COLUMN

2023.03.01

2030年には世界で12兆ドル規模?~SDGsが示すグローバルビジネスの可能性~

皆さんはSDGsがビジネスチャンスであると正しく認識できているでしょうか。2030年に向けた世界における明確な成長戦略をSDGsは示しています。活用しない手はありません。想定されている成長市場規模からみるSDGsについてまとめます。

企業がSDGsに取り組む意義

SDGsは2015年にニューヨーク国連本部において開催された「国連持続可能な開発サミット」にて採択された世界共通の未来ビジョンです。その背景や考え方などSDGsの本質的な内容は「持続可能な開発のための2030アジェンダ」にまとめられています。SDGsを本質的に理解しようとすると17のゴール169のターゲットだけではなく「持続可能な開発のための2030アジェンダ」に記載されている内容をぜひご確認下さい。
その中には以下のような文言があります。

"このような広範でユニバーサルな政策目標について、世界の指導者が共通の行動と努力を表明したことは未だかつてなかった。"
"民間企業の活動・投資・イノベーションは、生産性及び包摂的な経済成長と雇用創出を生み出していく上での重要な鍵である。"
"民間セクターに対し、持続可能な開発における課題解決のための創造性とイノベーションを発揮することを求める。"

すなわちSDGsは人類史上類を見ない規模の世界共通ビジョンであり、企業が取り組む意義は非常に大きく、現状の取り組みレベルではなく創造性とイノベーションの発揮が求められているということがご理解いただけます。SDGsに企業として取り組む目的は、世界レベルでの課題認識を共有することであり、誰一人も取り残さないためにすべての企業が取り組まなければならないものです。 SDGsビジネス完全ガイド~市場規模から成功事例まで一挙ご紹介

SDGsの市場規模は12兆ドルにも及ぶ

このように企業が取組む意義の大きなSDGsではありますが単なる慈善活動や社会貢献活動という捉え方では長続きしません。業績などに余裕のあるうちは社員総出で実施できるかもしれませんが、業績が厳しくなってくると、それどころではないと短期視点で業績を追いかけSDGsの取り組みとはかけ離れてしまうでしょう。SDGsは企業の経済性を向上させるための取り組みでもなければいけないのです。

「ビジネス&持続可能開発委員会」の報告書によれば、SDGsに関連した持続可能なビジネスモデルによりもたらされる経済的機会は2030年までに年間最高12兆ドルとなり、3億8千万人分の雇用を創出する可能性があるといいます。このSDGsに関連した持続可能なビジネスモデルとは"食料と農業"、"都市"、"エネルギーと材料"、そして"健康と福祉"の4つの経済システムのことです。これは実体経済の60%を占めていると言われており、残りの40%を勘案するとさらにチャンスは拡がることとなります。

参考:ビジネス&持続可能開発委員会報告書
https://sdgresources.relx.com/sites/default/files/japanese_executive_summary.pdf

このチャンスをとらえるためには、「市場シェアと株主価値を熱心に追求するのと同様に、企業は社会的および環境的持続可能性を追求する必要がある」と記載されています。社会と環境を無視した競争ではこのチャンスは手にできないということです。

SDGsの市場規模は12兆ドルにも及ぶ

グローバル目標とビジネスチャンスが連動する60領域

"食料と農業"、"都市"、"エネルギーと材料"、そして"健康と福祉"の4つの経済システムにはそれぞれ「ホットスポット」と呼ばれる60もの大市場があります。自社がどの領域でビジネスチャンスに挑戦するのかの参考になる切り口です。

食料と農業
❶バリューチェーンにおける食糧浪費の削減
❷森林生態系サービス
❸低所得食糧市場
❹消費者の食品廃棄物の削減
❺製品の再調整
など14領域

都市
❶手ごろな価格の住宅
❷エネルギー効率 - 建物
❸電気およびハイブリッド車
❹都市部の公共交通機関
❺カーシェアリング
など16領域

エネルギーと材料
❶サーキュラーモデル - 自動車
❷再生可能エネルギーの拡大
❸循環モデル - 装置
❹循環モデル - エレクトロニクス
❺エネルギー効率 - 非エネルギー集約型産業
など17領域

