人事コラム

コンサルタント一問一答人事制度・人事処遇制度

中小企業の人事制度をゼロから構築する方法と
運用のコツ

働きがいと成長実感が定着率を高める。中小企業に必要な人事制度の本質とは。

中小企業が人材定着と育成を両立するには、公正な評価制度と成長を促すフィードバックが鍵である。
本記事では、働きがいを高める評価設計と運用の実践ポイントを解説する。

人事制度は策定して終わりではなく、自社の成長過程や今後目指すべき姿、社員に求める行動や能力を丁寧に整理した上で、社員の成長支援ツールとして活用することを目指す。

中小企業に人事制度が求められる背景

中小企業に人事制度が求められる背景

人材の確保と定着は、規模を問わずすべての企業にとって重要な経営課題である。特に中小企業においては、一人ひとりの社員が担う役割の比重が大きく、人材の流出が事業運営に直結する場合も多い。

こうした状況の中で注目されるのが「働きがい」である。働きがいとは、仕事を通じて得られる喜びや価値の実感であり、「成長・貢献の実感」と「働きやすさ」の両面から成り立つと考えられている。厚生労働省が実施した「働きやすい・働きがいのある職場づくりに関する調査」においても、評価・処遇制度や人材育成に関する取り組みが、社員の働きがいを高める傾向があることが示されている。

中小企業は経営者や上司と社員の距離が近く、一人ひとりの存在感が組織の中で際立ちやすい環境にある。この特性を活かすことで、社員が「自分はこの組織に必要とされている」と感じることができ、自分が組織の中で欠かせない存在であるという感覚を育みやすくなる。組織の中で個人が必要だと認識させることは、社員の成長意欲や貢献意欲を引き出す上で重要な心理的基盤となる。

また、経営資源の観点から見ると、「ヒト・モノ・カネ・情報」のうち、モノ・カネ・情報は時間の経過とともに価値が変動・減少する可能性があるが、「ヒト」は適切な育成と環境があれば、時間とともに価値が高まる可能性を持つ唯一の資源であると言える。この視点に立てば、人事制度は処遇を決める単なる管理ツールではなく、人材の不足を知り、成長につなげる仕組みとして位置づけることができる。

成長を促す評価制度の主な役割

成長を促す評価制度の主な役割

中小企業が人事制度を策定する際に特に重要となるのが、人事評価制度である。人事評価制度を設計する際には、「成果」「成果を生み出すための行動」「行動を支えるスキル・能力」「意欲・姿勢」の4つの軸から評価することが、バランスのとれた制度設計の基本とされている。

特に中小企業において重要なのは、評価の公平・公正さだけでなく、「社員の成長意欲を高めるフィードバック」が重要となる。点数をつけて終わりにするのではなく、評価結果を通じて社員が次の成長に向けた行動を描けるよう支援することが、制度の本来の目的といえる。

また、評価基準の設計においては、個人の能力だけを測るのではなく、周囲の模範となる行動や、他者への指導・支援といった組織貢献の側面を高く評価する仕組みを取り入れることが有効である。これにより、社員が「自分だけ成果を出す」ではなく「チームとして成果を出す」という意識に繋がりやすくなる。

さらに、評価調整会議(複数の評価者が評価結果をすり合わせる場)においては、単に点数を統一するだけでなく、「この社員をどのように成長させるか」を評価者が議論する場として機能させることが、制度の実効性を高める。評価者自身が部下の育成を考える習慣を持つことで、組織全体の人材育成力が底上げされる。

成長を引き出すフィードバックの実践方法

成長を引き出すフィードバックの実践方法

前述している通り、評価制度の効果を最大化するのは、フィードバック(評価結果を本人に伝え、次の行動につなげる対話のこと)の質である。フィードバックの場では、まず社員自身の自己評価を丁寧に確認することが出発点となる。「どのような取り組みをしたか」「その結果どのような成長があったか」「来期はどのような成果を目指したいか」「そのために何を、いつまでに、どのレベルで行うか」という流れを対話することで、社員が自ら成長の道筋を描けるよう支援できる。評価者と被評価者との関係性が近い場合は、日常会話の流れでフィードバックするのではなく、あらかじめ面談の日時を決めておくことや場を設定しておく等、普段のコミュニケーションとは切り替えて実施することも効果的である。

自己評価と上司評価にギャップが生じた場合は否定するのではなく、社員の話をじっくり聞いた上で原因・背景を深掘りし、次の評価期間に向けた成長課題と具体的な行動計画を一緒にすり合わせることが重要である。

また、成果そのものを称えることも大切だが、再現性を高めるためには「成果が出たプロセス」を具体的に認めることが効果的である。「何をしたから、どうなった」というプロセスへの着目が、社員の行動変容を促す。

評価を通して部下の自発性を促す

評価を通して部下の自発性を促す

評価を通じて部下の成長を促すためには適切な指導も重要である。
指導スタイルについては、ティーチング(知識・手順を丁寧に教える方法)とコーチング(本人が自ら考え答えを導き出すよう支援する方法)のどちらが優れているかではなく、社員の経験・能力レベルに応じて使い分けることが重要である。経験の浅い社員には丁寧な指導を、能力の高い社員には自律的な思考を促すアプローチが適している。

そして、フィードバックの場では「アドバイスをする」だけでなく、「一緒に頑張ろう」という姿勢で寄り添うことが、社員の安心感と意欲を引き出す上で欠かせない。経営者や管理職が率先して社員を認め、称える文化を組織全体に根付かせることが、人が辞めずに育つ職場づくりの土台となる。

自社に合った人事制度の構築と運用に向けて

人事制度を初めて策定する企業にとって、制度の導入は決して容易ではない。制度が整備されたことで既存社員に不満が生じたり、先輩社員が評価者となることで人間関係に影響が出るケースも起こり得る。

こうしたリスクを避けるためにも、断片的な情報や課題のみに着目して制度を設計するのではなく、自社の成長過程や今後目指すべき姿、社員に求める行動や能力を丁寧に整理した上で、自社の実態に即した制度を構築することが望ましい。

また、制度は構築して終わりではない。社員全員が制度の意図を正しく理解し、日々の業務の中で成長のツールとして活用できる状態を目指すことが、人事制度の本来の価値を引き出す上で不可欠である。

この課題を解決したコンサルタント

柴田 貴也

タナベコンサルティング
HRコンサルティング事業部
チーフマネジャー

柴田 貴也

大手人材派遣会社にて採用支援・人材育成事業に従事。その後新規事業の立ち上げで飲食・宿泊事業の責任者として従事した後、当社へ入社。「社員がイキイキと働き、主体的に取り組む組織作り」を信条のもと、戦略的な人事コンサルティングを行っている。

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