獲得に繋がるメリットがある。
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退職金制度
退職金制度の現状と見直しのトレンド
退職金制度は戦後から高度経済成長期にかけ終身雇用が広がる中、年功序列の賃金制度や勤続年数によって金額が積み上がる仕組みである退職金制度と働き方の親和性が高く、安定的・長期雇用が前提の労働環境下では上手く機能していた。
しかし、現代のような先行きが不透明な経営環境下の中、定年時に企業の財政悪化による積み立て金の不足により退職金が満額支払われない可能性や従来の年功序列的な価値観から、個人のキャリアアップや成長を重視する意識が強まり、1社で長く働き続けるという価値観が変化してきている。
そのため、タナベコンサルティングが支援する企業の中でも、社員が自ら掛金を積み立てていく確定拠出年金制度の導入や、退職金の前払い制度を検討する企業が増えている。
ただし、定年時に支払うことを約束している退職金制度を変えることは不利益変更と受け取られてしまう可能性も高く、制度変更には細心の注意を払わなければならない。
近年のトレンドとしては、企業が運用責任を持つ「確定給付企業年金(DB)」から、従業員自身が運用を行う「企業型確定拠出年金(企業型DC)」へシフトする流れが加速している。また、勤続年数だけでなく、在職中の成果や貢献度を退職金に反映しやすい「ポイント制」へ移行し、社員のモチベーション向上を図る企業も増えている。
退職金制度の変更・見直しを検討するべきタイミング
企業が退職金制度の変更や移行を検討すべきタイミングとして、主に以下の3つが挙げられる。
タイミング①:人事制度を再構築する時
定年延長や、賃金・等級制度の見直し(年功序列から能力主義への転換)、非正規社員への待遇改善など、人事制度が大きく変わるタイミングは、退職金制度を見直す重要な契機である。
タイミング②:人件費の削減や財務負担を軽減したい時
退職金は企業の財務状況に大きな影響を与える。運用成果によって企業の負担が増大するリスクがあるDBから、毎月一定額を拠出すればよい企業型DCへ移行することで、将来の多額の支払債務リスクを減らし、財務負担を予測可能にできる。
タイミング③:従業員の満足度向上や採用力を強化したい時
公平な評価基準に基づくポイント制の導入や、転職時にも持ち運びができる企業型DCへの移行は、従業員のモチベーション向上や離職防止につながる。充実した制度への変更は採用時の強力なアピール材料となる。
退職金制度の移行に伴う不利益変更への注意
退職金制度の移行において押さえておかなければならない点は「既得権」と「期待権」である。
1.既得権:制度改定前の退職金の総額を下げることや積み立て金額を下げることを指す。
既得権を侵害するケースとして例えば、現制度で1,500万円支払われる退職金が、制度移行に伴い1,000万円まで下げられることや、毎月積み立てている退職金額が2万円から1万円に減額になることを指す。
2.期待権:制度改定後の勤続に対する退職金を下げること(今後勤続し続けた場合にもらえるであろう将来の退職金に対する保証)を指す。
期待権を侵害するケースとして例えば、3年後在籍していれば1,000万円支払われる退職金が、制度移行に伴い900万円まで下げられてしまうことを指す。
これらの観点を押さえる必要がある一方で、不利益変更は●額以上減額すれば不利益があると取られてしまうといったような定量的指標があるわけではないことも押さえていただきたい。
退職金を下げる必要性や新制度移行に伴うメリットについて労使間で十分に協議をしていくことが重要となる。
退職金は賃金制度の一種であることから、一例ではあるが、退職金制度は引き下げるものの、退職金原資を基本給に組み込み月々の給与を増やすということや、定年年齢の引上げにより雇用の確保と生涯年収が増加するといった代償措置の内容について十分に検討し、労使間で協議を重ねていくことで必ずしも不利益と取られるわけではない。
これらを踏まえ制度移行を行う場合は、以下の3点を明確にしておく必要がある。
①制度移行に伴い「既得権」と「期待権」はどのようになるのか
②制度移行に伴いどのような不利益を被る可能性があるのか
③不利益がある場合の代償措置や経過措置
退職金制度の条件を引き下げることは「労働条件の不利益変更」に該当するため、原則として従業員や労働組合の合意が不可欠である。合意が得られない場合でも、経営悪化による高度な変更の必要性があり、かつ不利益を補う代償措置が講じられている場合などは例外的に認められる判例もあるが、ハードルは非常に高いと言える。
