CASE 事例
永続発展に向けた「親族外承継」の
抜本策構築
事業承継に関する帝国データバンクの資料『全国企業「後継者不在率」動向調査(2020年)』によると、親族内承継が1/3、社員承継が1/3、第三者承継が1/3の割合となっています。親族への承継だけが、有力な選択肢ではなくなってきています。
A社(家事サービス業)の親族外承継
背景および事業承継上の課題
A社は、東京都に本社がある家事サービス業を営む会社です。昭和58年にX社長が個人創業、昭和60年に法人設立されました。コンサルティング実施当時、FCを含めて年商約24億円、従業員数2,000名の規模にまで成長され、業界のパイオニアとして確固たる地位を築かれていました。
関連会社に社団法人、NPO法人があり、グループ全体で見れば、高い収益性を確保していました。社団法人の理事長はX社長、副理事長はY専務、理事はその他の幹部でした。A社グループ全体の事業承継が課題でした。
A社の株式はX社長とX社長夫人でほぼ100%保有しており、経営権は安定していたのですが、株価は毎年高くなる状況でした。X社長夫妻の年齢が60代後半に差し掛かる中、後継者と期待していたご息女がお亡くなり、後継者不在の状況になったとのことで事業承継のコンサルティングが始まりました。まさに、永続発展に向けた親族外承継の抜本策構築がテーマでした。
A社には、役員としてY専務とZ常務がおり、後継者候補として検討を重ねました。会社の内容や状況を社長の次によく理解しているのはY専務でしたが年齢が50代後半とやや高いことがネックでした。
したがって、Z常務も後継者候補としました。しかしZ常務は40代と若く、経営についても経験不足でした。
そこで、一旦、Y専務が社長を引き継ぎ、Z常務にバトンタッチするというストーリーで、事業承継カレンダーを作成しました。株式の移譲方法については、様々な検討をしたいとの意向でした。
親族外承継の選択肢を提示
コンサルティングの中では、親族外承継の6つの選択肢を提示し、メリット・デメリットを説明、X社長と膝を突き合わせて何度も議論しました。その6つは以下の内容です。
(案1)役員持株会への株式移譲
(案2)社団法人への株式移譲
(案3)IPO(株式上場)
(案4)MBO(後継経営陣による株式買取り)
(案5)M&A(第三者への株式売却)
(案6)事業承継税制による後継者への贈与
案1は、役員会を最高意思決定機関とする事業承継で永続発展に向けた良策との判断で、最も推薦したい案でした。
メリットは、役員持株会が株式を買い取る際は、配当還元価額であり、相続税対策上有利かつ後継経営陣の負担が大きくないことと、役員が持株会を退会(退職)するときには、規程に従い強制的に自社株の持分を返還しなければならないので株式の分散が生じにくいことでした。
デメリットは、時価での売却に比べるとオーナーの収入が少なくなることでした。
案2のメリットは、株式の分散が生じにくいことと、時価での買い取りとなり、オーナーの収入が増えることでした。
デメリットは、社団法人の理事長がX社長なので、理事長の後任が必要となり事業承継の抜本策とはなり得ない点でした。
案3は、上場基準の難易度が高く上場までに時間がかかる上、同業者による買収を防ぐための安定株主対策も必要のため、選択できませんでした。
案4のメリットは、役員が経営権(株式)を後継経営者を中心に保有することで経営が安定することと、時価での買い取りとなりオーナーの収入が増えることでした。企業統治面では、案1同様の良策との判断でした。
しかし、デメリットとして、後継者が時価で株式を買い取るという点で資金負担が大き過ぎて、財務信用力、保証能力が十分でなく資金調達が難しいという事実がありました。
案5については悩ましいがあり得るとの判断でした。
メリットは、より広範囲から適格な会社・後継適任者を選択できる大企業(安定企業)の傘下となれば会社継続が安泰である点と、営業権も含めて企業価値が算定され、時価での買い取りとなり、オーナーの収入が増えるという点でした。
デメリットは、売り手・買い手双方の条件を満たす可能性は高くないこと、経営者は買収先主導でき決まること、現役員は解任される可能性があること、仲介会社・専門家への報酬負担が少なくないなどの点でした。
案6は、選択肢としてありませんでした。
これらの議論を重ねていくうちに、創業オーナーとしてある程度の創業者利潤(収入)を得る上、今後の会社継続・雇用維持が担保できる経営体制あるいは資本構成の両立を模索したいという思いを強く感じました。
会社の永続発展に向けて、経営者の判断を手助けすることがコンサルティングの価値
タナベコンサルティングの親族外承継の対策の最終的な基本方向を、X社長の意向を反映して「M&A模索後、役員持株会によるオーナーシップ発揮」としました。X社長が70歳になるまでは、3~4年間でM&Aを模索。その後、M&Aの条件が折り合わなかった場合、役員持株会による経営に移行するという計画を作成し、事業承継カレンダーに落とし込みました。
M&Aについては、ある程度の大手企業で、現役員および従業員の雇用を継続することを条件として、株式売却先を探すことになりました。「役員持株会のオーナシップで役員による経営」「M&Aによる第三者による経営」の両方を選択した訳です。その時の経営者の価値判断基準は、会社の永続発展でした。
本件、コンサルティングの約1年後、大手上場企業がA社をM&Aし、100%子会社としました。役員、従業員そしてX社長も会長として会社に残りました。また、Y専務が社長に就任するという好条件でした。
タナベコンサルティングは、経営者・オーナーに寄り添いながら、今だけでなく未来においても「企業の持続的成長」「企業価値向上」が実現するための価値判断基準を提供します。
本事例のように、親族外承継の様々な選択肢を提示し、経営者・オーナーの価値判断の手助けをすることがタナベコンサルティングの価値とも言えます。今後も事業承継にお悩みの多くの会社の永続発展のお役に立ちたいと思います。
担当コンサルタント
タナベコンサルティング
コーポレートファイナンスコンサルティング事業部
エグゼクティブパートナー
鈴村 幸宏
メガバンクにて融資・外為・デリバティブ等法人担当を経て、当社入社。「企業を愛し企業繁栄に奉仕する」を信条とし、経営戦略・収益戦略を中心に幅広いコンサルティングを展開。企業を赤字体質から黒字体質にV字回復させる収益構造改革、成長企業に対するホールディングス化とグループ経営推進支援、ファイナンス視点による企業価値向上、投資判断、M&A支援の実績を多数持つ。また、オーナー企業に寄り添った事業承継支援、経営者(後継者)育成も数多く手掛け、高い評価と信頼を得ている。
会社プロフィール
業種 | 家事サービス業 |
---|---|
所在地 | 東京都 |
売上高 | 24億円(FC含む) |
従業員数 | 2000名(FC含む) |
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