中堅企業が実装すべき財務戦略
~IPOのメリットとポイント~
- 事業承継
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本コラムは、ダイヤモンド社発行の「コーポレートファイナンス戦略」の第5章の抜粋記事です。
IPOのメリットとポイント
(1) IPO推進で重視すべきポイント
企業がIPOを目指すに当たり、市場からの評価を最大化し、企業価値をバリューアップすることは非常に重要である。この過程で重視すべきポイントは、
・財務健全性の向上
・ビジネスモデルの明確化
・ガバナンスの強化
―という3つである。
まず、財務健全性の向上は、投資家からの信頼を得るうえで必要不可欠となる。具体的には、適切な財務資本政策を実施し、安定した収益性と成長性を示すことが求められる。財務データの透明性を高め、リスクを適切に管理することで、投資家は企業の将来性をより正確に評価できるようになるため、IR(インベスターリレーションズ:株主・投資家向け広報活動)の手法も重要である。
次に、ビジネスモデルの明確化もまた、投資家にとって重要な判断基準である。ここでのビジネスモデルには「成長戦略」が含まれている必要がある。企業がどのように収益を上げ、成長していくのかを明確にすることで、投資家はそのビジネスの持続可能性を判断することができる。特に、独自性や競争優位性を持つビジネスモデルは、市場から高い評価を受けやすい。
最後に、ガバナンスの強化は、企業の持続可能な成長を支える基盤である。透明性の高い経営体制を整え、適切な情報開示を行うことで、投資家は企業の経営に対する信頼を深めることができる。また、社内のコンプライアンス体制の強化も、リスクの未然防止に寄与する。
これらのポイントを踏まえ、企業はIPOを成功に導くための戦略を練るべきである。財務健全性の向上、ビジネスモデルの明確化、ガバナンスの強化を通じて、企業価値の最大化を目指すべきだ。これらの取り組みは、市場からの評価を高め、長期的な成長を促進するために、非常に重要である。
(2) IPOのメリットと株式との関係性
親族内承継で株式を引き継ぐ際には、資金が必要になる。ただ、非上場企業は株式の換金性に乏しいので、相続税などの納付のために別途、資金調達が必要になるケースもある。その点、上場企業であれば、いつでも株式市場を通じて株式の売買が可能となるため、換金性は高まる。
また、役員や従業員が株式を取得し、事業を承継する場合は、その株式購入資金は多額になることが多い。そのため、資金調達はより重要な経営課題となる。上場企業であれば、株式の所有と経営が分離しているため、親族以外の役員や従業員が事業承継する場合、必ずしも株式を譲渡する必要がない。
つまり、事業承継対策の観点で見ると、IPOは有効な手段といえる。優秀な後継者候補を外部から招聘することを目的とした場合においても、IPOで自社の知名度や信用力を向上させることは有効だ。
「事業承継を目的としたIPOは非合理的」と考えられがちだが、前述のメリットもあるため、IPOは事業承継手段の選択肢の1つとして考えておくべきである。
非上場企業であれば、株式は同族など特定の者が保有し、その譲渡も制限されるのが一般的である。IPOは、その自社株式を不特定多数の一般投資家に開放し、株式市場で自由に売買できるようにする。
IPOは、企業や経営者、従業員に多くのメリットがある一方、一般投資家に資本参加を求めることになるため、企業はIPOをきっかけにプライベートカンパニー(個人が所有する会社)を脱却し、パブリックカンパニー(不特定多数の株主が所有する会社)に変革していかなければならない。それと同時に、社会的責任も問われることとなる【図表5-13】。
日本取引所グループ(JPX)は、2021年6月に上場企業が順守すべき規範「コーポレートガバナンス・コード」を改訂し、「株主の権利・平等性の確保」「株主以外のステークホルダーとの適切な協働」「適切な情報開示と透明性の確保」「取締役会等の責務」「株主との対話」の5つを「基本原則」として定めている。
企業は、財務情報や会社組織・経営体制などの整備情報、成長戦略など、投資家が投資判断を行うためのさまざまな情報を提供しなければならない。また、投資家の判断に影響を与えるほどの経営上の重要な事実が判明した場合には、その時点で速やかに情報を開示(適時開示)することが求められる。
これらの情報開示に費やす労力や費用は、IPOの準備前とは比べものにならないほど大きい。つまり、プライベートカンパニーからパブリックカンパニーへ変化するためには、企業価値の向上はもちろんのこと、社内体制の整備にも取り組む必要がある。
(3) スケジュールと関係者の役割
IPOまでのスケジュールは会社の規模や管理体制によって異なるが、大きく3つの時期に区切られる。上場の意思決定と、上場準備会社になるための「準備時期」(上場3期前)、「上場準備時期」(上場2期前、1期前)、「上場申請時期」である。
事業承継の手段としてIPOに取り組む場合も、承継のタイミングを見据えて事前に準備する必要がある。また、上場審査に関わる重大事項などがある場合は、より多くの時間を要することも知っておいていただきたい。
IPOは企業の独力で成し遂げられるものではない。IPO全般に関する助言・指導やIPOの審査を行う主幹事証券会社、会計監査を行う監査法人、申請書類などのサポートを行う印刷会社、株式事務を代行する株式事務代行機関など、外部関係者の支援を受けながら管理レベルを向上させることが不可欠である。また、株式上場前の資金の出し手であるベンチャーキャピタルや、コンサルティング会社、弁護士、税理士、社会保険労務士、情報開示の支援を実施するIR会社などの関係者もIPOに関与することを忘れてはならない。
IPOに取り組むに当たり、信頼できる外部パートナー選びは重要であり、担当する専門家の経験や熱意、人柄などを十分に検討したうえで選択することが重要だ。
IPOに取り組むに当たって最も大切なことは、経営者の「覚悟」と「誠実さ」である。「自分の会社はなぜ上場すべきなのか」という必要性の認識と、「必ず実現させる」という強い「覚悟」を持ち、関係者からの指導・指摘に真摯に耳を傾ける「誠実さ」が、IPOを実現させるための近道である。
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