COLUMN
コラム
閉じる
SDGsは建設業の企業経営にとって避けられないテーマです。働き方改革、省エネ化など、業界全体の課題と関わりが深いのです。建設業の企業がSDGsを推進するステップと取り組みの事例を紹介します。
SDGsを活用して未来へのロードマップを描く
建設業にとって重要な3つの年
今後、建設業にとって重要となる3つの年は「2024年」「2030年」「2050年」です。この3つの年をマイルストーンとして自社のSDGsへ向けた取り組みを検討し、ロードマップを描きましょう。
1.2024年:罰則付きの時間外労働の上限規制が適用
2019年4月に施行された法改正で、時間外労働の上限規制が始まっています。建設業には開始までに5年間の猶予が与えられており、2024年4月1日から罰則付きの時間外労働規制が適用されます。
この「2024年問題」に向け、自社の「働き方改革」は進んでいるでしょうか。着手したものの、成果が出ていないという企業は多いのではないでしょうか。2024年まで残り2年を切った今は、もう「待ったなし」の状況です。
2.2030年:新設住宅・建設物はZEH・ZEB水準※の省エネ性能を確保
日本政府の「2050年カーボンニュートラル」宣言を受け、国土交通省・経済産業省・環境省は2021年に共同で「脱炭素社会に向けた住宅・建築物における省エネ対策等のあり方・進め方」を公表しました。その中では、2050年(長期)、2030年(中期)に目指すべき住宅・建築物の姿(あり方)が示されています。
2030年に関しては、「2030年以降に新設される住宅・建設物についてZEH・ZEB水準の省エネ性能が確保され、新築戸建住宅の6割に太陽光設備が導入されていること」とされています。
※ZEH(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)、ZEB(ネット・ゼロ・エネルギービンディング):建築物における一次エネルギー消費量を、建築物・設備の省エネ性能の向上、エネルギーの面的利用、オンサイトでの再生可能エネルギーの活用等により削減し、年間での一次エネルギー消費量が正味でゼロ、またはおおむねゼロとなる建築物。欧米諸国をはじめ世界各国がZEH・ZEBの実現と普及に向けてロードマップを作成し取り組んでいる。
3.2050年:ストック平均でZEH・ZEB基準の水準の省エネ性能を確保
さらに、2050年には、「ストック(中古の住宅・建築物)平均でZEH・ZEB水準の省エネ性能が確保され、導入が合理的な住宅・建築物において太陽光発電設備等の再生可能エネルギーの導入が一般的となること」とされています。
建設業にとって、「働き方改革」「省エネ対応」は避けられない現実として受け止め、ピンチではなくチャンスに転換していきましょう。
ロードマップ設計とサステナビリティビジョン策定
まずは、国土交通省・経済産業省・環境省が公表した「2050年カーボンニュートラルの実現に向けた住宅・建築物の対策」(2021年8月23日)を確認し、「脱炭素社会に向けた住宅・建築物における省エネ対策等のあり方・進め方に関するロードマップ」に沿って自社のロードマップを設計しましょう。
その際、「未来の自社はどうありたいのか、どうあるべきか」という2030年ビジョンを策定します。これを「サステナビリティビジョン」とし、そこにたどり着くためのロードマップを描くことが重要です。
マテリアリティー(重要課題)の設定とKPI(重要業績評価指標)の設定
ビジョンを実現するためのマテリアリティーとは
建設業がマテリアリティーを設定する上で外せないキーワードは次の3点です。
①脱炭素(カーボンニュートラル)
省エネ基準が見直される中、もはや当たり前となったZEH・ZEB対応に加え、自社の目指すビジョンに応じた設定をしましょう。例えば、地域に根差す企業なら、地元の自然や環境に関する取り組みを行うことで、地域社会との関わり方を示すことができます。
②働きがい
時間外労働の上限規制に向け、残業時間や出勤日数を管理するのは当然ですが、その際に重要なのは「人が集まる会社、人が活躍する会社への転換」という視点です。残業時間や出勤日数だけではなく、従業員満足度(ES)の向上が必要です。
