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2025.11.20

物流事業者が2030年に向けて打つべき手

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物流事業者が2030年に向けて打つべき手

国土交通省の物流効率化法にもあるように、物流業界は2030年度に輸送能力が34%(9億トン相当)不足し、現在のようには物が運べなくなる可能性を示されています。これに対する政策パッケージが発信されてはいますが、物流事業者としても、国や業界の変化を活用したビジネスモデル転換による「収益構造転換」等の対策を推進する必要があるのではないでしょうか。物流事業者の本質的な課題、減少する輸送力を補うための方向性、変革の着眼など、2030年に向けて物流事業者が打つべき手を提言いたします。

物流業界の本質的課題と方向性

物流の本質的課題は"受注型・後工程"であること

物流業や製造・卸における物流部門は、バリューチェーンにおいて後工程になります。販売や製造等の前工程によって対する期間や量が決まり、その情報が急に入ってきても、急に変更になっても対応しなければならず、その対応のため協力会社に依頼することで多重構造を招いています。また、ビジネスモデルが受注型・後工程となることは、組織の風土や人材をも受け身型にすることが多く、実はこれが課題の本質です。ある港湾運送事業A社では、港湾事業と国内物流事業の2事業を有していますが、国内物流事業においては、上期の倉庫保管量が著しく落ち込むにもかかわらず下期顧客のために上期も倉庫を空けていました。案の定、物流事業部は赤字でした。20年以上前は物量も多く対価も費用以上に収受できていましたが、その体質のまま価格勝負で値段を下げて受注するため、現在は赤字となっていました。このように、長年の体質の影響で、組織・人材が受け身であり、新たなサービス創造や顧客への提案ができていないことが、業界の本質的課題ではないでしょうか。

方向性は"選ばれる理由づくり"

物流事業者は、今後、選ばれる理由を再定義しなければなりません。物流事業者は物流6大機能の対価を売上とします。例えば、関西から関東にモノを運ぶという「運送」は自社以外の多くの企業でも対応は可能であり、着日や品質が同じであれば運賃が安い方が選ばれるでしょう。大切なのは、顧客から"選ばれる理由"をあげていくことです。考え方は「物流」「ロジスティクス」「サプライチェーン」の視点で提案することで、荷主の購買~製造~販売の効率化を提案できる物流事業者があれば選ばれるはずです。物流事業者は事業区分を「運送事業」「保管事業」「貸切」「特積」等で区分する会社が多いですが、この分け方では新たな顧客には"強み""ノウハウ"が伝わりません。強み・ノウハウを伝えるには「建材物流」「食品物流」「長尺・大型物流」などの顧客視点での事業区分が有効です。そして、その実績・その事業に対するメッセージなどノウハウを魅せることがマーケティング・ブランディング活動になるのです。
物流事業者が自社の選ばれる理由を明確にし、それを実現した時にどのような会社になっているのかというゴールの姿がビジョンであり、そのために資源配分する重点が戦略となります。

物流業界の本質的課題と方向性

物流事業者の2030年に向けた重点

政策パッケージの内容とポイント

ご承知の通り、政策パッケージに挙げられている施策は大きく3カテゴリあり、① 商慣習の見直しについて6点、② 物流の効率化について13点、③ 荷主・消費者の行動変容について5点の計24の施策が挙げられています。
政策パッケージの内容は別途確認していただきたいのですが、輸送力の試算では2030年度には34%不足すると推計されており、その対策として「荷待ち・荷役の削減」で+7.5%、積載率向上で+15.7%、モーダルシフトで+6.4%、再配達削減で+3.0%、その他で+2.0%となり計 +34.6%の対策でカバーする方向性となります。

業界の動向を待つのではなく活用する

政策パッケージの施策の中でも、例えば「標準的な運賃」や「物流の標準化推進」「共同の推進」「荷主の経営層の意識改革・行動変容」などは、物流事業者側から荷主に向けて提案や啓蒙活動を行っていくことが必要です。また、「物流DXの推進」や「女性や若者などの多様な人材の活用・育成」には、自社における投資と採用・育成強化が必要不可欠です。
物流事業者は、国・業界が物流業界を変えていこうとしている今をチャンスと捉え、社内外を問わず変化を提案していくことが必要となっており、実際に各エリアで営業利益率5%以上の物流事業者は皆、ビジネスモデルの転換や無形資産への投資を推進しています。

収益構造を変えていく

ビジネスモデルの転換や無形資産への投資のためには、物流事業者の投資原資が必要です。
全国トラック協会の調べによると2023年度(令和5年度)の運送事業者100台以上の平均営業利益率は2.3%、減価償却が4.4%であるので償却前利益としても6.7%となります。
人件費が原価(39.7%)と管理(5.9%)を合わせて45.6%、燃料費が14.9%、修繕費が5.1%を合わせて65.6%を占めています。これから人件費は、増加の一途をたどることが想定されます。その中で投資原資をも確保するためには、高収益モデル構造への転換に着手しなければなりません。

物流事業者の2030年に向けた重点

2030年に向けて打つべき手

収益構造転換のための5つの施策

ビジョンの策定と発信

国や業界の動向を活用して2030年を通過点としてその先にどのような会社になるのか、明確にすることが必要です。ビジョンの策定と発信は、採用・定着、M&A(譲受側)にも効力を発揮します。

変動格差を無くす

12か月の物量・売上の安定が最も収益率を高めます。これは、投資原資の確保のためにも重要な要素であり、人材の定着にも効果を及ぼします。変動格差を取り除く、そのためには繁閑差の要因を掘り下げていくことが必要であり、過去からの前例主義ではなく断ち切る勇気がビジョンにも現れます。

業務フローの平準化と効率化

DXは手段であります。生産性を高めるためやBCP対応の阻害要因となる業務プロセスに目を向けてDX化や業務の外注などムダを削ぎ落す経営判断が必要です。

経営戦略人材の確保

ビジョン・事業戦略の策定や顧客・荷主への提案など、オペレーション人材だけではなく戦略人材も必要です。年商10億円に1名の経営戦略人材が目安となります。

専門人材の確保(CxO:chief Officer)

強化すべき専門人材として、CHRO(human resource)、CTO(Technology)、CFO(finance)、CMO(marketing)の優先度が高いです。中小・中堅企業では実績があるベテランではなく興味のある若手人材を担当として、実務を通じ育成していくことも有効です。

今、物流業界は、課題も多くネガティブなイメージになっている可能性もあります。
ですが、外部環境の動向を待たず、自ら変化を起こし、"選ばれる理由づくり"を再発信することで、関係者の誇りを醸成し選ばれる会社となることも可能です。選ばれる物流事業者を、ともに目指して参りましょう。

著者

タナベコンサルティング
上席執行役員
ストラテジー&ドメインコンサルティング事業部

土井 大輔

大手システム機器商社を経て当社に入社。2016年より“物流が世の中を支えている”と物流経営研究会を立ち上げ、物流業のサステナブルモデルを開発。“荷主側の経営課題”を把握した上で物流会社の事業戦略構築を得意とする。また、製造・卸売・小売・サービス・建設業の経営支援も数多く手掛け、熱意あふれるクライアントファーストの姿勢でのコンサルティング展開で多くのファンを持つ。全国理美容製造者協会やトラック協会(単県)など荷主側・物流事業者側での講演実績も多数。

土井 大輔

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