COLUMN

2025.11.17

PBR1倍割れがなぜ多いのか、
国内上場企業が取るべき
資本効率改善の着眼点

  • 企業価値向上

PBR1倍割れがなぜ多いのか、国内上場企業が取るべき資本効率改善の着眼点

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日本の株式市場においてPBR(株価純資産倍率)が1倍を下回る企業が多い現状について、東京証券取引所の要請を契機として、これ以上放置できない問題として取り上げられている。上場企業の半数以上がPBR1倍割れ、ROEが8%未満という厳しい現状を踏まえて、企業には資本効率に対する抜本的な意識改革と経営方針の転換が求められています。本コラムでは、PBR1倍割れの要因と企業が打つべき対策の着眼点についてご説明します。

PBR1倍割れ問題の概要

PBRは、株価を1株当たり純資産(BPS)で割った指標であり、企業の株式市場における価値がその純資産の額に対してどの程度評価されているのかを示します。PBR1倍とは、投資先の企業が解散したとしても理論上は投資した金額と同じ金額が戻ってくる状態を指し、清算価値と市場価値が均衡していることを意味します。よって、PBRが1倍を下回る場合、投資家から資本を効率的に運用できていない企業と見なされることが多いです。

日本国内においてPBRが低い企業が多い背景には、以下の要因が考えられます。

1.資本効率が低い
日本企業は欧米企業と比べてROE(自己資本利益率)が低い傾向にあります。資本コストを上回る資本収益性が達成できていないことが、市場評価を低下させていると考えられます。

2.成長期待が低い
約30年に渡って続いたデフレ経済や少子高齢化、市場の成熟化などにより、国内市場の成長期待が低いことが株価の低迷につながっていると考えられます。

3.株式市場の構造的問題
株式の流動性が低い企業が多く、海外の機関投資家含めた投資家からの注目を集めにくいことも要因となっています。

これらの要因を解消していくためには、資本効率の向上(ROEの向上)、期待収益率の向上(PERの向上)、そして株式の流動性の向上という3つの観点からアプローチしていくことが重要になります。

PBR向上のカギとなるROEとPERについて

PBRは以下の式で分解して考えることができます。

PBR(株価純資産倍率)=ROE(自己資本利益率)×PER(株価収益率)

この式からわかるように、PBRを向上させるためには、ROEとPERのいずれか、またはその両方を高めていくことが必要になります。

・ROE(純利益/株主資本)
企業が自己資本を活用していかに効率的に利益を創出しているかを測る指標です。ROEが高いほど資本収益性が良いと評価されます。

・PER(時価総額/純利益、もしくは、株価/1株当たり利益)
株価が1株当たり利益(EPS)の何倍で取引されているかを示す指標です。PERが高いほど、投資家の成長期待や市場評価が高いとされます。

PBR1倍割れとなっている要因が、資本収益性が低いことに起因しているのか、市場評価が低いことに起因しているのか、もしくはその両面かを分析することが、次のPBR向上に向けた対策を検討するうえで重要となります。

ROE・PER向上の着眼点

・ROE向上の着眼点

ROEは以下の3つの要素に分解することができます(デュポン分解)。
ROE=純利益率×総資産回転率×財務レバレッジ

(1)純利益率の向上
純利益率を高めるためには収益性を改善することが必要です。具体策としては、プライシング施策や付加価値の向上、コストダウンや不採算事業からの撤退などが挙げられます。

(2)総資産回転率の向上
総資産回転率を高めるためには、売上高の成長と資産圧縮が必要です。売上成長には既存事業の拡大に加えて、新規領域への展開、M&Aの実行などが施策の着眼点になります。資産圧縮は、不要資産の売却や運転資本の圧縮(在庫圧縮、CCC改善)などが対策として考えられます。

(3)財務レバレッジ
配当・自社株買いによる株主資本の圧縮と借入活用が財務レバレッジにおける着眼点になります。財務レバレッジが高いほど借入金や社債といった他人資本を活用していることになる一方で、財務リスクの上昇にもつながります。そのため、株主還元方針やキャッシュアロケーション方針の検討と合わせて、自社における最適なバランスを検討することが重要になります。

・PER向上の着眼点

(1)期待利益成長率の向上
投資家に対して将来獲得する利益の成長性を示すことがPER向上の鍵となります。成長市場への参入やイノベーションを通じて、成長事業からの将来の収益拡大を目指すことや、グローバルマーケットへの事業展開などが戦略オプションとして検討されます。

(2)資本コストの低減
資本コストを低減することは、すなわち投資家にとってのリスクを低減することと同義になります。資本コストを低減するためには、ガバナンスの強化による企業統治の透明性向上、ESGへの取り組み、投資家との積極的な対話(IR戦略)などが着眼点となります。

株式の流動性の低さが株式評価に与える影響について

上述の通りPBR向上には、ROEやPERなどの指標が注目されがちです。しかし、特に中小型株において株価が向上しない根本要因として流動性の低さがあります。そのため、ROEやPERの向上と合わせて、株式の流動性向上に向けた対策を合わせて立案・実行することが重要となります。
投資家は、「売りたいときに売れるかどうか」を重要視するため、流動性の低さが市場評価に影響すると考えられます。特に、機関投資家が流動性を重視する傾向があると言われるため、流動性の向上による機関投資家の参入障壁の解消が必要です。
株式の流動性向上の具体策としては、株式分割やIR活動の強化、コーポレートブランディングによる投資家認知の向上などが挙げられます。

PBRの向上に向けた着眼点をご紹介しましたが、事業戦略・財務戦略・非財務戦略が全て関係します。そのため、PBR向上に向けて自社が実行すべき戦略を総合的に組み立てることが重要です。よって、PBRや時価総額といった企業価値を示す指標の目標値を設定したうえで、多面的な観点から戦略の意思決定をすることが大切です。企業価値向上を目指すうえでの参考にしていただければ幸いです。

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