1.DXとは
新型コロナウイルスの流行に続き、原材料・資材高騰、慢性的な人手不足、今や変化が当たり前の時代となっています。長期的な成長戦略を描くためには環境の変化に対応し、競争優位性を常に確立し続けなければなりません。DX・デジタルはそんな時代におけるビジネスの中心に位置していると言えます。
(1)DXの定義
タナベコンサルティングでは、DXの定義について「外部環境の激しい変化に挑み、データとデジタル技術を活用して、製品、サービス、ビジネスモデルと業務、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争優位を確立する」としています。
DX(Digital Transformation)は、字の如くトランスフォーメーション(変革)であり、質の変容をもたらすものでなければなりません。しかし、多くの企業で部分的な取り組みに終始し、限定的な成果に留まってしまうという課題が散見されます。これはあくまでも「デジタルの活用」です。DXは部分的な変革ではなく、意義・構造そのものから見直すことが肝要であると言えます。つまり、DXの目的は競争優位性の発揮であり、経営戦略そのものの本質的な変革を目指すものでなくてはなりません。
(2)DXの現状
日本でDXに取組んでいる企業の割合は2021年度調査の55.8%から2022年度調査は69.3%に増加、この1年でDXに取組む企業の割合は増加していることが伺えます。(図表1)。ただし、全社戦略に基づいて取組んでいる割合は米国が68.1%に対して日本が54.2%となっており、前段で述べたような経営戦略そのものの本質的な変革となるDXに取り組めている企業の割合はまだまだ低く、「デジタル活用」に留まらないDX化の推進の必要性が高いと言えます。
また、DX化における成果についてはどうでしょうか?
DX白書2023によると日本で「成果が出ている」の企業の割合は2021年度調査の49.5%から2022年度調査は58.0%に増加した一方、米国は89.0%が「成果が出ている」となっており、日本でDXへ取組む企業の割合は増加しているものの、成果の創出において日米差は依然として大きい状況となっています。
いち早くDXを「実装」した企業が競争優位性を確立してゆく中、日本国内においてはDXの重要性は理解しつつも、着手できていない企業は多数存在します。
着手ができない、DX「実装」に至らない要因として、経営トップのデジタルリテラシーの欠如や、企業風土などの社員側の課題が挙げられることがあります。例えば今の仕事への固執・変革を受け入れられない企業風土、社員側のDXマインドの低さです。
社内にデジタルに取り組む価値をしっかりと伝え、DXに馴染むカルチャーを社内に醸成しなければなりません。DXが当たり前の企業文化をトップ自らが醸成し、戦略リーダーがDXを推進できる組織をつくること、また、『DX人材』を育成することが非常に重要です。
2.DX化を推進する4つの領域と4つのステップ
タナベコンサルティングでは経営理念・ビジョンに即した自社に最適なDXストーリーを策定したうえで推進してゆくために4つの領域と、4つのステップを提言しています。 DXは経営戦略そのものと紐づいており、会社全体に大きく関わる取り組みであるものの、あくまで手法でしかありません。だからこそ何を実現するためのDXであるかを明確にビジョンとして描く必要があります。
(1)4つのDXセグメント
繰り返しになりますが、DXはあくまで手段です。経営全体におけるどの領域で、何のためのDXであるか、明確なDXのビジョンが必要です。そこでタナベコンサルティングではDX領域をビジネスDX、マーケティングDX、マネジメントDX、HR DXの4セグメントに整理し、各セグメントごとにDXビジョンの構築からステップを進める方法を提言しています。
(2)DX実現のための4つのステップ
冒頭で述べた通り、DXを本当の意味で「実装」できておらず、「デジタル活用」にとどまっている企業はまだまだ散見されます。DXを「実装」し、持続的な成長を目指すためには、DXを通じて実現したいことをDXビジョンとして経営戦略に沿って描くことから始める必要があります。まず政府が制定したDX認定制度でも、DX成功のために、「まずはデジタルを前提とした経営ビジョン・DX戦略と、その推進体制作りが必要」とその必要性に言及しています。「何からやるか」の前に、「DXを通じて何を実現したいのか=DXビジョン」を描き、「ビジョンとオペレーションをしっかりとつなぐ」ことが重要なのです。
①DXビジョン策定(構想)
まずはDXを通じて何を実現したいのか=DXビジョンを再定義することが肝要です。
最初に着手すべきなのは、事業ビジョンに則して、デジタルによる企業変革の目的を明確化し、自社がどのような価値をステークホルダーに提供するのかを定めることです。
DXビジョンは「道しるべ」であり、DXを推進する上での判断基準としての役割を果たします。実装段階で必ず原点に立ち返って、「本当に必要なのか」を問うためにも重要です。
DXビジョンがない状態でのDX推進は自社に混乱をもたらし、本来のあるべき姿を見失ってしまうリスクがあります。そんな状態ではデジタルを使ってもトランスフォーメーションは実現できません。DXビジョンに基づいた取り組みであるからこそ、全社員でDXを推進することができ、競争優位性が生まれ、DXの価値が実装されるのです。
社会全体が変容し、新しい価値観が生まれる中で、自社の価値をより多くのステークホルダーに届けるための手段として、経営者はDXの必要性を全社員に発信することが必要です。
②DX戦略策定(設計)
DXビジョンの策定後は、実現のために何が必要であるかをDX戦略として設計します。DXレベルの現状認識をしたうえで業務フロー・財務・組織の観点から目指す姿とのギャップと課題を洗い出します。次に外部環境・内部環境の経営状況を分析し、自社のバリューチェーンプロセスをデジタル・顧客機転で整理、DXビジョン実現に向けた戦略を具現化します。
推進体制・投資採算計画・人員計画も含めた5年後の目指す姿を描き、前述の4つの領域ごとにシナリオを構築し、それぞれの領域でのロードマップを策定します。
③DXアクションプランの策定(意思決定)
戦略設計の中で組み立てたロードマップに則して、事業・システム・組織・財務の切り口でシステム導入後のアクションプランを策定します。その後、投資意思決定を経てシステム導入に着手します。
システム導入前には今一度「DXビジョン」に立ち戻り、ビジョンの実現のためのDXとなっているかどうか再度確認することをお勧めします。
④DX推進・成果評価(導入・運用)
システム導入後はアクションプランに沿って成果に繋げるためのPDCAを回します。
DXはシステムを導入して完了ではありません。DXという手段を最大活用しながらビジョン実現に向けて改善を繰り返してゆく必要があります。
DXは今やビジネスの中心であり、「DXを"実装"」できた企業が競争優位を獲得し、持続的発展へのパスポートを手にすることになります。
「デジタル活用」に留まらない真の「DX実装」に取り組んでいきましょう。