ホールディングス設立のためのステップと考慮すべきポイント
- ホールディング経営
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近年、企業の経営戦略としてホールディングス(持株会社)の設立が注目されています。ホールディングスは、複数の子会社を統括し、グループ全体の経営効率や戦略的な意思決定を最適化する役割を果たします。しかし、その設立にはいくつかの手順と考慮すべきポイントがあり、これを正確に理解することが重要です。本コラムでは、ホールディングス設立の基本的なステップと注意すべきポイントについて解説します。
ホールディングスを設立する意義とは
ホールディングスを設立する意義・目的は各社各様ですが、大きく以下の5点が挙げられます。
1.経営資源の最適配分
ホールディングスを設立する最大の目的の一つは、経営資源を最適に配分し、グループ全体のシナジー効果を最大化することです。各子会社が持つ人材、技術、情報などのリソースを共有・活用することで、無駄を省き、効率的な経営が可能となります。
2.戦略的意思決定の集中化
グループ全体の戦略を一元的に策定・実行することで、市場の変化に迅速に対応できます。ホールディングスが中心となり、長期的なビジョンや戦略を明確にすることで、各子会社の方向性を統一し、競争力を高めます。
3.リスク管理とガバナンスの強化
ホールディングスは、グループ全体のリスクを統合的に管理できます。これにより、各子会社のリスク状況を把握し、適切な対策を講じることが可能となります。また、ガバナンス体制を強化し、法令遵守や内部統制の徹底を図ります。
4.財務戦略の最適化
資金調達や投資戦略をグループ全体で統括することで、資金の効率的な運用が可能です。ホールディングスが資金の配分を調整し、成長分野への投資を集中させることで、企業価値の最大化を図ります。
5.ブランド価値の向上
統一されたブランド戦略を推進し、市場での存在感を高めます。ホールディングスがブランド管理を行うことで、各子会社のブランド価値を高め、顧客からの信頼を獲得することが可能となります。
上記のような機能・効果を最大限発揮していくために正しいステップでホールディングスを設立する必要があります。
ホールディングス設立のステップ
ステップ1:現状分析
ホールディングスの構築は、大規模な資本の移動や、組織再編を伴います。まずはグループ各社の財務構造や自社株の評価額など、資本・財務の側面からの分析が必要になります。加えて、あるべきホールディングスを検討をする上で、現状の組織の機能や役割、人材(質・量)について分析し、把握することが必要です。
ステップ2:移転スキームの検討
現状分析による内容を踏まえて、具体的なホールディングス構築のスキームを設計します。
具体的なスキームは以下の通りです。
(1)株式移転方式...既存の事業会社の株式を新設の持株会社に移転する方法
(2)株式交換方式...既存の事業会社と持株会社間で株式を交換し、事業会社を持株会社の完全子会社とする方法
(3)会社分割方式...持株会社が既存事業を切り離して、新たな法人を新設する方法
それぞれのスキームにメリット・デメリットがありますが、現状分析を踏まえて自社のホールディングス化に相応しいスキームを選定することが求められます。
また、株式のみならず、各社が保有する現預金、不動産、金融機関借入(負債)も、いつ・どこまで・どのように移転するかを決めていくことが求められます。
これは、ホールディングスが株式保有特定会社のまま、株価が高額になることを防ぐためでもあります。特に中小企業だと、自社株対策のためのホールディングス設立するケースも多く見られますが、「株特外し」まで設計当初のスキームに組み込む必要があります。
また、こちらのステップについては顧問の司法書士・税理士の協力が必要となります。スキームにおける税務的な判断、設立に向けての法務的な判断については士業の方との密な連携も重要なポイントになります。
ステップ3:ホールディングスと子会社の収益構造設計
特にホールディングスの収益構造を設計することが重要となります。主なホールディングの収益源として、
(1)グループ子会社からの賃料収入
(2)グループ子会社からのシェアードサービス(総務・経理等)の手数料収入
(3)ホールディングス役員によるグループ子会社への経営指導に対する収入
が上げられます。ホールディングス、グループ子会社ともに安定した収益構造を生み出していくための手数料率の設定などがポイントとなります。
ステップ4:組織構造の設計
ステップ4は前述のステップ3と同時進行で検討していくイメージになります。
ホールディングス・グループ子会社含めた、グループ全体での組織構造の設計をします。ホールディングスと、各子会社の役割や責任を明確にするとともに、グループ間での連携をスムーズにするための組織体制を構築します。
ステップ5:グループ理念・パーパス・MVV・方針・計画の策定
最後でありながら、非常に重要なステップとなります。
グループ各社が「個社最適」な経営に陥らないよう、グループ全社共通の理念やパーパス、MVV(=ミッション・ビジョン・バリュー)を明確にし、共通の目的・目標を示すことが、グループシナジーの発揮のために必要です。MVV達成に向けた経営方針・経営計画の策定も同時に必要となります。
理念体系は策定するだけではなく、グループ全社員への浸透に向けた活動・施策も実施することでグループ本社への求心力を高めることも重要です。
留意すべきポイントは?
ポイント1:税務上の最適化
ホールディングスの設立により、グループ内での損益通算(最終赤字を計上したグループ会社がある場合)や配当金の非課税措置など、税務上のメリットが期待できます。しかし、複雑な税務規制が絡むため、税理士などの専門家と相談し、最適な税務戦略を策定することが必要です。
ポイント2:ガバナンス体制の構築
ホールディングスを敷く多くのグループにおいては子会社社長を従業員から抜擢したり、外部から招へいするパターンが多いです。そのため、グループ本社とグループ子会社との間で明確な責任と権限分担を定める必要があります。具体的には以下のような体制が考えられます:
(1)子会社の業績管理をするためのマネジメントライン(会議体)の構築
(2)業務分掌の見直しと、それに見合った決裁権限の再構築
(3)グループ本社からの役員派遣による経営指導
これにより、グループ全体の一体感を高めつつ、個々の子会社の自主性も尊重し、「手を離して目を離さない」ガバナンス体制を構築することが出来ます。
ポイント3:人材・資源の再配置
ホールディングスに移行することで、人材や資源の再配置は必ず生じます。経営層・現場ともに負担のかかる事項ではありますが、必要な事業・部門・経営資源をスクリーニングする絶好の機会とも捉えることが出来ます。グループの成長に向けた適切なリソース配分を行うことが重要です。
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