COLUMN

2025.12.23

収益改善の成功事例 |
効果的なポイントについて徹底解説!

  • 資本政策・財務戦略

収益改善の成功事例 | 効果的なポイントについて徹底解説!

目次

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企業の収益性とは

企業の収益性とは、売上高や投下資本に対して、どれだけ効率的に利益を獲得できるかという「収益創出力」を指します。
収益性の分析には、主に二つの視点があります。

一つ目は、売上高を基準とした「利益率」です。
主な指標としては、次のようなものがあります。
①売上高総利益率:商品やサービスにおける付加価値を示す
②営業利益率:企業の本業の収益性を表す
③売上高経常利益率:本業に加えて、受取利息や支払利息などの財務活動を含めた総合的な収益性を示す

二つ目は、資本を基準とした指標です。
代表的なものとして、ROE(自己資本利益率)およびROA(総資本利益率)などが挙げられます。
これらはいずれも、企業の経営効率や収益体質を測るうえで重要な指標です。

利益率を改善するための取り組みには、大きく分けて二つの方向性があります。
一つ目は、サプライチェーン(商流)の見直しによる業務の効率化です。
二つ目は、バリューチェーン(価値連鎖)全体を俯瞰したビジネスモデルの転換による企業価値の向上です。

前者は主に同業他社から学ぶ改善手法であり、導入しやすい半面、利益率の改善幅は限定的です。
一方、後者は異業種から示唆を得ることが多く、実行には一定の困難を伴うものの、高い改善効果が期待されます。

本コラムでは、バリューチェーンの再構築によって収益性の改善を実現した具体的な事例を紹介します。

収益改善に成功した老舗メーカーA社の事例

事例として、トップの英断でフロー型からストック型にビジネスモデルを転換したA社の取り組みを紹介します。

固有技術である旋盤加工技術をコンタクトレンズ製造へと応用し、角膜コンタクトレンズの老舗メーカーとなったA社は、トップブランドでありながら、一時期、大幅な収益悪化に陥りました。
そこからビジネスモデルを転換し、高収益企業へと生まれ変わった軌跡と成功要因を以下にまとめます。

(1)トップブランドであることへのおごりが業績悪化とマーケットの不信感へ

A社はトップブランドであるがゆえに、使い捨てコンタクトレンズ市場への参入遅れ、モールディング製法の開発遅れ、新興量販店チャネルの開拓遅れなどの要因によって、ライバルに対して後手に回っていました。
市場は成長期を迎え、ライバルの参入が相次いだ結果、価格競争が激化しました。

いわゆるレッドオーシャンです。

多くの量販店が「A社製品70%オフ」とチラシに大きく掲げ、トップブランドを囮に他社の低価格品を販売するという不誠実な商法が横行しました。
A社の直営店には、消費者から品質に関するクレームが多く寄せられたものの、実際にレンズを確認するとA社製ではないという事例も見受けられました。

消費者を誤認させる販売が広がるなか、「高度管理医療機器(クラスⅢ)」に該当する製品が、十分な説明もなく販売される状況が続き、視力補正という本来の機能が十分に果たされず、目の障害を引き起こすリスクも顕在化し、市場の信頼性が低下しました。
「安全」という価値が、「価格」へとすり替わってしまったのです。

(2)事業承継を契機とした新経営陣の覚悟と決断

価格競争と信頼低下が進行する中、5年以内に倒産するとA社が見られていたタイミングで、現トップが事業を承継しました。
まさに背水の陣であり、次なる一手が求められていました。

そこで現トップは、製品売り切り型から、定期購買によるストック型プラン(いわゆるサブスクリプション型)への転換を提言しました。
顧客から月額料金を前払いで受け取るという新たなキャッシュフロー設計は、従来の商習慣を大きく変えるものでした。
役員の多くはこの提案に反対しましたが、経営トップはトップダウンで導入を断行しました。

責任を取る立場でなければ、リスクを取った大胆な方針転換はできないという信念に基づいた決断でした。
「誰にも未来は見通せない。だが、決断し、実行するのが経営者の責務である」との経営哲学のもと、変革が始まりました。

サブスクリプション型ビジネスモデルとは、商品やサービスを単発で販売するのではなく、顧客と定期的な契約を結び、継続的に料金を受け取る仕組みです。
顧客と長期的に関係性を構築しながら、安定的な収益を積み上げる「ストック型モデル」として、動画配信や電子書籍、カーシェアリングなど多くの業界で広く採用されています。

(3)危機的状況からの打開策

全社戦略として採用されたサブスクリプション型プラン(会員向け定額保証サービス)は、まず直営店から丁寧に展開が開始されました。
当初、社内外からの反応は懐疑的でしたが、消費者は即座にこのサービスの価値を認めました。
高評価は、卸売事業者、一般小売店、社内へと順次広がり、好循環が生まれました。

結果として、売上の半数以上が安定的な定額収益に移行し、業績はV字回復を遂げました。
この経験から得られた教訓は、革新的なサービスの価値を最も早く見抜くのは常に「消費者」であるという点です。
現場や顧客の声を無視したマーケティングは成り立たず、卸売事業者主導の従来型商流からの脱却が図られました。

(4)流通秩序の回復とトップブランドの再確立

サブスクリプション型プランの普及は、結果として流通秩序の正常化を促しました。
ユーザーには高品質な製品と適正なサービスによる「安心」が提供され、販売店では継続的な顧客フォローによる安定した収益が実現し、メーカーは収益の安定化により研究開発への再投資が可能となりました。

このように三者のメリットが循環することで、粗悪品は市場から排除され、信頼性が回復していきました。

(5)未来への投資

得られた利益は、新製品の開発支援、文化事業への協賛、地域貢献を目的としたボランティア活動などに積極的に活用されています。
なかでも、ボランティア活動については、「賞与が減っても継続してほしい」という社員の声も寄せられており、社員のエンゲージメント向上に対する効果が見受けられます。

これらの取り組みは、単なる利益の再配分にとどまらず、同社のトップブランドとしての地位をさらに強固なものとし、将来の持続的成長に資する投資といえます。A社は常識を否定し、ビジネスモデルと流通構造を変えることで、新しい価値とライフスタイルを創出しました。

現状の収益状態にもよりますが、ライバルに模倣されにくいビジネスモデル改革による収益改善に向き合ってみましょう。

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備考:有価証券報告書に記載のあるセグメント利益を各セグメント収益で割って算出。

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