中堅企業が実装すべき財務戦略
~「MIRAI承継」のソリューション~
- 事業承継
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本コラムは、ダイヤモンド社発行の「コーポレートファイナンス戦略」の第6章の抜粋記事です。
「MIRAI承継」のソリューション
(1) 5つの出口戦略
「ファーストコールカンパニー(100年先も顧客から1番に選ばれる会社)」を目指すうえで、どのような企業でも、どこかのタイミングで必ず事業承継を経験する。すべての企業の成長過程において、事業承継は良くも悪くもターニングポイントになる。
経営者や筆頭株主(オーナー経営者)の交代が発生したとき、親族内に後継者がいるのかいないのか、社内に後継者がいるのかいないのかにより、親族内承継、内部昇格を検討する。親族にも、社内にも後継者がいなければ、第三者承継としてM&Aを検討する。また、事業環境の変化により業績が悪化し、事業継続が困難となれば、廃業か、倒産か、再建かの判断を迫られる。この場合、M&Aという最後の選択肢が残っており、自社を救済してくれるホワイトナイト(友好的買収者)が得られれば事業の存続が可能である。
持続的な企業価値向上を目指すためには、事業承継のプランニングが必須である。資本面から見て将来の経営をどのように未来へつないでいくかの出口は5つあり【図表6-3】、TCGではこれらの出口戦略について一気通貫でサポートしている(「MIRAI承継ソリューション」)。一部は前章でも言及したが、あらためて簡単にご紹介させていただきたい。
① 親族内承継
親族内承継は、会社の内外の関係者が心情的に後継者を受け入れやすく、株式承継の選択肢も多い(売買・贈与・相続)ことから、事業承継におけるファーストチョイスとなる手段である。ただ、相続人が複数いる場合は後継者の選択や経営権の集中が困難なほか、心情的に後継者の適格性の判断が甘くなりがちである。したがって、親族内に後継者候補がいる場合は、できるだけ早く後継者を決めることが重要となる。そして、ステークホルダーから信頼を得られるように、時間をかけて育成する。
後継者の育成においては、社内外の仕事を多く経験させると同時に、外部セミナーへ積極的に参加させるなど、経営者としての能力を磨く機会を与えることが大切である。さらに、後継者を中心とした次世代の幹部メンバーの育成と組織体制構築も重要なテーマになる。また、相続に当たっては、後継者に株式(経営権)を集中させることで経営が安定する。しかし、株価が高騰している場合は、ほかの親族に配慮した長期的な株式移転の対策が必要となる。
② HDC
2つ目は、HDC(持ち株会社)である。大株主のオーナー(創業家)がHDCを設立し、グループの資本(財産・債務)を代々継承する一方、経営は優秀な社員に任せることで、「資本と経営」を分離する手法である。昨今は、M&Aの増勢とともに、複数事業を有する企業グループでホールディング経営を採用するケースが増えている。M&Aや企業組織の再編の促進に加え、各事業の意思決定の迅速化や業績責任の明確化が図れるほか、「事業会社の社長」というポジションをつくることで次世代の経営者人材を育てることもできる。また、非上場株式の評価において、グループの成長と株価高騰を切り離すことができるメリットもある。
半面、デメリットとしてはグループ内部の合理化に時間がかかることや、事業会社の数が増えるほどグループとしての一体感が失われやすいことが挙げられる。また、マネジメント層の慢性的な人手不足にも悩まされやすい。事業会社間で部門・部署や機能が重複し、グループ全体で無駄なコストが発生することも多い。グループ全体の経営企画機能やガバナンス・マネジメント機能についてはHDCが引き受け、各社の間接業務を集約するシェアードサービスを手掛ける事業会社を新たに設けるなど、グループ組織のデザインも重要となる。
③ IPO
3つ目は、IPOである。マイカンパニー(社長が株式の大部分を所有する会社)から、パブリックカンパニー(上場企業)へ転換し、資本と経営を分離する手法である。上場基準の難易度の高さや、上場維持コストの負担、ディスクロージャー(情報開示)に伴う競争上の不利益といったデメリットはあるが、直接金融による資金調達手段の確保や、証券取引所で株式を売却して創業者利益も得られるほか、上場による社会的信用度のアップとストックオプション(自社株購入権)制度の運用で優秀人材を採用しやすくなり、能力主義で後継者を選ぶことが可能となる。このように、IPOは非親族承継を実現するうえで有効な手段といえる。
一方、オーナーの持ち株の売り出し比率が高かったり、上場後に業績予測の下方修正を繰り返したりすると、「創業者利益のための上場」と評価され(いわゆる「上場ゴール」)、株価が低迷を続けるケースも少なくない。IPOのメリットを適正に享受するためには、資本政策を策定する早い段階から外部の専門家のアドバイスを得て、十分な検討を進める必要がある。
④ MBO