健康と福祉
❶リスク・プーリング
❷遠隔患者モニタリング
❸遠隔治療
❹最先端ゲノミクス
❺業務サービス
など13領域

このグローバル目標を達成することで経済価値は総額で2~3倍になり、利益は経済全体に及び、労働力と資源の生産性を飛躍的に高めます。推定によると、ジェンダー平等というひとつの目標を達成するだけで、2025年までに世界のGDPに最高28兆ドルの寄与をすることができるとされています。

ビジネスチャンスをつかむための条件

こうした4つの経済システムと60の大市場においてビジネスチャンスをつかむための6つの条件がまとめられています。

1. 企業や業界において、適切な成長戦略としてグローバル目標のサポート体制を構築する
グローバル目標を推進するビジネスリーダーが多く存在するほど早く進むことができる

2.企業戦略にグローバル目標を組み込む
グローバル目標を達成することで、2030年までに3億8,000万人の雇用が新たに創出される

3.同業者とともに持続可能な市場への移行を促す
グローバル目標に沿って業界全体を持続可能な基盤にシフトすると、はるかに大きなビジネスチャンスへの道が開ける
同業者とグローバル目標に沿って仕組みを変えることは、世界クラスのビジネスリーダーにとって不可欠な差別化スキルになる

4.天然資源と人的資源の真のコストを支払うには政策立案者と協力する
ビジネスリーダーは、規制当局、企業、市民社会とオープンに協力して、グローバル目標に沿った公平な競争の場を創出する財政と規制政策を形成しなければならない
所得税を下げ、公害や安価な資源に増税することでより進歩的な財政システムが実現する

5.長期持続可能な投資に金融システムの目をむける
グローバル目標を達成するために必要な長期の投資回収期間を伴う投資への理解と資本の流れを促進するためにビジネスリーダが推進すること
⑴グローバル目標に連動した持続可能なパフォーマンスの透明で一貫した実績表
⑵リスクを共有し、持続可能なインフラへの民間資金をより多くひきつけるための混合金融商品のより広範かつ効率的な利用
⑶金融セクターにおける規制改革と長期的で持続可能な投資の連携

6.社会契約を再構築する
グローバルサプライチェーンに直接的かつ間接的に雇用されている多くの労働者へ、敬意をもって接し適切な賃金を支払うことは、より包括的な社会を構築し、消費者市場を拡大することと両立する
人材育成に投資し、性別にかかわらず可能性をひきだすことが、より高い労働生産性による利益をもたらす

ビジネスチャンスをつかむための条件

グローバルなソーシャルビジネスでこれからの成長戦略を描く

人類史上類を見ない規模で採択された世界ビジョンであるSDGsを自社の成長戦略に位置づけることは世界の環境課題や社会課題において有効であるばかりでなく、企業の経済性においても大きな可能性を秘めています。 グローバル戦略は大企業だけのものではありません。中堅・中小企業でもグローバルで戦えるコア・コンピタンスがきっとあるはずです。グローバルなソーシャルビジネスでこれからの成長戦略を描くことが重要であり、それを見据えたビジネスリーダーを育成することへ投資するべきであります。

著者

タナベコンサルティング
ストラテジー&ドメインコンサルティング事業部
エグゼクティブパートナー

巻野 隆宏

専門分野は事業戦略の立案をはじめ開発・マーケティングなど多岐にわたる。企業の持続的な変化と成長のサポートに取り組み、志ある企業・経営者のパートナーとして活躍中。「高い生産性と存在価値の構築」を信条とし、明快なロジックと実践的なコンサルティングを展開。建設業、製造業を中心に中・長期ビジョン構築において事業の選択と集中で高収益ビジネスモデルへの変革を数多く手掛けてきた。

巻野 隆宏

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