CASE 事例
オノダの木材垂直統合型ビジネスモデルへの挑戦
株式会社オノダは岩手県にある創業103年、設立71年の老舗企業です。
同社は木材商として創業し、昭和27年に製材所として法人化しました。
現在は、林業~製材~プレカット部材加工~住宅販売まで行う、木材垂直統合モデルを確立しつつあります。
2016年の弊社経営診断を起点に徹底的なコストダウン、キャッシュフロー経営の強化、販路拡大を実施。その間に事業承継も終え、現在はビジネスモデルの転換および収益構造の改善が実現しつつあります。
では、これまでの7年間の会社存続を賭けた経営改善活動を紹介させていただきます。
過大投資による経営危機
同社は※プレカットの加工・販売に加え、自社オリジナル住宅の製造・販売を実施するビジネスモデルでした。売上構成の80%は大手ハウスメーカーへのプレカット販売。プレカット部材は1社依存ですが、安定かつ高収益、好財務体質を維持していました。
そんな中、社長の実父である現会長が2012年に9億円(うち補助金3億円)の製材への投資を決断されました。創業の原点が木材商であり、岩手県の林業発展に貢献したいという会長の想いの下、上流工程の製材への大規模投資に踏み切られました。当初の投資回収計画では、簡易キャッシュフロー(当期利益+減価償却費)で借入金の返済原資は賄えるものでしたが、そもそも根拠(が)弱い晴天コースの計画であり、投資翌年から大幅赤字に転落。加えて、当初見込んでなかった追加の設備投資が3億円発生したこともあり、営業キャッシュフローは連年マイナス続き、返済もままならず、資金枯渇状態に陥りました。結果として投資前の売上を超える投資負担が重くのしかかり、会社存続の危機が訪れました。
※プレカット:木造住宅建築の際の木部工事において、現場での施工前に工場などで原材料を切断したり接合部の加工を施しておくこと
中期改善計画の策定
弊社にご相談いただいた2016年当時は、まさに危機的状態でした。
ついては、同社役員・幹部の皆様のご協力の下、中期改善計画の策定に取組みました。
経営改善計画の第一ボタンは、「ファイナンス改善」です。そのステップは以下の通りです。
- ①止血:当面の資金マイナスを止めるための止血策の意志決定
- ②スリム化:1年後に死守すべき損益黒字化モデルの立案
- ③中期改善計画:5年後のモデル損益の立案と年次具体策の明示
このような状態にある経営改善の原理原則は「キャッシュフロー改善→貸借対照表改善→損益計算書改善」です。
(1)止血
まずはキャッシュフロー改善の目標を設定した上で、徹底的な固定費削減、資産売却、返済のリスケ計画の策定です。17の固定費削減施策を立案しました。資産売却においては、製材機器については補助金が投下されているため売却は出来ないため、売却できる資産を洗い出し、時価を調査しました。資産売却前提で資金不足額を算出し、金融機関に返済のリ・スケジュール案を策定しました。
(2)スリム化
このステップのポイントは、「減収・経常利益黒字化策」の立案です。売上は雨コース(悲観的に読み)であっても、黒字化できる損益分岐点を模索し、更なるコストダウン対策を立案しました。これは金融機関へのコミットメントラインにもなりますので、具体的かつ実行可能策の立案がマストです。
(3)中期改善計画
このステップでは、以下の順で対策を立案しました。
- ①事業(事業戦略の方向性と短期・中期の実行策を決め)
- ②組織(事業戦略を実現できる組織体制を描き)
- ③収益(中期損益計画および重点指標の設定、中期貸借対照表、中期キャッシュフロー計画の順で策定)
ここで大切なのは、事業モデル転換のために必要なコスト(戦略投資)は必要です。コストダウンだけでは、成長する未来を描けません。
ファイナンスで策定した中期改善計画をドラフトとして、事業戦略・組織戦略の肉付けを行い、中期改善計画の作成しました。
目指すべき姿、短期/中長期の時間軸で打つべき具体策をスコープすることで、役員・幹部のベクトル一致、実行策の役割分担ができました。その後、速やかに金融機関に返済のリ・スケジュールの交渉を行い、受け入れていただきました。
改善計画の実行
経営は理論ではなく実践です。
中期改善計画を「絵に描いた餅」で終わらせてはなりません。そして改善計画は仮説であり、PDCAを回しながら軌道修正していかねばなりません。
(1)キャッシュフロー経営の強化
これ以上借入は出来ない苦しい財務状態が続いていました。
ついては、月商1ヶ月以上のキャッシュ保持を目標に、先行の資金繰り精度を高めました。目標を下回る予想が出た際は先手で対策を打つというアプローチを今も継続、徹底しています。現在は、先行3ヶ月予測は大きなブレが出ないほど精度は高まっています。基礎データとしての先行損益計画の精度向上も並行して実施しており、損益予測精度が向上したことも資金繰り精度向上に寄与しています。
