CASE 事例
経営人材の実践的財務研修で成果を上げるA社の事例
昨今、人的資本経営と言われるように人材に対して投資を実施し、いかに早期に育成・活躍してもらうかが企業の競争力の源泉になっています。そのような中、特に数字で経営を語る幹部人材を育成するために「財務研修」に注力して成果を出しているA社の事例をご紹介します。
1.経営トップの悩み
A社社長より相談を受けたことがきっかけです。A社は、大阪に本社をおく年商600億のメーカーです。その相談とは、「経営会議を毎月実施しているが、その中で業績報告に対しての説明や対策が定性的な内容に終始しており、もっと数字で議論できるような会議にしたい」とのことでした。私は、その経営者に「これまでに自社で財務に関する研修や資料の説明などは実施していますか?」と質問すると、案の定、そのような取り組みはこれまで全く実施したことはなく、自社の業績もこれまで使用しているフォーマットで売上と粗利益(売上総利益)だけを確認しているだけとのことでした。
昨今、このような課題を抱える企業が結構多いのではないでしょうか?これまでの経営においては、経営者本人が数字を把握して意思決定していくことで対応できていたかもしれませんが、環境変化の激しい現在においては経営者1人でカバーできる領域が狭くなり、経営幹部を巻き込んだ組織経営で意思決定していかなければならない非常に複雑で困難な時代をむかえていると思います。
先ほどの経営者の悩みを整理しますと、
①P/Lの売上や部門利益は理解しているが、判断基準がない
②自社の収益構造が理解不足で、コスト面まで含めた対策を数字を根拠に組み立てることができず、これまでの経験や勘に頼っている部分が多い。
③会議参加メンバー間での基準が統一されておらず、各部署で異なる判断がなされている
このような点が挙げられました。
2.経営者や経営幹部にとって必要な財務スキルとは?
では、上記の課題に対してどのようなスキルを身に付けさせる必要があるのでしょうか?タナベコンサルティングでは、①業績を分析する能力 ②業績をマネジメントする能力 ③数値計画を立案する能力の3つが必須の能力と考えています。我々はこの能力を伸ばすために必要なカリキュラムを独自に構築しています。それが、①B/S、P/Lの基礎知識②経営分析(財務分析)の実務③損益分岐点の理解(管理会計の考え方)④営業・投資活動とキャッシュフロー⑤業績マネジメント⑥数値計画の立案 になります。
このカリキュラムを骨子に、どのようにメンバーへ研修を実施するかを打合せしながら、詳細を決定しました。毎月1回開催で6回のトータル6か月でカリキュラムを設計しましたので、参考に全体カリキュラムをお示しします。
3.財務研修のカリキュラムについて
要望に合わせたカリキュラムのカスタマイズ
この財務研修の特徴は、2つあります。
1つ目は、経営判断に必要な財務知識にポイントを絞ったカリキュラムであるということです。「財務は難解なもの」「財務知識を学んでも現場で役に立たない」という誤解を生んでいる1つの要因として、これまでの財務講義や書籍が経理財務担当者が経理業務を行うために作られたものが多かったことがあります。今回のカリキュラムは、経理財務担当者の実務的知識ではなく経営者(経営幹部)が経営判断するための財務知識を重点的に基礎から徹底的に学ぶものです。
2つ目は、講師からの一方通行の講義だけに終始するものではなく、各回のテーマに沿った議題でグループディスカッションをし、その成果発表まで実施するなど受け身の研修ではなくメンバー全員が参画する研修です。当然、講義やディスカッションをサポートするのは、日々経営の現場で活躍するコンサルタントであり、経営者と対峙し、経営の現場でしか得ることが出来ない生きた財務知識を事例を交えてわかりやすくお伝えすることができます。
それに加えて、A社社長より「単なる財務の座学で終わらせるのではなく、研修で学んだことを現場で実践できるようなカリキュラムにしてほしい」「参加者のレベルに格差があるため、班編成も工夫してメンバー内でも教えられるようにしてほしい」との要望がありました。今回の対象メンバーについても協議しましたが、できる限り同じ目線で学んでもらいたいとの意向から21名の選出となりました。この21名は経営会議参加メンバー以外も含まれ部門や年齢も多岐にわたる構成になりましたので、グループワークは1班7名で3班体制で実施するように対応しました。
また、カリキュラム面では、特に販売先の与信判断ができるようにしてほしい、つまり取引先の経営状況をメンバーが個々に判断できるような見方や考え方を学ばせてほしいとの強い要望がありましたので、与信判断のケーススタディを取り入れました。実際の取引先の財務諸表をベースに、引き続き取引を継続するのか、また極度額を設けてその限度まで取引を縮小するのかなど、財務情報を紐解きながら、基準と照らし合わせて判断していくという非常に実務的な内容のグループディスカッションを実施しました。
そして、必ず次回までの1か月間に課題を実施するとともに、確認テストを実施することで復習も習慣化させるようにして、6回の研修ではなく6か月という期間で経営者に必要な財務スキルを体得してもらうようにしました。
4.研修実施の成果
研修実施の成果として、受講生からは、「受講前は、社内で回覧されている業績数値を全く理解できず意識もしなかったが、受講後は数値の意味を理解できるようになり、自部門での対策もより具体的なものになった」や「自部門の売上や粗利は理解していたが、会社全体の業績について理解が不十分で反省している。会社全体の視野で業績数値の見方や基準を理解できるようになった」との声が上がっています。
A社社長も、「参加者全員の数字に対する意識が変わったわけではないが、何名かの幹部は経営会議での発言がより定量的で具体的になったと認識している。少なくともこのような研修を継続することで、経営幹部の業績に関する感度や数字へのこだわりを高めていくことが必要だと改めて感じた」とのことです。
人的資本への投資は、成果が見えにくい部分もあります。ただ、投資しなければ成長もしないのではないでしょうか?経営者・経営幹部の皆様には、投資効率の考え方の含めて財務スキルを高める機会の創出を検討いただきたいと思います。
担当コンサルタント
タナベコンサルティング
上席執行役員
コーポレートファイナンスコンサルティング事業部
福元 章士
収益・財務戦略構築を専門分野として、建設、住宅、製造、小売業など幅広い業界でコンサルティングを実施。企業再生、組織再編、事業承継などのターンアラウンド支援も数多く手掛けてきた。「1社でも多く企業の成長を誠心誠意サポートする」をモットーに、様々な経営課題を解決に導く経営者のパートナーとして高い信頼を得ている。
会社プロフィール
業種 | 電線メーカー |
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所在地 | 大阪府東大阪市 |
売上高 | 614億(連結)、574億(単体)23年3月期 |
従業員数 | 1046名(連結)、671名(単体)23年3月期 |
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