物流業におけるROIC改善事例を解説!
企業価値を高める方法とは?
- 資本政策・財務戦略

閉じる
産業商品を適切なタイミングで、適切な場所に届けることで、供給と需要を調整し、社会や経済基盤を支えることこそが物流業の使命です。
近年は、グローバル化やEC(電子商取引)の発展、環境問題への意識の高まりなど、外部環境の変化に伴い、物流業界も急速に変化しています。
このような環境で競争力を維持・向上させるために、企業には効率的な運営と資本の最適化が求められます。
本コラムでは、物流業におけるROIC(投下資本利益率)の改善を通じて、企業価値の向上をどのように目指すべきかを解説します。
1. ROICの概念と重要性
まずは、ROICについて簡単に解説します。
ROICは企業が投下した資本に対して、どれだけの利益を上げているかを示す指標であり、ROICが高いほど、企業は効率的に資本を活用していることを意味します。
以下が算出式です。
ROIC(投下資本利益率) = 税引後営業利益(NOPAT) ÷ 投下資本
NOPAT(Net Operating Profit After Tax)は税引後営業利益を指し、投下資本は企業が事業運営のために投入した資本を示します。
投下資本は、バランスシート(B/S)の借方と貸方のいずれで捉えるかによって、定義が異なります。
(1)投下資本を投資家から調達した資本と捉える場合
B/S上の調達サイド(貸方)の「有利子負債+自己資本」を投下資本と捉え、全社ROICとして活用することが多いです。
(2)実際に事業で活用している資本と捉える場合
B/S上の運用サイド(借方)の「運転資本+固定資産」を投下資本と捉え、事業別ROICとして活用することが多いです。
本来は上記の2つは一致しますが、非事業資産がB/Sに含まれていることが多いため、「有利子負債+自己資本」=「運転資本+固定資産」とはならないことが多いです。
つまり、2つの投下資本を区別して活用することで、全社ROICでは企業全体の経営状況を把握し、事業別ROICでは各事業の収益性や投資の妥当性を把握して、経営資源の最適配分や事業撤退、てこ入れの判断に活用することができます。
物流業においても、ROICの活用は企業価値を高めるための重要な要素です。
なぜなら、物流業は資本集約型の産業であり、設備投資や運営コストが高いため、ROICの向上が直接的に利益の増加につながるからです。
2. 物流業の現状と課題
企業価値を高めている企業は、業界を取り巻く変化に対峙しています。
物流業界では、直近ではEC普及による迅速な配送や柔軟なサービスへの対応、環境問題への対応、コスト削減も重要な課題となっていますが、以下の4つが重要課題として挙げられます。
1. 労働力不足
2024年に時間外労働の上限が課されたことにより、ドライバーの収入減や離職で人材不足が深刻な状況です。
この人材不足は、輸送能力の低下による物流の停滞を招き、荷物が届きにくくなるほか、運賃上昇という形で物価上昇を引き起こしています。
2. 低生産性・低収益性
他業界と比べて手作業が多く、倉庫内作業や配送業務における無駄な動きが多発する特徴があります。
また、労働力不足による残業や人件費の増加も収益を圧迫しています。
3. 未来投資の遅れ
業界全体で自動化やAI、IoTなどの新技術の導入は検討しつつも、初期投資の大きさや技術の理解不足から導入が進まない企業が多く、投資の遅れが最終的な競争力低下を招いているケースが多いです。
4. 単独改善の限界
時間外労働の上限が課されたため、単独での長距離輸送は困難となりました。輸送力を維持するには、積載率の向上、物流の共同化、冷凍・冷蔵配送の共同利用、荷主と物流事業者の協力による取引環境の改善など、物流効率化の連携が求められます。
3.ROIC改善で企業価値が向上した事例
ROICは上記で述べた通り、「ROIC=税引後営業利益÷投下資本」で算出できますが、業界特有の資産構造を踏まえると、運用サイド視点でのROIC改善が求められます。
その場合、税引後営業利益は「売上拡大」と「コスト削減」、投下資本は「運転資本回転率の向上」と「固定資産回転率の向上」に分解でき、それぞれに対し施策を検討していくことが重要です。
上記を踏まえ、物流における4大課題と対峙するためにROIC経営を実践しているA社を解説します。
A社はROICを重点経営指標に置き、「事業別ROICマネジメントの推進」「低収益事業の改善」をテーマとし、企業価値向上に取り組んでいる企業です。
以下では、「売上拡大」「コスト削減」「運転資本回転率の向上」「固定資産回転率の向上」の4項目における各施策を紹介します。
1.売上拡大
(1)冷凍・冷蔵輸送、危険物輸送、国際物流サービスなど新サービスの導入
(2)EC企業との提携強化によるラストマイル配送サービスの充実
(3)EV車両の段階的な導入による、カーボンニュートラル対応を求める大手企業との優先契約
2.コスト削減
(1)サプライチェーンの統合 (2)包装費削減(包装資材の見直し) (3)夜間出荷準備作業の完全自動化による人件費削減
3.運転資本回転率の向上
適正在庫の把握と在庫管理体制の強化による在庫削減
4.固定資産回転率の向上
(1)工場・物流センター別の稼働率・回転率の見える化
(2)投資判断基準の統一化、および明確化
施策例として挙げましたが、P/LとB/Sの状況に基づいて重点改善テーマを洗い出す必要があります。
そのため、現状を把握することができる収益管理と資産の見える化を同時に進めることが求められます。
4.まとめ
今回は、ROIC改善による企業価値向上をテーマに解説しましたが、物流業は他業界と比較して有形固定資産や運転資金を多く保有するため、ROICを掲げる意義は大きいです。
なぜなら、これまで説明してきた通り、運用サイド視点で考える投下資本、つまり物流センターや倉庫、トラックなどの資産項目が多いため、それぞれに応じた施策を多く講じることができるためです。
今回の解説を踏まえ、ROICの導入を検討いただき、収益性の強化と資本効率の向上の両軸で収益・財務構造の改善を図り、成長の加速化を目指していただきたいと思います。
関連記事
-

資本政策 事例|押さえるべき3つのポイントを事例を基に解説!
- 資本政策・財務戦略
-

組織における意思決定の種類とは?トップダウン・ボトムアップの活用法を解説!
- コーポレートガバナンス
-

製造業における収益改善の2つの視点と5つのステップを徹底解説!
- 資本政策・財務戦略
-

-

収益改善の成功事例 | 効果的なポイントについて徹底解説!
- 資本政策・財務戦略
-

-

中堅企業が実装すべき財務戦略~ホールディング経営におけるトップのリーダーシップ~
- ホールディング経営