4つ目は、MBOである。経営者の親族に後継者がいない場合、自社の役員陣へ自社株式を譲渡する手法である。IPOとは違い、マイカンパニーから「アワー(私たちの)カンパニー」(株式買い取りによる経営権の取得)への転換という意味を持つ。役員陣が経営権(株式)を保有することで経営が安定し、次代に経営をつなぐことができる。事業を熟知している役員・幹部が経営を行う点で、社員から納得を得やすく、取引先やメインバンクなど社外の不安も払拭させるメリットがある。最近では上場企業による非上場化の手段として利用されることが増えてきた。
ただ、親族内承継を続けてきた企業においては創業家が会社の求心力となっており、オーナー社長がトップダウン型のリーダーシップを発揮していることが多い。MBOで株式と経営権を承継したとはいえ、創業家以外の役員陣がオーナーと同様の役割を果たすことは容易ではないため、全社員が経営に積極的に関与していく全員参画型経営への転換が同時並行で求められる。
自社株式買い取り資金の調達スキームとしては前述したLBOがよく活用される。これは買収対象企業の資産価値や収益力を担保に、金融機関や投資ファンドなどから必要資金を調達して株式を買い取るものである。買収した後は、企業のキャッシュフローで借り入れの返済を賄う必要があるため、将来的な事業計画(返済計画)を策定したうえで検討する必要がある。
⑤ M&A
5つ目が、M&Aである。株式(全部または一部)を売却、あるいは事業を譲渡することで企業の存続を目指す。企業の売却をゴールとして見るのではなく、事業を存続させるための手段としてM&Aを活用する。M&Aは「身売り」というネガティブなイメージを持たれることも多いが、社内に後継者のいない企業にとっては社外から適任の後継者を選択できるメリットがある。
また、大企業(安定企業)の傘下に入れば事業も安定するため、経営承継において積極的に活用されている手法である。さらにシナジー(バリューシナジー、コストシナジーなど)が得られる可能性を考慮すると、事業継続だけではなく、大きな成長に向けたターニングポイントとしても活用できる。
「経営権がなくなる」「買収先主導で後継者が決まる」などのデメリットはあるが、自社の持続的成長を実現するための手段として有効な選択肢であることには間違いない。
(2) スケジューリングとプランニング
5つの出口戦略のうちどのパターンを選択するにせよ、資本の承継と組織の承継という両軸を考えることが大切である。
① 承継カレンダー
まず、株式承継と組織再編を併せて検討するため「承継カレンダー」を作成することから始める。これは現社長や経営幹部を含めた全社員を縦に、経過年数を横に並べ、誰が何歳にどの役割を担うのかをスケジューリングしたカレンダーである。何年後に誰をどのようなポジションに引き上げていくか、どの役割の人材が社内に不足しているかなどを見える化して、将来の組織を検討する。
企業経営に事業計画書があるように、事業承継にも計画書が必要である。その計画には、資本面、組織面、人材面などにおいて、何をいつまでに実施するかトータルで判断し、スケジューリングしていくことが求められる。
TCGでは、「事業承継は10年事業である」と提唱している。承継カレンダーは「3・4・3の原則」に基づいて承継の完了時から10年逆算して検討する。承継前の3年は準備期間で、後継者に専務以上の役割を経験させる。次の4年は移行期間で、先代社長(会長)が並走して新社長(後継者)をサポートする。さらに次の3年は自立期間で、会長が代表権を外すというスケジュールである。
もちろん、会社によって時間軸の前後を判断することもあるが、原則としてこのステップを変えてはいけない。また、後継者を支える幹部の育成も同時並行で進める。後継者の年齢から7歳前後のメンバーを中心に組成することが望ましい。
② サクセッションプラン
また、組織の将来のありたい姿(長期ビジョン)を検討し、来るべき承継のタイミングに備えるための設計図をプランニングする必要がある。この設計図が「サクセッションプラン」(後継者育成計画)である。まず、後継者と支える経営幹部をどのように育成するかを体系的に組み立てることが大切だ。
具体的には、将来の経営幹部候補を選抜し、長期ビジョンや中期経営計画を策定するプロジェクトを定期的に開催して、経営感覚を体感させる。また、階層別での教育体系も整備し、教育を実施しながら人材をプールして、後継者候補の人材を選定していく後継体制づくりを会社の仕組みとして構築・実装する必要がある。
特に親族内後継者の性格特性として、共感性・社交性が高い一方、自律性が低く、劣等感が強い傾向にある。創業者や先代社長の経営スタイルをそのまま引き継ぐことは現実的に難しいなか、経営者として帝王学や事業センス、経営センスを身に付けていく必要がある。
TCGはこれまでのコンサルティングを通じて独自開発した事業承継メソッドを持っており、後継者育成プログラムとして「後継経営者スクール」を開催している。ぜひ活用していただきたい。
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