DXが停滞する本当の理由は「人」ではなく「構造」にある
DXが思うように進まない企業は少なくありません。DXが進まない本当の原因は、「担当者の力量」や「現場のやる気」ではなく、DXを進める構造そのものにあります。
システムを導入しても業務が変わらない、現場に「仕事が増えた」と受け止められる、推進担当者が孤立する、成果が見えず、取り組みが継続しない、部門ごとの最適化にとどまり、全社で活用されない。こうした課題は、多くの企業に共通しています。
つまり、問題は個人ではなく、目的・推進体制・連携・評価の設計にあります。
DXを前進させるには、まずこの構造的な課題を正しく捉え、業務の進め方や意思決定の仕組みそのものを見直す視点が欠かせません。
なぜツール導入だけではDX推進に失敗するのか
DXが止まる典型例の1つが、ツールの導入そのものを目的にしてしまうケースです。RPAやSFA、グループウェアを導入しても、業務プロセスや役割分担、既存の帳票運用が変わらなければ、現場には負荷だけが残ります。
重要なのは、何を導入するかではなく、導入によって「どの業務」を「どう変えるのか」です。
たとえば、「システムを入れる」こと自体を目的とするのではなく、「見積もり依頼への対応を早める」「転記作業をなくす」「情報共有を円滑にする」といった経営上・業務上の成果につなげてこそ、初めてDXは意味を持ちます。
ここからは、DXがうまく進まなかった企業と、推進方法を見直すことで成果につなげた企業の事例を紹介します。ツールやシステムそのものではなく、その背景にある目的、推進体制、業務設計に注目しましょう。
卸売業A社の事例:ツールを導入しても現場に定着しなかった理由
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A社では、経営層の号令のもと、新しい業務ツールを導入しました。しかし、導入の目的や、これまでの業務をどのように変えるのかという方針が現場に十分に共有されないまま、操作方法の研修だけが実施されました。
現場からは「入力作業が増えた」「従来のやり方のほうが早い」といった声が上がり、利用率は約1割にとどまりました。結果として、紙やExcelを使った従来の運用に戻り、ツールが活用されない状態に陥りました。
この事例から分かるのは、ツールを導入するだけではDXは進まないということです。導入によって何を実現するのかを明確にし、新たな作業を追加するだけでなく、これまでの業務のうち「何をやめるのか」まで設計する必要があります。
DX推進で現場を動かす鍵は「指示」ではなく「納得」
経営者が掲げる「生産性向上」「利益率改善」といった方針は、妥当である一方、抽象度が高く、そのままでは現場は動きません。現場を動かすには、経営方針を日々の業務に落とし込み、具体的に伝える必要があります。
たとえば、「入力作業が減る」「手戻りが減る」「顧客への回答が早くなる」といった、日々の業務で実感できるメリットに置き換えて初めて、現場の納得と協力を得られます。DX推進リーダーに求められるのは、まさにこの翻訳です。
さらに、関係者の巻き込みは、単なる依頼では実現しません。関係者に「やってください」と依頼するだけでは不十分です。「なぜ必要なのか」「誰にどのようなメリットがあるのか」を共有し、それぞれの役割を明確にしたうえで、納得感を醸成することが重要です。
ここからは、「目的の翻訳」と「関係者の巻き込み」によって、停滞していた取り組みを立て直した事例を紹介します。
製造業B社の事例:目的と業務を見直し、DXの成果につなげた方法
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B社では、営業活動を効率化するために営業支援システムを導入しました。しかし、既存のExcelへの入力作業が残ったままだったため、営業担当者には二重入力の負担が生じていました。また、DX推進担当者が1人で各部門との調整を担っており、社内から十分な協力を得られないことも課題となっていました。
その結果、システムの利用率は約2割にとどまり、導入効果を十分に得られませんでした。
そこでB社は、システムへの入力を徹底させることではなく、「顧客からの見積もり依頼への回答を早めること」を共通の目的として設定しました。あわせて、重複していた入力作業を廃止し、経営陣と、営業部門をはじめとする関係部門が参加する部門横断会議を設けました。
その結果、これまで平均3日かかっていた見積もり依頼への回答期間を1日に短縮できました。システムそのものではなく、導入目的、業務プロセス、部門間の連携体制を見直したことが、成果につながった事例です。
