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2025.01.20

新規事業における価値提案型とは?
メリットや企業の事例を紹介

目次

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新規事業における価値提案型とは?メリットや企業の事例を紹介

新規事業を立ち上げるためのアプローチとして「価値提案型」がありますが、どのような思考法なのでしょうか。課題解決型と対比される価値提案型は、消費者に新しい価値を提供し、差別化を図りやすい思考法です。
この記事では、価値提案型の特徴とメリット・デメリット、有名企業での事例を紹介します。

新規事業における価値提案型のアプローチ

新規事業における価値提案型の思考法は、市場で顕在化していない課題(潜在課題)を掘り起こし、新たな価値を見出すアプローチです。顧客となり得るターゲットユーザー自身が問題点に気づかずにいる状況で、ユーザーが抱える課題を明らかにして解決策を提案することで、ユーザーに新鮮な感動を与えます。

消費者に自社価値を理解してもらうことが価値提案型のポイントです。
そのためにはサービス提供者の「思い」が欠かせず、消費者が価値に気づいてくれるまでのさまざまな施策が必要です。

アート思考

アート思考(Art Thinking)とは、既成概念にとらわれることなく、自らの価値観や現象に対して持つ感情から発想する思考法です。価値提案型の発想を支える考え方といえます。

企業の場合、自社が持つ情報やノウハウ・歴史・人材・業界での役割など、簡単に言語化できないものまで含めたリソース・経験値が存在します。
それらをベースにして発想すれば、他社とは差別化されたアイデアが自然に生まれるでしょう。
アイデアは言語化して明確に定義し、誰もが認識できる形にします。

課題解決型との関係

価値提案型と対照的な思考法として、「課題解決型」があります。課題解決型は、市場で顕在化する課題や消費者のニーズに着目し、市場の課題を解決することが新規事業の意義となるようなアプローチです。

価値提案型は自社価値から新規事業を発想するため目的(ゴール)が不明確になりやすい欠点があります。したがってアイデアをもとに課題を仮定したあとは、課題解決型のアプローチで目標設定とプロセスの明確化を行って欠点を補い、新規事業を軌道に乗せるアプローチが有効です。

新規事業における価値提案型のアプローチ

価値提案型に関連するフレームワーク

価値提案型で新規事業を発想する際に、有効なフレームワークを紹介します。
ターゲット層に対する自社の価値や市場でのポジショニングを分析し、新しい価値を定義するためのフレームワークです。

バリュープロポジションキャンバス

バリュープロポジションキャンバス(Value Proposition Canvas)とは、自社が提供する価値と顧客が求める価値の一致点を見出すために使用するフレームワークです。

1.顧客が求める価値
2.自社が提供する価値
3.競合他社が提供する価値

価値提案型に関連するフレームワーク

上記3つそれぞれの領域を円で表し、顧客が求める価値と自社の提供する価値がクロスする領域で、同時に競合の提供する価値がクロスしていない領域を見つけ出します。

この領域のサービスを提供することで、ターゲットユーザーに対して競合の影響を受けずに自社の価値を訴求できます。

アンゾフの成長マトリクス

アンゾフの成長マトリクスとは、市場と製品の組み合わせからなる4つの成長戦略を検討するために使用するフレームワークで、次の表で説明できます。

既存製品 新規製品
既存市場 市場浸透戦略 新商品開発戦略
新規市場 新市場開拓戦略 多角化戦略

「新規事業が既存市場と新規市場のどちらに参入するのか」「その市場に対して既存製品と新規製品のどちらを投入するのか」を決定することで、自社の成長戦略の位置付けを明確にできます。

SWOT分析

SWOT分析とは、企業の内部環境と外部環境それぞれのプラス要因とマイナス要因を検討し、自社の置かれている状況を明確化するために使用するフレームワークです。
次の表に示す通り、強み・弱み・機会・脅威の4つの要因を明確にします。

プラス要因 マイナス要因
内部環境 Strength
強み
Weakness
弱み
外部環境 Opportunity
機会
Threat
脅威

また「機会 × 強み」のように、上記4つの要因をそれぞれ組み合わせたクロスSWOT分析によって、強みを活かす戦略や弱みをカバーする戦略の立案が可能です。

VRIO分析

VRIO分析とは、以下の4つの側面から経営資源の競争優位性を分析するフレームワークです。

・Value(価値)
・Rarity(希少性)
・Inimitability(模倣困難性)
・Organization(組織)

