COLUMN

2026.04.06

親族内承継のあり方
―工業機器販売A社の道筋と成功の鍵

  • 事業承継

親族内承継のあり方―工業機器販売A社の道筋と成功の鍵

目次

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事業承継のパターンは、「親族内承継」・「社内承継」・「第三者承継(M&A)」の大きく三つに分類されますが、それぞれのパターンにも、各社の事情に応じた「十社十色」のストーリーがあります。なかでも親族内承継は、創業の理念や社風を受け継ぎやすい一方、相続や贈与、株式の集約、後継者育成、親族間の合意形成など、固有の課題が存在します。「親族だから何とかなる」と考えて着手が遅れ、その結果、税負担や資金繰り、組織の混乱を招くケースも少なくありません。
今回は、親族内承継に焦点を当て、実際の支援事例を通じて、親族内承継時に生じた課題と、その課題解決に向けた取り組みのポイントをご紹介します。

A社の親族内承継の事例

背景

A社は工業機器の販売を行う会社で、社長は65歳、後継予定者としてご子息がいらっしゃいました。
当時、社長は数年後にご子息に経営権を譲って事業承継を行う予定であり、日常業務に加えて社外研修などへの派遣を通じて、経営スキルの習得を進めていました。また、直近期には同社の周年記念プロジェクトのリーダーを任せるなどして、社内での求心力の醸成を図っていました。
しかし、ご子息の個人としての能力は育成されていても、現状は社長のリーダーシップにより社員をまとめており、社長が現在の経営基盤を大きく支える存在であることに変わりはありませんでした。 こうした状況下で、弊社は社長とディスカッションを重ね、近い将来に見込まれる事業承継に際して、現状の後継予定者であるご子息の資質や素養を鑑みると、残念ながらこのままでは適切なリーダーシップを発揮できる状態ではないという結論に至りました。また、社長の圧倒的なリーダーシップによって形成されている現在の経営スタイルから、ご子息が引き継ぐ次世代の経営スタイルを早期に確立していくことの重要性についても認識を共有させていただきました。

社長と共有した「経営人材育成に取り組まないことのリスク」

新たな経営スタイルを確立していくうえで、前述の状況を踏まえ、弊社は「後継者だけでなく、共に動く経営者人材の育成」を提言しました。そもそも経営とは、経営者一人の力で成し遂げるものではなく、経営理念をもとに組み立てたビジョンや経営計画を従業員とともに成し遂げていくことにあります。その際、社長の思いを従業員にかみ砕いて伝え、行動を促していく経営幹部人材の存在は非常に重要です。特に、これまで社長のリーダーシップに大きく依存していた同社の状況を踏まえると、後継予定者であるご子息を支える経営幹部人材の育成を重要課題として位置付けました。

その際、経営人材育成に取り組まないことのリスクとして以下の三点を社長にお伝えしました。

⑴経営陣として自社の未来を構築する視座とスキルの向上が停滞し、環境変化に適応できず、事業競争力が低下する。
→経営は環境適応業です。顧客ニーズや外部環境が大きく変化する中で成長を止めないための視点を学ぶ必要性をお伝えしました。
⑵未来志向と全社最適思考を併せ持つリーダーが不在となり、組織の柔軟性が損なわれ、活性化が阻害される可能性がある。
→過去の延長ではなく、顧客最適と全社最適の観点から組織を動かせる人材を育成する必要性をお伝えしました。
⑶経営人材が誤った判断をすることで、社員のモチベーションが低下し、生産性が低下することが懸念される。
→経営幹部が正しい現状認識と価値判断基準に基づき、適切な方向性を示す必要性をお伝えしました。

上記について社長にもご賛同いただき、今後の方針として、後継者であるご子息を支える各部門のリーダーが、経営的な視座を持って事業を推進し、後継者と各部門の次世代経営メンバーが一枚岩のチームとなり、組織的な経営スタイルを確立できるよう、取り組みを開始しました。

後継体制づくりにおける弊社からの提言と実施内容

今回の後継体制の構築にあたり、以下の点をご提言しました。

⑴次世代経営メンバーが経営の視座を養い、同社の将来を検討する場が必要であること。
⑵今回の取り組みに後継者も参画し、事業承継後の経営陣のチームワーク強化を図るとともに、後継者自身の意識改革とリーダーシップの発揮により、立場を確立する必要があること。
⑶今回の取り組みの中で、事業戦略検討に向けたインプットと、社長が考える同社のビジョンの具体化をプログラム内で実施し、単なる座学にとどまらない実践的な教育を行うこと。

上記をご提言し、社長の思いを実現し、ご子息へ引き継ぐための支援を開始しました。

大枠のプログラム内容は以下の通りです。
カリキュラムは全12回で、各回は半日で実施しました。事前課題や事後課題も設け、学びと成長の機会が途切れないように伴走しました。各回の開催時にあたっては受け身の講義だけで終わらないよう、アウトプットの機会を多く設け、学びの浸透や現場レベルへの落とし込みを図りました【図1】。

図1
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図1 出所:タナベコンサルティング作成

上記のカリキュラムに加えて弊社は支援を継続しており、体系化した経営人材育成カリキュラムに基づき、学びを日々の業務に落とし込み、PDCAサイクルを回す取り組みを継続した結果、後継者および次世代経営人材の成長が加速しました。彼らが自ら検討し策定した中期経営計画案の提言は、まさに次世代の経営スタイルを体現する内容となりました。今後は、この次世代メンバーが策定した中期経営計画をもとに、新体制へ移行する予定です。

さて、今回はA社の事例をご紹介しました。現経営者が承継時期をある程度定めていたため、その時期に向けた準備を、育成を通じて計画的に進めることができました。事業承継は多くの方にとって一度限りの経験であるため失敗も起こりやすいといわれています。創業から育ててきた会社を次の世代へ確実につないでいけるよう、後継体制にも目を向けていただければ幸いです。

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