COLUMN

2026.04.06

投資家評価を上げるIRの要点
【資生堂・東亜のIR事例】

  • 企業価値向上

投資家評価を上げるIRの要点【資生堂・東亜のIR事例】

目次

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国内企業の企業価値は世界的に見て低い状態であり、日本企業に対する投資家からの見られ方は厳しくなっています。そんな中、2025年7月に東証が、株主や投資家との関係構築に向けた情報提供体制(IR体制)の整備義務を定めました。一方で、発信している資料や情報は適切にまとまっており、開示がなされているものの、個別面談やIR説明会における回答内容の論拠が整っていない、一貫性がないなどの意見が出るケースが増えていることから、体制整備のみならず、実効性のあるIR活動を行うことが求められています。

本コラムでは、事例研究を通じて投資家から期待を得るIR活動の要旨をお伝えしてまいります。

IR活動の目的

IR活動の大前提は、企業と投資家の情報の非対称性を解消し、企業が市場から適正な評価を受けることにあります。従来は決算説明や業績見通しの開示などの財務情報の提供が中心でしたが、今求められているのは企業の持続的な成長性や成長性を実現するストーリー、競争優位性を理解してもらうことです。

投資家は投資対象企業の将来性や魅力を感じることにより、投資判断を行うのであって、至極当然の考え方だと思います。しかし、IR活動を行っている企業が開示している資料をひも解くと、戦略に関する具体性のなさやPBR向上に関する施策が不明瞭など、投資家が求めている情報を適切に理解していないために、企業都合の見せ方になっているというケースが散見されます。このような状態になっているのは「企業価値」や「投資家の求めている情報」に標準的な答えはなく、ステークホルダーや業種・業態によって異なるという難しさがあるからです。

企業視点での情報開示では投資家の期待を満たすことは難しいため、積極的に投資家と対話の機会を持つ体制を整えることで、各企業に求められている要素を適切に把握することが求められます。

企業価値とは財務価値と非財務価値の総和です。従来の財務価値を発信するのみならず、社会貢献価値や人的資本投資へのスタンス、コーポレートガバナンス体制などの非財務価値に対する考え方を押さえなければなりません【図1】。

図1
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図1 出所:タナベコンサルティング作成

したがって、IR活動において重要となるのは、
①単純な情報列挙ではなく、企業が何を目指し、どのような戦略を持って成長していくのか、さらには社会に対して果たすべき使命・価値は何かという「ストーリー」を持つこと
②投資家との直接的な対話機会を持つことと、対話を行う仕組みを整備すること
上記2点に集約されます。
本コラムでは②の投資家との対話について事例をもとに考察してまいります。

事例から見るIR活動のポイント①

投資家との対話体制(東亜建設工業株式会社)

海上土木、陸上土木、浚渫や埋立などを展開する総合建設業である東亜建設工業株式会社は、企業価値の指標であるPBRの向上を目的として、コーポレートコミュニケーション部というIR戦略専門の部門を新設した。SRやIRの経験者や、英文開示に対応できる要員を集約・増員し、海外投資家も視野に入れたIR活動の強化に取り組んでいる。当該企業はBtoB企業であるが、認知度が低い個人投資家や海外投資家に向けたアプローチの施策や体制を展開することで、対話を強化し、認知度の向上を図ることを目的としている。その取り組みは図2に示している。本施策の開示前後におけるPBRの推移は図3に示している。PBRは、資本効率性を示すROEと、株価収益率であるPERの積である。同社では、ROEよりもPERの上昇の方が大きく、PBR向上の主要因は、成長期待の高まりによる株価収益率の上昇であったと考えられる。したがって、本施策の開示は企業価値向上に結びついたと考えられる。

図2:東亜建設工業株式会社 2025年3月期通期決算説明会資料(2025年5月20日)
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図2:東亜建設工業株式会社 2025年3月期通期決算説明会資料(2025年5月20日)

図3:SPEEDAを基にタナベコンサルティング作成 図3:SPEEDAを基にタナベコンサルティング作成

本事例から学べるポイントは、幅広いステークホルダーへのアプローチを実践し、組織機能を独立させて強化するという姿勢を投資家に発信した点である。多くの企業は、経営企画室の一機能としてIR活動を行っているため、IR活動を担う人的リソースが不足し、社長の特命事項などの特別案件を主に担当する傾向がある。その結果、IR施策を十分に検討し、展開することができない事態に陥りやすい。IR強化を戦略施策の一つとして位置付け、対外的に発信し、宣言する姿勢は見習うべきである。

事例から見るIR活動のポイント➁

対話機会の創出と反映(株式会社資生堂)

化粧品大手の資生堂は統合レポートにて投資家との対話回数と投資家から上がった声を基に経営活動にどう反映したかを発信しています【図4】。同社は個別ミーティングの実施回数が年間500件~600件と多く、面談対応にCOO含む経営層が直接対応することで企業として投資家に対して向き合う姿勢の強さがうかがえます。また、新たな事業戦略に関する説明会や社外取締役との対話イベントの実施につなげるなど、対話から得た意見を基に施策に反映している点も評価に値します。

図4:株式会社資⽣堂統合レポート2024(2024年12月期)
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図4:株式会社資⽣堂統合レポート2024(2024年12月期)

本事例に学ぶポイントは、投資家との対話スタンスの高さと意見反映の柔軟性です。決算説明会などの、定例的に実施するIRイベント以外に様々な対話機会を設けることと、そこから得た意見を即時、施策に反映する姿勢は、投資家との対話の透明性が担保され、評価を得やすい状態となっていると言えるでしょう。

最後に

企業のIR活動は投資家からの期待を得ることで、ブランド力の向上、経営の健全化を図ることができる成長戦略の一環であると言えます。
事業ポートフォリオ変革やM&A、事業開発などの成長戦略を実現し、事業そのものの価値を高めることで経済価値を向上させることは企業経営において必須要件となりますが、現代における企業価値は経済価値と非財務価値の総和であり、非財務価値の向上も戦略として展開していくことが国内企業には求められています。実際に東証や国が警鐘を鳴らしている状態を鑑みると、企業としても対応を進めていく必要があります。
あまたの上場企業がIR戦略を十分に実施できていないからこそ、いち早く対応していくことで競合との差別化を図る要素ともなり得ます。
本事例研究で学んだポイントを自社に活かし、企業価値を高める施策として展開いただきたいと思います。

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