DX推進リーダーの役割とは?経営・現場・ITをつなぐ推進体制
DXは、1度成功事例をつくれば終わりというものではありません。継続的な社内改革を進めるためには、人と仕組みの両方が必要です。
DX推進リーダーは、経営・現場・ITをつなぐ「変革のハブ」としての役割を担います。具体的には、経営の意図を現場の行動へと落とし込む「翻訳者」、部門を越えて関係者を巻き込む「推進者」、成果を可視化して継続的な改善を促す「実行管理者」という3つの役割を担います。
重要なのは、DX推進リーダーが必ずしもITの専門家である必要はないという点です。プログラミングなどの専門知識を持っているかどうかよりも、経営と現場の双方の言葉を理解し、両者をつなぐ力のほうがはるかに重要です。ここからは、このような推進役を配置することで、部門間の分断を解消し、DXを全社的な取り組みへと発展させた事例を紹介します。
専門商社C社の事例:DX推進リーダーが部門をつなぎ、データ活用を定着させた方法
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C社では、DX推進リーダーを配置したことで、部門ごとに分断されていたデータを連携させ、在庫・受注の全体像を把握できるようになりました。月次ダッシュボードを部門共通の情報基盤として活用する文化も定着し、「DXは情報システム部門だけの仕事である」という認識が薄れたことも大きな成果です。
DX推進は身近な業務改善から始め、成果を全社へ広げる
DXを進めるうえで、最初から全社一斉の改革を目指す必要はありません。むしろ、改革の規模が大きすぎると、取り組みを進めにくくなります。重要なのは、小さく始めて成果を見せることです。
実践の順番は、①現状を振り返る、②理想の姿を描く、③優先テーマを1つに絞る、④小さく試す、⑤関係者を巻き込み、取り組みを広げる、という5つのステップです。ポイントは、重要なことをすべて1度に行うのではなく、実行しやすいテーマから取り組むことです。
ここからは、大規模な計画を見直し、小さく実行できるテーマに切り替えることで、改革を前進させた事例を紹介します。
設備工事業D社の事例:小さな成功を起点に、次の改革へつなげた方法
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D社では、全社の基幹システムを一斉に刷新する計画を立てていました。しかし、対象範囲が広く、部門ごとの要望も多かったため、検討や調整に時間がかかり、約2年間にわたって具体的な取り組みを開始できない状態が続いていました。
そこでD社は、全社改革を1度に進めるのではなく、現場の負担が大きかった日報作成業務のデジタル化にテーマを絞りました。まずは1つの部署で2か月間試行運用し、日報の記入方法や承認の流れを見直しました。あわせて、日報の内容を別の帳票へ転記する作業を廃止しました。
その結果、対象部署では残業時間を月20時間以上削減できました。成果が具体的な数値で示されたことで、ほかの部署からも「自分たちの業務も改善したい」という声が上がるようになりました。
大規模な改革を最初から目指すのではなく、小さな課題から着手し、成果を社内に示すことが、次の改革を推進する原動力になった事例です。
DXを全社的な改革につなげるために、経営者が持つべき3つの視点
DXを単なるIT導入で終わらせないためには、経営者が次の3点を押さえる必要があります。
第一に、DXの成否を左右するのは、人ではなく構造であると認識することです。
第二に、ツールの導入そのものではなく、業務の変革と成果の創出を目的とすることです。
第三に、小さく始めて成果を可視化し、その取り組みを支える人材を育成するとともに、仕組みを整えることです。
DXは、誰か1人の頑張りで進むものではありません。経営・現場・ITをつなぐ推進役を配置し、目的を現場の業務に落とし込み、関係者の納得感を醸成しながら、取り組みを全社へ広げていくことが重要です。
こうした推進体制があって初めて、DXは「誰かの仕事」ではなく「自分たちの仕事」になります。
DXを形にするには、単発の施策にとどめるのではなく、推進体制や実行プロセスを社内に組み込むことが欠かせません。
タナベコンサルティングの「DXリーダースクール」は、DXビジョンの整理から実行計画の策定までを通して、社内でDXを推進するための考え方と実践的な手法を学ぶプログラムです。
詳細は以下をご覧ください。
https://www.tanabeconsulting.co.jp/seminar/management-dx/
