中小企業におけるグループ経営の必要性
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複数の会社が「企業グループ」として1つの大きな組織体で活動を行う経営モデルである「グループ経営」。本文では日本の企業の99.7%を占める中小企業が考えるグループ経営のポイントについて解説いたします。
グループ経営とは
そもそもグループ経営とはどういったものなのか。
タナベコンサルティングではグループ経営を「複数の異なる事業を営む、単一の企業、もしくは複数の連結事業体からなる多角化企業」と定義しています。
2000年3月期の連結決算制度見直しにより、投資家や証券アナリストの分析・判断基準が単体決算から連結決算へと移行したことを受けて、経営の意思を同一にする1つの企業体・グループとしての経営成果が求められるようになりました。
これを機にグループ経営を取り入れる企業が増えてきており、グループ全体での成長戦略が経営における重要検討事項の1つとなっています。
グループ経営とホールディング経営の違い
まず先述のグループ経営と昨今増加しているホールディング経営の違いについて整理します。
グループ経営では単一もしくは複数の事業体それぞれが事業を営み多角化経営を行っている経営形態です。
一方でホールディング経営とは企業グループを統括する持ち株会社とその傘下の複数の事業会社により構成される経営スタイルを指します。
つまり、ホールディング経営はグループ経営を推進するための経営スタイルの1つであり、必ずしもホールディングス化だけがグループ経営の形ではないということです。
そのため企業がグループ経営を推進する上では、自社にとって最適な経営スタイルは何かを描いたうえで選択をすることが求められているのです。
グループ経営の4つのメリット
企業が未来へ向かって成長するためのグループ経営。
ここではグループ経営の4つメリットについて解説します。
(1)意思決定速度の向上
複数の企業体が自社の事業に専念し、親会社がグループ全体の意思決定を行うという形に分業することで、迅速で効率的な意思決定が可能となります。
特に中小企業においては経営の機動力の高さが強みになっているケースもあり、その強みに更なる磨きをかける取組にもなり得ます。
(2)経営リスクの分散
グループ経営において各事業会社は独立した法人となります。
そのため著しい業績の悪化や取引先の倒産、顧客からの損害賠償請求、業務停止命令など経営の根幹を揺るがすような事態が発生した場合でも、他のグループ企業への影響は限定的に抑えられます。
経営環境は刻一刻と変化しており、その変化についていけない企業も多くあります。
グループ経営ではそういった事業継続不能のリスクを抑えることができます。
(3)社員のモチベーション向上
グループ経営では事業ごとに会社を構えるため、各会社に子会社社長や役員、管理職が必要となります。
そしてそのポストは会社の数に応じて必要数が増加します。
一方で単一企業の場合は社員が目指せるポストの数が限られており、社員が思うようにキャリアを形成できないという事象が起こり得ます。
グループ経営体制により社員のキャリア形成を後押しする仕組みを作り、向上心の高い社員のモチベーションを維持することで、有能な人材の囲い込みにも繋がります。
(4)M&A対策
M&A市場が活況となっている昨今、グループ経営体制はM&Aを考える上でも有利に働くことが多くあります。
例えば事業を手放し撤退する際には、既に事業ごとの会社が分かれているため、会社全体への影響も抑えられ、手続きも簡便になります。
また新たに企業をM&Aにて買収する際も、買収した企業をグループに加えるだけで良いため、比較的楽に統合作業が進められます。
グループ経営の3つのデメリット
メリットだけではなくデメリットも理解した上で、対策を練る必要があります。
ここではグループ経営の3つのデメリットについて解説します。
(1)個社最適意識によるグループ全体の推進力の毀損
グループ経営体制の導入による分社化により、各子会社が自社の利益だけを追求し、グループ会社間のシナジー効果喪失や全社の経営方針にそぐわない判断をしてしまう可能性があります。
また親会社と子会社の上下関係による軋轢によりコミュニケーションエラーが起こり、経営の障害になるケースも考えられます。
これを防ぐためにも、グループ全体のビジョンを明確にし、また親会社に対する求心力を持たせる取組や仕組みの構築を行う必要があります。
(2)企業維持のコスト増加
複数の企業を抱えることで、単一の会社であったときと比べ体制が複雑化し、企業の維持コストは増加します。
総務や経理などのバックオフィス機能は各会社に必要であり、また決算書作成に際しての税理士への報酬等も会社の数だけ増加します。
運営体制や維持費用が必要以上にかからないようにバックオフィス機能の集約等の効率化の仕組みを検討する必要があります。
(3)経営人材が多く必要になる
先述のメリットで会社の数だけ経営に携わるポストの増加を挙げました。
言い換えるとそれだけの経営人材を生み出さなくてはならないということです。
経営人材は自然発生的には生まれず、人材育成に向けた取組は必要不可欠です。
グループ経営体制を検討する際は、同時に経営人材育成の仕組みについても検討が必要になるということです。
中小企業の経営課題
ここで本コラムのタイトルにもある「中小企業におけるグループ経営の必要性」について考えてみましょう。
日本の中小企業は多くの経営課題を抱えています。
その中でも多くの中小企業に共通する課題を2つ挙げます。
(1)事業規模が小さく、経営環境の変化に業績が左右されやすい
ニッチトップ企業は対象から外れますが、多くの中小企業は市場占有率が低く、競争が激しい経営環境にあります。
その中で各事業に特化したグループ経営体制を構築し、中小企業の強みでもある意思決定の速さをさらに磨くことで、大手にはない機動力を活かした経営が可能となります。
(2)後継者不在による事業承継問題
中小企業の後継者不在率は2023年時点で54.5%(※1)と半数近くの企業が後継者不在となっています。
そのためこれまで親族内承継で経営を引き継いできたオーナー企業も親族外承継を視野に入れなくてはならないケースが増えてきています。
グループ経営体制を取り、意図的に経営人材を育成していくことで一事業の統括担当者の経営的視座を高め、経営人材を多く生み出す仕組みの構築に繋がります。
※1・・・中小企業庁 2024年版「中小企業白書」より参照
さいごに
グループ経営は、激変する経営環境の中で自社の強みを最大限に活かし、未来へ向けた成長を目指すための手段の1つです。
もちろんグループ経営が最善策ではないケースもありますが、選択肢の1つとして議論のテーブルに乗せ、メリット・デメリットを比較検討するという行動を起こすことが重要になります。
自社の10年後、20年後にどうありたいのかを描き、その目的に向けた経営の舵取りが経営者には求められます。
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