なお、計画策定から現在に至るまで、1回だけ、金融機関に新規融資をお願いしましたが、現状は月商2ヵ月以上のキャッシュを保持できており、長期借入金は滞りなく返済、短期借入金の一部返済も出来ました。
(2)製材販路の拡大
投資した製材設備の稼働率を上げて、操業差損(単位当たり製造固定費上昇)を減らすため、販路拡大に取組みました。
この間にプレカット納入先のハウスメーカーの販売方針が、「木軸からパネル工法への転換」に変わりました。加えて坪数も減少基調であり、プレカット部材の売上は年々減少することが予想されました。このような状況下で、高付加価値商材である同商材の売上減少による利益減少インパクトは大きく、かつプレカット工場の操業低下による操業差損にも繋がります。
しかし、これは予測できる未来です。
オノダの主な強みは次の3点であり、これを活かして販路拡大に取り組みました。
同業からも引き合いが来るほどの乾燥技術を保有。間違いなく国内でもトップレベルです。また、構造材には使えませんが、超低水分率のドライウッドが製造できます。ドライウッドは木造構造物の高層化に伴い、今後の成長が期待できます。加えてサウナ用途等のニッチマーケット開拓も進めています。
②「杉3層パネル 恵森パネル」林業技術センターとの共同開発で生まれた三層ラミナ接着材です。
住宅部材として求められる寸法安定性・強度性能・環境性能などを備え持つ、画期的な建築部材です。国産杉材の端材や側取りを有効活用できるため、歩留まり率の改善にも貢献します。
会長がヨーロッパ視察の際、スウェーデンなど北欧地域での住宅寿命の長さに感銘を受け、日本でも木材を利用した息の長い住宅を皆さまに提供したいという想いで工夫を重ね、商品化しました。3年前より林業にも参入することで、木の性格を知り尽くし、木材としての質を極めるノウハウに更に磨きがかかりました。木材垂直統合モデルである同社だからこそ提供できる国内でもトップクラスの高断熱・高気密の住宅です。
図:企業公式ホームページより
そして、製材販促手段として3年前より「企業向け展示会」を年2~3回開催し、既存顧客のシェア拡大と新規販路の拡大に努めています。新たに営業機能を設け、展示会では工場メンバー総動員で対応しています。普段は顧客との接点があまり無い工場メンバーも、顧客の顔が見えたことで作業により魂が入っています。結果、10社以上の新規顧客の開拓に繋がり、製材売上は全体売上の2割まで育っています。
また住宅販促については、「地域住民向け木材加工体験企画 ウッドパーク」を開催。毎回来客数は増加しており、国産材の良さを体感してもらうことが住宅販売への導線へとなりつつあります。
図:企業公式Twitterより
まとめ
中期改善計画策定から7年間、同社は金融機関、タナベコンサルティングと三位一体で、経営改善に真摯に取組んできました。現在は黒字継続・財務体質改善に伴い、人材・設備への攻めの投資ができるようになりました。
未来は決して安泰ではありませんが、大きな経営危機を乗り越えたオノダは、迫り来る荒波を乗り切れる強いビジネスモデル確立への歩みを止めることはないでしょう。
担当コンサルタント
タナベコンサルティング
執行役員
東北支社長
藤井 健太
繊維化学メーカーにて開発営業、輸出業務等に従事後、当社に入社。クライアントとビジョンを共有し、その実現を支援することを使命とする。ビジョンの策定から実現に向けたプロジェクト推進、組織・マネジメントシステム構築、人材育成・社風改善において数多くの実績を持ち、きめ細かなサポートがクライアントから高い評価を得ている。
会社プロフィール
会社名 | 株式会社オノダ |
---|---|
所在地 | 岩手県奥州市水沢真城字北舘17 |
設立 | 昭和27年4月 |
代表者 | 代表取締役社長 土肥 まき子 |
売上高 | 10億円 |
従業員数 | 33名 |
皆様の様々な"経営"のお悩みをお聞きします!
経営に関する相談会
貴社の課題、専門コンサルタントがその場でアドバイスします。
- ・問診票(経営バランスチェックリスト)による自社の現状認識と課題の明確化
- ・貴社固有の悩みや問診票から見えた課題に対して、戦略・専門コンサルタントがアドバイス
- ・ホールディング経営・グループ経営における課題を解決する事例・ソリューションの提供
SERVICE
タナベコンサルティングのコーポレートファイナンス支援コンサルティングサービス
コンサルタント紹介
-
-
タナベコンサルティング
上席執行役員
コーポレートファイナンスコンサルティング事業部福元 章士
-
-
タナベコンサルティング
執行役員
北陸支社長番匠 茂
-
-
タナベコンサルティング
執行役員
東北支社長藤井 健太