建設業A社は、毎年ESアンケート調査を実施し、一定の水準に満たない部門については、部門長と経営者、人事担当者が連携して対策を立案。年度の部門方針に掲げて改善を行っています。
③ダイバーシティー&インクルージョン
2020年の全産業での女性雇用者の割合は45.3%であるのに対し、建設業は16.7%です(厚生労働省「労働力調査」)。働き手が不足する中、女性を含む多様な人材の活躍が求められます。
建設業B社では、現場監督業務の一部を女性社員が担うなど業務分担を実施し、入社1年目から活躍しています。結果的に現場監督の業務時間が減り、より多くの案件に関わることができるようになったことが、業績の向上につながっています。生産性の改善には、業務時間の短縮だけではなく、業務分担も視野に入れる必要があります。
KPI(重要業績評価指標)の設定
マテリアリティーを設定したら、その成果・効果を把握することが重要です。掲げたビジョンが実現しない企業では、成果・効果の測定が不明確であることが多々あります。設定したマテリアリティーにひも付くKPIを設定しましょう。
①脱炭素(カーボンニュートラル)のKPI
省エネ化に向けたKPIは、業種によって異なります。ビルダーはZEH・ZEB対応住宅の棟数をKPIにすべきです。元請けでない場合も、自社が関わった住宅・建築物の脱炭素の指標を設定しましょう。また、元請けであれば、自社の建設物に対するZEH・ZEB対応できる技術力(企画・設計)と協力会社に対する指導力が必要です。下請けであれば、元請けの求める知識・技術力が必要です。
②働きがいのKPI
業務時間の効率化という点においては、残業時間と年間勤務日数を全社共通のKPIにする必要があります。加えて、前述したESを指標にすることが望ましいです。
③ダイバーシティー&インクルージョンのKPI
女性・障がい者・外国人・高齢者など、多様な人材が活躍する会社を目指しましょう。全社員が活躍する会社づくりの土台は、経営トップの意思とリーダーシップです。経営トップ自らが推進に関わり、会社におけるダイバーシティー&インクルージョンの位置付けを高めましょう。
SDGsをチャンスに変え、進化した企業2社の事例
事例1:SDGsがつなぐ地域活性化事業
石川県で土木事業と建築事業を展開するC社は、SDGsを軸に事業を多角化しています。地域の中堅・中小建設業において「地域」というキーワードは外せません。同社はSDGsを通じて地域活性に取り組み、「地域活性化事業」を展開しています。社会を良くする企業には「資源(ヒト・モノ・カネ・情報)」が集まることを実感しているとC社の社長は言います。
同社の取り組みのポイントは3点です。
①現状の外部環境・社会課題を押さえた上で取り組むべき課題の本質を追及する
②経営者と社員の視座・意識をそろえ、社員が自主的にSDGsに取り組む環境をつくり出す
③中小企業が社内にSDGsを浸透させるには、ビジュアル化が必須
事例2:「間仕切り」で社会課題を解決
建設工事業・内装仕上げ工事業を展開するD社は、空間を区切るパーテーションを主に取り扱う企業です。同社は自社の強みを「間仕切り」と再定義し、その強みで、①コミュニケーションの活性化、②集中できる空間の創出、③地震対策、④騒音対策、⑤セキュリティー対策という5つの社会課題の解決へ挑戦しています。社会課題を起点に自社の強みを再定義することで、新たな事業展開が見えてくるのです。
同社の取り組みのポイントは3点です。
①研究をベースにした商品開発を行う
②SDGsに取り組み、パートナーシップの可能性を広げる
③SDGs推進の2本柱となる「内容の充実」と「広く周知すること」を同じ比重で実行する
著者
最新コラム
- 長期経営ビジョンの作り方とは?3つの手順とポイントをご紹介
- ビジョンと戦略 ーそれぞれの意義と役割
- 新規事業の成功事例8選|大手・中堅企業の例と共通するポイントを解説
- 新規事業の課題とは?一般的な課題と整理・分析の方法について解説
ビジョン・中期経営計画策定キーポイント
- 新規事業を成功させる市場調査のポイントと
進め方・方法について解説
- パーパス経営完全ガイド
~成功事例から社内浸透のポイントまで徹底解説~
- 新規事業開発・立ち上げ完全ガイド
~発想や進め方など重要なポイントを解説~
- ESG経営完全ガイド
~SDGsとの違いや経営に活かすポイントまで徹底解説~