Organization(組織)とは、ここでは経営資源を持続的に維持できる体制の有無を表します。

企業が歩んできた歴史や知的財産など他社からの模倣が困難なリソースは、模倣困難性が高いと判断できます。

STP分析

STPは、以下の3つのステップで市場の構造と自社の立ち位置を明確にするためのフレームワークです。

Segmentation(セグメンテーション):市場を細分化
Targeting(ターゲティング):ターゲット層を特定(ペルソナを含む)
Positioning(ポジショニング):自社の立ち位置を明確化

市場とターゲット層を特定し、そのうえで他社と自社との関係をポジショニングマップを用いて明確にすることで競合を回避し、自社を差別化できます。

価値提案型に関連するフレームワーク

新規事業における価値提案型のメリット

価値提案型は、潜在ニーズを掘り起こして新しいサービスや市場、価値観を作ります。
顧客は同様のサービスを体験したことがなく、他社も参入していないため、新規事業は最初から明確に差別化されたものになるでしょう。

自社の事業が市場で先行する形になるため、シェアの拡大やブランディングが容易になる傾向があります。また、自社価値を起点として発想された事業のため、他社が模倣することが難しく、競合の参入を遅らせることが可能です。

新規事業における価値提案型のデメリット

価値提案型は自社価値の提案がベースになっており、顧客側からの発想ではありません。バリュープロポジションキャンバスによって自社価値と顧客価値の整合が取れている場合は、デメリットが少ないでしょう。

整合していない場合は、自社が提供する価値と消費者が求めている価値との相違が問題となります。
消費者不在の提案は、価値の押し付けとなって共感を得ることができません。これは売上にとってもブランディングにとっても、大きなデメリットとなるため注意が必要です。

新規事業における価値提案型のデメリット

価値提案型の新規事業の事例

価値提案型の新規事業として、有名企業の事例を紹介します。
日頃の営業活動のなかで潜在ニーズに気づき、新規事業に展開したケースもあります。参考にすることで、日報の共有などで営業活動を経営に活かすことが可能です。

暮らしまるごと戦略|株式会社ヤマダホールディングス

家電量販店を展開するヤマダホールディングスは、IoTの普及とともに住宅で家電やインテリアの買い換え需要が見込まれる状況から、住宅業界の複数の業種に参入しました。IoTに対応した注文住宅、インテリア、IoT化を含めたリフォームなど、ヤマダだからできる暮らしの提案「暮らしまるごと戦略」の展開です。

家電・インテリアの商品だけでなく、それらをまとめ買いする機会としての注文住宅の購入やリフォーム、さらに損害保険や生命保険にも着目して、暮らし方全体をサポートするバリューチェーンを構築しています。

らくぴた送迎|ダイハツ工業株式会社

ダイハツ工業は、高齢者や介護需要の増加を背景として、自社のリソースを活用して展開できる送迎サービスに参入しました。「らくぴた送迎」と名付けられたこのサービスでは、機動性のよい自社の小型乗用車を活用しています。

手すりやステップなど高齢者でも乗り降りがしやすい装備を施した小型車を使用し、スマートフォンアプリで送迎を予約・管理できるシステムを構築しました。
高齢者が自宅から目的地まで自由に移動できる運用体制を整備するとともに、介護施設とも連携して送迎業務全体の効率化を図るDXを実現しています。

AbemaTV|株式会社サイバーエージェント

インターネット広告やゲーム事業を展開するサイバーエージェントは、テレビ朝日との共同によるまったく新しいインターネットTVサービス事業「AbemaTV」を立ち上げました。国内で唯一、24時間編成のニュース専門チャンネルを設けたほか、ドラマ・アニメ・スポーツなど多彩なジャンルで、オリジナルを含むコンテンツを24時間365日放送しています。

無料視聴・有料オンラインライブ・サブスクリプションのプレミアムサービスなど、各種のサービスを用意し、新しいユーザー体験を提供して需要を創出しています。

まとめ

新規事業における価値提案型のアプローチは、自社の価値を活用して新しい市場を開拓することから、イノベーションが生まれやすい思考法といえます。

消費者が気づかない潜在ニーズを掘り起こして提案することで、新たなユーザー体験を提供し、企業の先進的なイメージを消費者に与えることが可能です。

著者

タナベコンサルティング
取締役
ストラテジー&ドメインコンサルティング事業部

村上 幸一

ベンチャーキャピタルにおいて投資先企業の戦略立案、マーケティング、フィージビリティ・スタディなど多角的な業務を経験後、当社に入社。豊富な経験をもとに、マーケティングを軸とした経営戦略の立案、ビジネスモデルの再設計、組織風土改革など、攻守のバランスを重視したコンサルティングを数多く手掛けている。高収益を誇る優秀企業の事例をもとにクライアントを指導し、絶大な信頼を得ている。中小企業診断士。

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