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【事例で解説】物流業のホールディングス化におけるポイント

【事例で解説】物流業のホールディングス化におけるポイント

近年、物流業界は物流コストの高騰や厳しい経営環境に直面しています。このような状況において、ホールディングス化は経営の効率化や事業の拡大を目指す上で重要な戦略の一つとなっています。ホールディングス化の最大のメリットは、事業を多角化しながら、各事業の独立性を保ちつつも、全体のリソースを効果的に配分できる点にあります。これにより、各事業部門は柔軟に市場の変化に対応できるだけでなく、グループ全体としてもシナジーを追求できるようになります。また、許認可事業を運営する際のリスクを分散できる効果も期待されています。しかし、ホールディングス化を成功させるためには、グループ全体の一体感を持った経営管理の確立とともに、各事業の人材育成が欠かせません。これらの要素がしっかりと機能することで、企業全体の成長を実現できるのです。

ホールディングスによる次世代経営者育成プログラム

次世代経営者人財創出の仕組みづくり

A社は、埼玉県に本社を構える物流企業です。持株会社であるAホールディングス株式会社は東証プライム市場に上場しており、グループ全体での事業規模を拡大しています。社長は、トラック1台から事業を開始し、現在では複数のグループ企業を抱え、年商約2,000億円規模の東証プライム上場企業へと成長させました。同社は、社員を「人材」ではなく「人財」と捉え、人材育成に力を注いでいます。特に、積極的なM&Aの推進に伴いグループ規模が拡大している中、次世代のグループ企業の経営者を育成するため、社長育成のプログラムを開始しました。このプログラムは、グループの経営幹部に対し、後継者育成計画の一環として、経営者としての本質やビジネスモデルの設計、投資判断、組織デザインなどを学ぶ機会を提供し、新たな使命感を持った経営人材の育成を目指すものです。

このプログラムの特徴的なポイントは、グループ全体から候補者を選定し、横断的な研修を実施することです。これにより、俯瞰的な経営視点を獲得し、グループ内のコミュニケーションを強化することが狙いとなっています。まず、俯瞰的な経営視点の獲得については、候補者が自身の所属する企業のビジネスモデルや経営体制に留まらず、異なる企業のモデルや経営方針を学ぶことで、広い視点から経営を考える力を養うことができます。これは、単一の企業の研修では得られない貴重な学びであり、グループ経営を担う人材にとって極めて重要な要素です。
さらに、グループ間のコミュニケーション強化は、特にM&Aを積極的に展開する物流業界において欠かせないものです。将来の経営陣が互いに理解を深め、信頼関係を築くことで、グループ全体としてのシナジーを最大限に引き出し、より強固な次世代の経営体制を構築することが可能になります。物流業界は、M&Aや業務提携による再編が進む中、経営環境の変化に対応することが求められています。こうした外部環境の変化に迅速に対応できる次世代経営者を育成することは、ホールディングス化されたグループ企業において、最も重要な課題であると言えるでしょう。

東京システム運輸ホールディングス「ホールディング経営と中期経営計画との連動」

次世代選抜メンバーによる中期経営計画の策定

東京システム運輸ホールディングス株式会社は、東京都立川市に本社を構え、首都圏を中心に事業を展開している総合物流企業です。同社は2010年にホールディング経営を導入し、現在ではグループ会社4社を抱え、2024年3月時点でグループ年商171億円に成長しています。
各グループ会社は運送事業、倉庫事業、開発事業などを担当し、ホールディングス会社がその管理機能を担う形で運営されています。

東京システム運輸ホールディングスの成長戦略における特徴的なポイントの一つが、「ドミナント戦略」です。この戦略の一環として、2020年には本社を東京都立川市に移転し、首都圏内における拠点展開を加速させました。営業所を本社から南北100km圏内に集中させることで、効率的な物流ネットワークを構築しています。
その結果、2024年時点で1都2県に63の物流拠点、約16万7000坪の延床面積を運営するまでに至りました。こうした戦略的な拠点展開が、同社の持続的成長を支える要素の一つとなっています。

同社の成長を支えているもう一つの重要な要素が、中期経営計画との連動です。2008年に現・代表取締役の細川社長のリーダーシップのもと、持続的な成長と企業価値の向上を目指し、ホールディングス化を中期経営計画と一体化させることを目標に掲げました。具体的には、2009年から2019年までの10カ年ビジョンを策定し、その間の中期経営計画を戦略的に進めることで、企業の飛躍的な成長を実現しました。

この計画の策定において特徴的だったのは、後継者育成を目的とした「ジュニアボード形式」を導入した点です。グループ幹部候補が集まり、実践的な研修の場として中期経営計画を策定する役割を担いました。
この研修では、総計2,000時間以上を費やし、自社のSWOT分析やPPM分析を行うなど、経営環境やマーケティングに対する知識を深める機会が設けられました。このプロセスを通じて、メンバーは自社の事業ドメインや物流業界でのポジションを改めて確認し、全員で戦略の方向性を共有することができました。その結果、2019年には売上高151億円を達成し、企業の成長を後押しする成果を上げました。

第1期中期経営計画のプロジェクトメンバー 画像:『第1期中期経営計画のプロジェクトメンバー』(当社提供)

このジュニアボードの仕組みは、単なる研修プログラムに留まらず、同社の経営体制にしっかりと根付いています。次世代の経営者を育成するための重要な体制として、現在でも活用されています。
さらに、2020年から2030年までの次の10カ年第2次中期経営計画が策定され、1期を継承する2期生らが「物流商品製造業+Plus × THE東京ロジスティクス」をスローガンに、企業価値のさらなる向上を目指しています。こうした長期的な視点を持ちながら、持続可能な成長を続けることで、東京システム運輸ホールディングスは今後も業界内での競争力を高めていくことでしょう。

中期経営計画とホールディング経営の緊密な連携こそが、企業の持続的成長を支える一つのカギであるといえます。

担当コンサルタント

タナベコンサルティング
コーポレートファイナンスコンサルティング事業部
ゼネラルマネジャー

公文 拓真

銀行にて、リテールからホールセールまでを経験。当社入社後は管理会計を中心とした財務戦略や、ホールディングによる資本戦略策定などに従事。企業価値向上の観点による中期経営計画策定など、コーポレートファイナンス分野における上場企業向けのコンサルティング支援を得意とする。

公文 拓真

会社プロフィール

業種 物流業
所在地 埼玉県
売上高 グループ総体1,900億円
従業員数 約2万名

タナベコンサルティングのコーポレートファイナンス支援コンサルティングサービス

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68年間で大企業から中堅企業まで約200業種、
17,000社以上に経営コンサルティングを実施してまいりました。

企業を救い、元気にする。
私たちが皆さまに提供する価値と貫き通す流儀をお伝えします。

コンサルティング実績

創業68
200業種
17,000社以上