建設業のホールディングス化におけるポイント
- ホールディング経営
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建設業界は現在、深刻な人材不足と高齢化という構造的課題に直面しています。1997年のピーク時に685万人いた就業者数は、2022年には479万人にまで減少しました。この流れは単なる一時的なものではなく、労働力人口そのものが減少している日本社会全体の課題と密接に関係しています。一方で、2025年の大阪・関西万博や2027年以降のリニア中央新幹線の開通といった大規模なプロジェクトが控えており、建設需要は増加することが予想されています。さらに、インフラの老朽化や災害対応といった社会的なニーズも高まり、建設業界への期待は増すばかりです。同時に、脱炭素社会の実現に向けた環境対応型の建設技術の導入や働き方改革による現場環境の改善といった新たな課題にも直面しています。こうした中で、建設業界の各企業は、限られた経営資源を最大限に活用しつつ持続可能な経営を実現するための戦略が求められています。その中で「ホールディングス化」は、課題解決と成長の両方を実現するための有力な選択肢として注目されています。
ホールディングス化のメリットと課題
⑴ホールディングス化のメリット
①経営資源の集中と効率化
ホールディングス化により、各事業会社が専門分野に集中できる環境が整います。これにより、グループ全体としての効率性が向上し、収益性を高めることが可能です。例えば、設計、施工、維持管理などの分野を分離して専門化することで、各部門がそれぞれの強みを発揮できます。また、ホールディングス本体は戦略的な意思決定に専念できるため、資源の適切な配分や事業ポートフォリオの最適化が進みます。さらに、経営のスピード感を持ちながら、それぞれの事業会社が独自の創造性を発揮することも可能となり、競争優位性を強化します。
②リスク分散による安定性向上
多角化された事業をホールディングス化体制で管理することで、各事業部門のリスクを分散することができます。例えば、公共事業を主軸とする部門と民間事業を担う部門を分離して管理することで、経済の変動や政策変更に対する耐性が向上します。このリスク分散の仕組みは、景気循環の影響を受けやすい建設業において特に有効です。また、リスク管理の専門部署を設けることで、各事業のリスクをグループ全体で統合的に把握し、迅速に対応することが可能となります。
③ブランド力と競争力の強化
ホールディングス化により、グループ全体で一貫したブランドイメージを構築することが可能です。これにより、顧客からの信頼を得るとともに、大規模プロジェクトへの参画時に有利な立場を築くことができます。例えば、統一されたブランド戦略は、海外市場への進出時や競争入札での評価を高める要因となります。また、ブランド力の向上は人材採用にも良い影響を与え、優秀な人材をグループ全体で確保するための重要な要素となります。
④デジタル化推進と生産性向上
ホールディングス化は、デジタルトランスフォーメーション(DX)の推進にも寄与します。グループ全体でIT基盤を統一し、「施工管理システムや労務管理システムの導入と効率化を図ることで、現場での生産性向上や管理コストの削減が可能となります。特に、AIやIoTを活用した施工の効率化は、労働力不足への対応策として期待されています。さらに、ビッグデータを活用した需要予測やプロジェクト計画の最適化を通じて、より正確な意思決定が可能となり、競争力のある事業運営が実現します。
⑵ホールディングス化の課題
①運営体制の複雑化
ホールディングス化により、事業間の調整が必要となり、運営体制が複雑化する可能性があります。特に、経営陣や現場管理者の間での意思疎通が不足すると、グループ全体の効率性が低下するリスクがあります。このため、各事業会社間でのコミュニケーションを円滑化する仕組みを構築することが重要です。
②初期投資コストの負担
ホールディングス化に伴う初期投資は、組織規模に応じて大きな負担となる場合があります。組織再編やIT基盤の整備、法務手続きなどには相応のコストが発生します。そのため、投資コストを長期的な収益向上で回収するための明確な経営計画が必要です。
③文化の統合
異なる企業文化を持つ複数の事業会社を統合する場合、文化の違いが軋轢を生むことがあります。このため、統一したミッションやビジョンを明確にし、従業員全体で共有する取り組みが求められます。
④法的・税務的な課題
ホールディングス化に伴う法的手続きや税務対応も複雑化します。例えば、各事業会社間での利益配分や税制優遇措置の活用方法について、専門家の助言を得ながら進める必要があります。
ホールディングス化の具体的な進め方
⑴現状分析と戦略の策定
ホールディングス化を進める前に、現在の事業ポートフォリオや市場環境を詳細に分析します。その結果に基づいて、最適な事業分割と統括体制を設計します。
⑵専門家の活用
法務、税務、経営コンサルティングの専門家を活用することで、組織再編に伴うリスクを最小限に抑えられます。特に、建設業界特有の規制や契約慣行を考慮したアドバイスが重要です。
⑶ステークホルダーの巻き込み
従業員、取引先、地域社会など、関係者に対してホールディングス化の意義を説明し、協力を得ることが成功の鍵となります。特に、従業員に対しては、新体制の利点を理解させると同時に、適切な教育やサポートを提供することが重要です。
⑷デジタル基盤の整備
組織統合後の効率性を高めるため、ITインフラの整備に投資する必要があります。これには、施工管理システムや人材管理システムの統合が含まれます。
2024年以降に向けた展望
建設業界におけるホールディングス化は、現在の課題を克服するための有力な戦略であると同時に、将来の成長を支える基盤を築くものでもあります。万博やリニア新幹線といった大型プロジェクトに対応するためには、効率的で柔軟な経営体制が不可欠です。また、ホールディングス化を通じて、働き方改革や環境対応型事業への取り組みを進めることにより、持続可能な社会の実現に貢献することが期待されます。
最後に
ホールディングス化は、建設業界が直面する労働力不足や市場の変化に対応し、競争力を維持するための重要な経営手法です。その実施には課題も伴いますが、適切な計画と実行により、効率性と持続可能性を高めることが可能です。特に、大規模プロジェクトや社会的なインフラ需要に対して、柔軟な経営体制を確立することが求められています。各企業が長期的な視点でこの手法を活用することで、建設業界全体が安定的な成長を遂げる基盤を築けるでしょう。
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