退職金制度を変更・移行する際の手続き・5つのステップ
退職金制度の変更や廃止を行う際は、以下の5つのステップで慎重に手続きを進める必要がある。
ステップ①:目的の明確化
「誰」のために「何」を目的として退職金制度を見直すのか、自社にとっての退職金の役割を再定義する。
ステップ②:新制度の設計とシミュレーション
従業員の年齢層や企業の財務状況、将来のキャッシュフローを考慮し、持続可能な制度を設計する。「退職金規程」と「退職金積立制度」を分けて考えることが重要である。
ステップ③:従業員・労働組合への説明と合意形成
退職金制度の変更は、従業員への説明と合意が不可欠である。不利益変更となる場合は、代替案(代償措置)の提示を含め、誠実な説明を通じて合意書を取得する。
ステップ④:就業規則の変更と労働基準監督署への届出
自社の就業規則(退職金規程)を変更する。常時10名以上の従業員を雇用する事業場の場合、管轄の労働基準監督署へ就業規則変更届を提出することが義務付けられている。
ステップ⑤:運用体制の構築と従業員への情報提供
制度移行後の担当部署の設置や情報共有を行う。企業型DCを導入した場合は、従業員に対して継続的な投資教育を実施する義務が生じる。
まとめ
退職金制度の移行に踏み切る場合は、「なぜ見直す必要があるのか」といったコンセプトを明確にすることから始めていただきたい。
若手社員のモチベーションや採用力確保の観点から退職金の一部を月例給に割戻し支給していくことは理にかなっているが、既存社員にとってはどうだろうか。
住宅ローンの支払いや老後の計画について退職金をもとに考えている社員も少なくないだろう。
退職金制度は金額も大きい場合が多く、社員の生活を左右する内容であるため経過措置の内容や制度導入のタイミングなど複数の視点から十分に検討を重ねていただきたい。
改めて自社にとって退職金が担う役割や目的を明確にしつつ、制度移行について検討を進めることが必要となる。
よくある質問
- 経営悪化を理由に退職金を減額(不利益変更)できるか?
- 原則として従業員の合意が必要である。ただし、企業側に変更の高度な必要性があり、従業員の不利益を補う代償措置(退職金原資を基本給に組み込むなど)が用意されている場合などは、「客観的に合理的な理由」があると判断され、例外的に認められたケースもある。
- 人事制度の変更に伴い退職金を見直すと、会計に影響は出るか?
- 退職金の水準が変わる制度変更を行うと、退職給付債務が変動し「過去勤務費用」が発生する場合がある。この費用は、日本の会計基準において、平均残存勤務期間を超えない範囲で分割して費用処理することが認められている。
- 制度変更について従業員の合意が得られない場合はどうすればよいか?
- 支給水準が下がる不利益変更の場合、一方的な変更は後にトラブルへ発展するリスクがあるため避けるべきである。従業員の不利益をカバーする代替案(代償措置)を用意し、誠実に協議を重ねて理解を求める姿勢が不可欠である。
- 定年延長をする場合、退職金制度はどのように見直せばよいか?
- 主に「旧定年で退職金を一度打ち切るケース」と「新定年まで支給時期を延期するケース(給付額の固定、または積み増し)」がある。いずれを選ぶかによって企業の退職給付債務への影響が変わるため、シニア層に期待する役割や財務状況を踏まえた設計が必要である。
- 確定給付企業年金(DB)から企業型確定拠出年金(DC)へ移行するメリットと注意点は何か?
- 企業型DCのメリットは、企業の拠出額が確定しているため将来の財務負担が予測可能になり、企業側の運用リスクがなくなることである。一方、従業員自身が運用責任を負うため受取額が変動するリスクがあり、企業には継続的な投資教育の実施が義務付けられる。
- パートや契約社員などの非正規社員にも退職金を導入すべきか?
- 「同一労働同一賃金」の観点から導入を検討する企業が増加している。注意点として、導入前から在籍している非正規社員の「過去の勤続期間を通算する」設計にした場合、導入時点で多額の過去勤務費用などが発生し、会計に影響を及ぼすことがある。
- 退職金制度を完全に廃止することは可能か?
- 廃止は「労働条件の不利益変更」に該当するため、従業員や労働組合への誠実な説明と合意が不可欠である。廃止時点で発生している退職金を計算して適切に精算し、モチベーション低下を防ぐための代替手段を用意した上で、就業規則を変更し労働基準監督署へ届け出る手続きが必要となる。
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