人事コラム
中小企業の人事制度を「育成型」に変革する5ステップ
育成型人事制度構築のポイントをステップ別に押さえる
人事制度は、査定するためだけでなく、成長を促し組織成果につなげるためにあります。それは大企業に限った話ではなく、中小企業においても同様です。会社として求める要件を明確にし、各人の業務や成果、行動を評価し、処遇することが重要です。
なぜ中小企業に「育成型」の人事制度が必要なのか
中小企業では、一人ひとりの成果や成長が組織全体の業績に与える影響が大きい。そのため、人事制度の設計思想が企業成長に直結しやすい。にもかかわらず、実際には「とりあえず評価シートはある」「賞与査定のために年2回運用している」といった状態にとどまり、制度が十分に機能していないケースも多い。
従来型の制度では、売上や利益など短期的な業績指標に偏重しやすかったり、一般的な評価項目をそのまま使用しているために自社にあった内容になっていなかったりすることが多い。そのため、社員に期待する行動や能力開発の方向性が示されにくい。その結果、社員は何を目指して日々の業務へ取り組むべきか理解しにくくなり、評価そのものへの納得感も低下する。さらに、上司ごとの評価のばらつきが生じれば、制度への信頼は一層損なわれる。
だからこそ、中小企業には育成型の人事制度が必要である。評価を「賃金を決定するための仕組み」ではなく、「社員の成長を支援するための育成の土台」として再設計することで、社員の成長と組織成長の両立に繋がる。
中小企業の人事評価制度で起こりやすい課題
中小企業における人事評価制度には、いくつか共通する課題がある。
1点目は、目指すべき姿や等級別に求めることが曖昧、もしくは設定されておらず、各社員が何をすればよいか、何をしてはいけないのかが明確ではない点である。
2点目は、評価基準が抽象的であり、評価者によって属人的な運用になってしまう点である。特に、全社員の顔と名前が一致するような規模の場合は、個人の顔を思い浮かべながら人事評価を意図的に良くしたり悪くしたり、ルールにそぐわない運用をしてしまうことが良く見受けられる。
3点目は、評価項目や目標設定の内容が日々の業務と十分に連動しておらず、評価と業務の関連性が低く、評価や賃金の納得感が不足する点も挙げられる。
これらの課題を放置すると、制度は「存在するが機能しない状態」に陥る。したがって、制度見直しに際しては、単に評価項目を追加するのではなく、制度全体を構造的に再設計する必要がある。
中小企業の人事評価制度を「育成型」に変革する5ステップ
ステップ1:現状認識
最初に行うべきは、現行制度の分析である。現状の課題がどこにあるのか、何を解決しないといけないのかを網羅的に分析することである。①会社の組織や人材に関する考え方が明文化されているか、②目指す方向が人事制度に落とし込まれているか、③組織の人員構造がどうなっていて今後の見込みはどうか、④自社の評価制度は目指す方向とつながっているか、⑤賃金水準が自社内もしくは他社と比較してどうか、などである。
また、制度の有無そのものではなく、実際にどのように運用されているかも重要である。目標設定の内容、評価項目の妥当性、上司ごとの評価差、フィードバック面談の質、評価結果の決定プロセスなどを整理し、制度課題と運用課題を切り分ける必要がある。
ステップ2:人事ポリシーの定義
制度を育成型へ転換するうえでは、自社において人事ポリシー(目指すべき組織の姿やあるべき人材像)を明確にする必要がある。どういう組織や人を目指していくのか、それを明確にして、そこに向けた育成型の人事制度を検討する。中小企業においては、これが明確化されていないことが多い。最終的に人事制度を運用して実現したい組織や人材が明確でなければ、制度構築時や運用面においてブレが発生してきてしまうため、重要となる。
ステップ3:等級制度・評価制度・賃金制度の統合設計
人事ポリシーに従って、自社の目指す組織の姿や人材の育成を実現するための等級・評価・賃金を設計する。それぞれ独立したものではなく、すべて人事ポリシーに従った一貫性を持たせる必要がある。中小企業では、等級制度、評価制度、賃金制度が別々に存在し、連動していないケースが少なくない。しかし社員にとって重要なのは、「何を期待されているのか」「何を満たせば評価されて、昇格・昇給するのか」が明確であることである。制度一覧で全体像を理解できるレベルまで整理し、シンプルかつ運用可能な形へ落とし込むことが重要である。
ステップ4:評価プロセスの設計
制度の設計だけでは十分ではない。目標設定、中間レビュー、期末評価、フィードバック面談までの一連の評価プロセスを設計し、評価の方法を標準化することが求められる。特に中小企業では、評価者がプレイングマネジャーであるケースが多いため、制度が複雑すぎると運用が定着しない。各自(評価者・被評価者)が、期初・期中・期末においてどのように評価に向き合うべきかを整理しておく必要がある。また、各自の認識を揃えるために、評価者研修や評価会議を通じて、人事制度・人事評価に対する理解を促すことが重要となる。
ステップ5:運用PDCAで制度を浸透させる
人事制度は、制度構築で完成するものではない。社内に浸透し、各自が正しい目的を理解して運用することで価値を発揮する。中小企業では、最初から完璧な制度を目指すよりも、実際に運用しながら制度を進化させるほうが現実的であり、浸透率も高い。
制度設計で押さえるべきポイント
育成型の人事評価制度を機能させるには、いくつか押さえるべきポイントがある。
1点目は、制度を複雑化させないことである。評価制度が複雑で、評価項目や目標数が多すぎると、評価者も被評価者も制度を使いこなせない。
2点目は、制度運用を上司任せにしないことだ。評価のばらつきを抑えるためには、人事部門や経営層が制度運用を一定程度マネジメントする必要がある。
3点目は、制度の目的や内容について社員の理解を促進することである。制度への納得感は、設計そのものだけでなく、丁寧な説明によって大きく左右される。
まとめ
中小企業にとって人事評価制度は、単なる査定や報酬決定の仕組みではない。会社が目指す組織や目指す人材像を明確にし、そこに向けた社員の成長を支え、企業繁栄へ結び付けるための重要な経営基盤である。だからこそ、これからの人事制度には、単に成果を判定するだけの仕組みではなく、"育成型"の発想が求められる。
自社の規模や実態に応じて、人事ポリシーを明確にして等級制度・評価制度・賃金制度を統合的に設計し、運用を通じて改善を重ねていくことが重要である。中小企業こそ、人を育てる制度を持つ必要がある。なぜなら、それは人材の成長を促すだけでなく、企業の持続的成長そのものを支える仕組みだからである。
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