COLUMN

2024.04.08

後継経営者・後継者に歴史を数字で捉えさせ、未来を共有せよ

  • 資本政策・財務戦略

後継経営者・後継者に歴史を数字で捉えさせ、未来を共有せよ

私は地域金融機関様と連携し、地域企業の若手経営者・後継経営者・後継者に向けたシリーズ勉強会を企画・運営を行っています。このシリーズ勉強会で、受講者の経営センスにおいて大きな差があることに気づきます。それは「数字を診る力」です。
多くの受講者は、自社の決算書や業績管理資料を確認できる環境であるのにも関わらず、なんとなしに「見る」だけであり、「診る」ことはできていない状況です。特に事業承継を控える企業は、現経営者から後継者へバトンパスをする際に、大事な内容であるのにも関わらず、引継ぎされていないことを多くお見受けします。
中小企業庁の試算では、2025年までに平均的な引退年齢とされる70歳を超える中小の経営トップが245万人となり、うち127万人が後継者未定です。さらに帝国データバンクによると、「同族承継」が年々減少しており、「内部昇格」が35.5%で「同族承継:33.1%」を抜き、承継方法の第一手段になりつつあります。
さらに、「M&A」などによる事業承継が2割を超え、「内部昇格・M&A・外部招聘」が63%を占め、事業承継に「脱ファミリー化」の動きが加速しています。この脱ファミリー化は、決算書を社内にオープンさせ、わが社を数字で後継経営者・後継者に伝えていく必要性を示しています。
だからこそ、わが社の歴史の象徴でもある数字(決算書)を次代に教え、引き継がなければなりません。

後継者がつまずく先代から伝えられていない歴史

地域金融機関様とシリーズ勉強会中の財務講座を務め、講座後に決算書を預かって、決算書分析を行った際に度々見られた光景があります。それは、「タナベさんに分析してもらってよかった」と言われたことです。どういうことかを紐解くと、先代や古く付き合いのある会計事務所等から、「御社の決算は毎年こんなもんですよ」と言われるとのことです。
ここ数年では、感染症拡大による行動制限やロシア・ウクライナなどの地政学リスクもあり、営業利益や経常利益が感染症前の決算と比べると、減収減益傾向や現状維持の企業がいることを実感しています。そこで後継した側からすると、先述した「御社の決算は毎年こんなもんですよ」と関係者から言われると、そういうものかで理解が止まってしまいます。
改めてになりますが、財務諸表における損益計算書は1年間の経営成績であり、貸借対照表は創業から今までの財務状況、つまり歴史が記載されています。その2諸表(+販管費及び一般管理費、製造原価報告書を含む)の決算書を分析すると、営業外利益や特別利益が利益を作り出し、本業は赤字でも企業として利益がでている状態で、安定しているように見えます。しかも、それを大丈夫という判子を押されてしまっています。これではまさに「ゆでガエル状態」になっています。慣れてしまう前に違和感を覚え、当社に決算書をお渡しいただいた企業へ、「現状ではジリ貧傾向になっており、いつか最悪の結末になるので今から手を打たなければならない」とお伝えすると、「周りから初めてしっかりと指摘された」と感謝されるほどでした。これは後継者の数字に関する目線が低くなってしまう事例です。低い目線のままでわが社の数字で捉え続けると本当に後がない状態までに陥ってしまいます。
今回の機会でお会いした後継経営者や後継者は、自社の歴史を改めて数字から読み取るため、先代や関係各所にここまでの歴史(数字)について教えてもらい、新たなスタートとして取組みをされています。

後継者や経営幹部を伝える(教育)ために必要な視点

会社の歴史、経営成績を示す決算書の理解と悪い事例をお伝えしましたが、ここからは現経営者が伝える視点で大事なことをご紹介いたします。

1.数字で会話(ディスカッション)することを徹底する
2.わが社の未来姿(ありたい姿)を共有する
3.いつまでに、誰が、取り組むかをハッキリさせる

1つ目の「数字で会話(ディスカッション)することを徹底する」は、今までのわが社の歴史について、成長した要因などをしっかりと数字で伝えていくことです。
わが社の押さえるべき数字のカン・コツ・ツボがあります。現預金は固定費をカバーできる●●百万円は常日頃持っていなければならないことや、投資に対して売上の●●%は活用して良い、または在庫回転期間は●●回転でなければならないことなど、わが社が成長できた際の数字のカン・コツ・ツボを教えなければなりません。
後継者はある程度仕組みが出来上がった会社を引き継ぎますが、創業もしくは、成長時代を駆け抜けた経営者には一定の原理原則を実務で身につけています。
このわが社の原理原則が今のわが社とマッチしているのか、また、同業界の優秀企業と比較して正しいのかを考えさせなければなりません。そこで必要なのは数字で語ることです。外部環境・内部環境・業務の問題等を含めた自社の現状認識も同様です。

2つ目の「わが社の未来像(ありたい姿)を共有する」については、数字で後継経営者・後継者と会話するようになれば、自社の現状も把握・理解できるようになっております。現経営者と後継経営者・後継者は未来像に向けた数字、いわゆる定量ビジョン、中期ビジョンの目線合わせが必要になります。
企業は社会の公器であり、世の中の「不」の解消をすることで対価を受け取ります。この対価は、社会に貢献して「不」の解消をするために、費用(仕入れ、設備や人件費等)を賄うことに活用され、さらには将来的によりよいサービスをするために、資本として存在しております。このことをしっかり理解されないと、利益が出ても税金対策として資本を活用される後継経営者・後継者も多く見受けます。
この間違った資本が活用されないためにも、経営者と後継経営者・後継者は未来像を共有し、わが社をどのように成長させるのか、どこに投資するのかのモノサシを明確にする必要があります。モノサシがあれば、社員へのわが社の進む道も示すことができ、社員自身も進み方について段々とわかるようになります。

3つ目は「いつまでに、誰が、取り組むかをハッキリさせる」です。
未来像が確立できた後によくある落とし穴として、「誰が、いつまでに、取り組む」のかが不明確なケースがあります。特に「いつまでに」といった期限の管理が不明確であり、「忙しかったので取り組めませんでした」といった現状の業務から新たな未来像に必要な業務について取り組めなかったということがよくあります。
これについて多くの要因が左右されますが、実行者への期限管理がなく、本人の中で優先順位がなかなか上げられず、放置してしまっている状況がよくあります。
まずは、期限管理をハッキリさせることです。それでも取組みができない場合は阻害する要因やムダな業務を明確にし、それを解消することによってやっと取り組めるようになります。

最後に

今回は、「わが社の現状認識・未来像を行動計画に落とし込む」の一幕からお示ししております。ぜひ一読いただいた後に、わが社は悪い事例に陥っていないか、正しく後継経営者・後継者と協力して社員へ未来像へ示せているか振り返っていただきますようお願い申し上げます。

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