COLUMN

2025.10.31

MBOによる非上場化:
企業戦略の新たな選択肢

  • 事業承継

MBOによる非上場化:企業戦略の新たな選択肢

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近年、上場企業の経営陣によるMBO(Management Buyout)を通じた非上場化の動きが加速しております。2023年以降、MBOによる上場廃止は過去最多水準に達しており、2025年には上半期だけで複数件が成立するなど、市場における顕著な潮流となっています。
上場企業においては、資本市場の制約から脱却し、中長期的な経営を目指して、また、経営の自由度を高める手段としてMBOを選択する傾向が強まっています。非上場企業では、事業承継における後継者問題の解決策として活用されています。本コラムでは、特に上場企業におけるMBOによる非上場化の意義や利点、留意すべき課題について整理し、戦略的観点からその活用可能性を考察していきます。

そもそもMBOとは何か

MBOとは、「Management Buyout(マネジメント・バイアウト)」の略で、企業の経営陣が自社株式を取得することで、経営権を強化する手法のことです。なお、従業員が株式や一部の事業部門の買取を行うことをEBO「Employee Buyout(エンプロイー・バイアウト)」と呼びます。
上場企業では、MBOを通じて株式を非公開化し、経営の自由度を高めることを目的とする事例が増えています。買収資金は、自己資金に加えて金融機関や投資ファンドの協力を得て調達し、特別目的会社(SPC)を設立する形で実行されることが一般的です。

最近の動向として、2025年上半期にはMBOを通じた上場廃止が11件に達しており、年間ベースでは過去最多ペースとなっています。主な事例には、日新(物流)、フロイント産業(製造)、DDグループ(外食)、ゴルフダイジェスト・オンライン(EC)、IMAGICA GROUP(映像)などが挙げられ、業種を問わず非公開化を通じた戦略再構築の動きが広がっていることがわかります。

MBOによる非上場化の目的と意義

MBO(マネジメント・バイアウト)による非上場化は、単なる資本構成の変更にとどまらず、企業の経営戦略や組織設計に深く関わる意思決定です。近年、東京証券取引所によるPBR(株価純資産倍率)1倍割れ企業への改善要請や、アクティビスト(物言う株主)の影響力拡大を背景に、経営陣が自らの裁量を確保し、中長期的な価値創造に集中するための手段としてMBOが選択されるケースが増加しています。

第一に、非上場化によって経営者は短期的な株価変動や四半期業績への過度なプレッシャーから解放されます。これにより、研究開発や設備投資など、長期的なリターンを見込む施策に柔軟かつ迅速に取り組むことが可能となります。特に製造業や技術ベースの企業においては、技術資産の再評価や事業ポートフォリオの再構築において、外部株主の干渉を排除することが戦略遂行上の重要な要素となり得ます。

第二に、上場維持に伴うコストや開示義務の負担軽減も大きな動機となります。2025年以降、プライム市場上場企業には英文開示の義務化などが求められ、IR体制や監査対応の強化が不可避となっています。これらの制度的負担を回避し、経営資源を本業に集中させることは、VUCA時代において有効な戦略です。

第三に、敵対的買収への防衛策としての意義も見逃せません。市場で自由に株式が取引される上場企業は、外部からの買収提案に晒されるリスクが常に存在しています。MBOによって株式を集約し、経営陣または信頼できる資本パートナーが支配権を握ることで、企業の独立性と戦略的方向性を守ることが可能となるでしょう。

以上のように、MBOによる非上場化は、経営の自由度を高め、企業価値向上に資する環境を整えるための戦略的手段であります。技術力やブランド資産を有する企業にとって、外部評価に左右されず本質的な価値創造に取り組む有効な選択肢です。

MBOのメリット・デメリット

MBOには、経営の柔軟性や成長戦略実行力を高めるなど、さまざまなメリットがある一方で、当然ながら、デメリットも存在しています。まず、MBOによる非上場化のメリットについて見ていきましょう。

1. 中長期的な経営が可能になる
経営陣が株主となることで、短期的な株主利益に縛られず、技術投資や事業再構築など長期的な成長戦略を実行しやすくなります。

2. 意思決定のスピードと柔軟性が向上
株主総会などの手続きを経ずに、経営陣が迅速に判断できるため、環境変化への対応力が高まります。

3. 従業員の安心感とモチベーション維持
外部への売却ではなく、既存の経営陣による買収であるため、雇用や企業文化の継続性が保たれ、従業員の不安や反発が少なくなります。

4. 敵対的買収(TOB)の回避
経営陣が株式を保有することで、外部からの買収リスクを抑え、企業の独立性を守ることができます。

5. 上場維持コストの削減(非上場化の場合)
IR対応や監査費用などのコストを削減し、資源を本業に集中できます。

事業承継の選択肢として有効 親族に後継者がいない場合でも、信頼できる経営陣に事業を引き継ぐことが可能です。

一方で、MBOには慎重な検討が求められる課題もあり、 続いて、MBOのデメリット・リスクについて、見ていきましょう。

1. 既存株主との対立の可能性
経営陣は株式を安く買いたい一方、株主は高く売りたいと考えるため、利害が衝突しやすいです。
対立が激化すると、MBOが不成立になるケースもあります。

2. 財務負担の増加
MBOには多額の資金が必要となるため、金融機関やファンドからの借入が発生します。
その結果、利息返済などの負担が増加し、財務状況が悪化するリスクがあります。

3. 経営の硬直化
経営陣がそのまま株主になることで、外部からの意見が入りにくくなり、経営改革が停滞する可能性があります。
特に、環境変化への対応力が弱まると、企業の競争力が低下する可能性があります。

4. 資金調達の選択肢が狭まる
上場企業がMBOによって非上場化すると、株式市場からの資金調達ができなくなります。
今後の成長投資に制約が生じる可能性があります。

5. 企業価値の評価に関するリスク
株式の買収価格が不適切だと、税務上の問題や株主からの訴訟リスクが発生することもあります。

まとめ

MBOによる非上場化は、経営環境の変化に対応するための有力な手段です。短期的な市場の圧力から解放されることで、企業は本質的な価値創造に集中しやすくなります。一方で、株主との関係性や財務面での制約など、克服すべき課題も少なくありません。成功の鍵は、信頼と透明性を軸とした設計と、実効性の高い戦略の構築にあります。

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