システム導入の前に必要な、食の現場の「現状認識」

コラム 2026.05.13

利益改善は、現場・デジタル・市場の現在地を知ることから始まる

マネジメントDX 生産性向上
システム導入の前に必要な、食の現場の「現状認識」
目次

「利益を改善したい」「現場をもっと良くしたい」。そう考えたとき、多くの企業は施策やシステム導入の検討から始めます。しかし、本当に必要なのはその前段階です。まず、自社の現状を正しく認識できているか、そして自社の強みを把握できているか。

タナベコンサルティングでは、事業・経営を部分ではなく全体で捉える視点として1T4Mの考え方を重視していますが、食の現場の改善でも大切なのは、この視点です。個別論点に入る前に、まず全体像の中で自社の現在地を見極めることが必要です。

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※タナベコンサルティング提唱の「1T4M」

食品製造業や多店舗展開の外食企業に共通して言えるのは、利益改善と現場改善の出発点は、打ち手探しではなく「自社の現在地」を見極めることにあるという点です。本稿では、現場・デジタル・市場の3つの視点から、改善の入口となる現状認識の重要性を整理します。

1. なぜ今、食の現場に「現状認識」が必要なのか

食品製造業や多店舗展開の外食企業を取り巻く環境は、この数年でさらに厳しさを増しています。原材料費や人件費の上昇、人手不足の慢性化、現場マネジメントの負荷増大、そして市場や顧客ニーズの変化。こうした環境下で、多くの企業が「利益をどう残すか」「現場をどう改善するか」という課題に向き合っています。

そのなかで、改善策としてよく挙がるのが、デジタル活用やシステム導入です。実際、見える化、在庫管理の高度化、計画精度の向上、会議資料の自動化、教育の標準化など、デジタルが果たせる役割は非常に大きく、今後も重要性は増していくでしょう。

ただし、ここで一度立ち止まって考えたいことがあります。それは、改善のスタートは本当にシステム導入なのか、という点です。改善が思うように進まない企業ほど、打ち手の前に必要な「現状認識」が十分にできていないことが少なくありません。売上や原価の数字は追っている。会議もしている。システムも一部入っている。現場も忙しく動いている。にもかかわらず、利益が残りにくい、現場負荷が下がらない、改善が定着しない。こうした状態は決して珍しくありません。

なぜなら、改善の本質は「何を入れるか」ではなく、「今自社がどこにいるのか」を正しく捉えることにあるからです。

そして、その現状認識には少なくとも3つの視点が必要です。

  • ・現場の現在地
  • ・デジタルの現在地
  • ・市場の現在地

この三つを切り分けずに見ることが、利益改善の出発点になります。

2. 現場の現在地を見誤ると、改善は部分最適に終わる

まず重要なのは、現場の現在地です。食品製造業であれば、生産計画と実績の差異、在庫と欠品の関係、工程ごとの負荷、属人化した判断、紙やExcelに依存した管理など、日々の運営に多くの課題が潜んでいます。一方、多店舗展開の外食企業であれば、店舗ごとの運用のばらつき、店長依存のマネジメント、ロス管理の精度差、教育の属人化、衛生やクレンリネスの基準の揺れなどが、利益と現場負荷の双方に影響を与えます。

ここで大切なのは、単に「忙しい」「人が足りない」「利益が薄い」といった現象面だけを見るのではなく、その背景にある運用構造を確認することです。

たとえば、次のような問いを持つことが重要です。

  • ・誰に判断が集中しているのか
  • ・基準がなく、現場任せになっているのはどの工程か
  • ・どこで二重入力や手戻りが起きているのか
  • ・会議や報告は、本当に改善につながっているのか

こうした点が曖昧なままでは、改善策を打っても目先の対処に終わりやすく、再発を繰り返します。

利益改善や現場改善は、現場の努力をさらに求めることではありません。まずは、現場がどう動いているかを構造で捉え、どこに詰まりがあるのかを見極めることが出発点です。

3. デジタルの現在地は、「システムの有無」ではなく
「活きているか」で見る

次に必要なのが、デジタルの現在地の認識です。ここでよくある誤解は、「システムが入っていれば前進している」「紙を置き換えれば改善できる」という見方です。しかし、実際には、システムを導入しただけで成果が出るほど、現場の改善は単純ではありません。

たとえば、POSや勤怠、販売管理、生産管理の仕組みが入っていても、それが現場の判断や経営の意思決定につながっていなければ、単なる記録装置にとどまります。データはあるが活用されていない、入力はしているが基準がバラバラ、見える化はされたが行動に変わらない。こうした状態は、現場で非常によく見られます。

つまり、デジタルの現在地は「何を導入しているか」ではなく、

  • ・どこまで見える化できているか
  • ・どこまで判断や改善に使えているか
  • ・現場の運用とつながっているか

という活用度の視点で見なければなりません。

また、もう一つ大切なのは、デジタル活用の目的を見極めることです。そのデジタルは、今ある課題を解決するためのものなのか。それとも、自社の強みをさらに伸ばすためのものなのか。この違いを曖昧にしたまま導入を進めると、ツール選定も投資判断もぶれやすくなります。

大切なのは、デジタルを目的にしないことです。あくまで、現場改善や利益改善のための手段として位置づけることが必要です。

4. デジタル導入の前に、まずアナログな運用を整える

ここでさらに強調したいのは、デジタル導入の前に、まずアナログな運用を見直すべきだという点です。システムを入れても効果が出ない企業の多くは、現場運用のルールや基準が曖昧なままです。

  • ・誰が何を判断するのか
  • ・何を記録し、何を共有するのか
  • ・異常時の対応基準は何か
  • ・会議ではどの数字を見て、何を決めるのか
  • ・標準手順は整っているのか

こうした基本が揃っていない状態でシステムを入れても、結局は入力負荷が増えたり、形骸化したり、現場に「また増えた」と受け止められたりします。

特に食の現場では、衛生、安全、品質、提供、接客、生産、教育など、多くのテーマが日々並行して動きます。だからこそ、まずは「守るべきこと」「整えるべきこと」「減らすべきムダ」「伸ばすべき強み」を整理し、運用の土台を整えることが欠かせません。この順番を飛ばしてしまうと、デジタルはむしろ混乱を増幅させることすらあります。

改善において本当に必要なのは、アナログを否定することではなく、アナログとデジタルの役割を整理することです。人が判断すべきことと、データで支援すべきこと。現場に残すべき柔軟性と、標準化すべき領域。この切り分けができて初めて、デジタルは活きた投資になります。

5. 内部改善だけでは足りない。
市場の現在地も見る必要がある

改善という言葉を使うと、どうしても社内の効率化や現場の見直しに意識が向きます。もちろんそれは重要です。しかし、内部ばかりを見ていると、もう一つの重要な視点を見落としやすくなります。それが、市場の現在地です。

顧客ニーズはどう変わっているのか。競合はどのような価値を打ち出しているのか。自社の強みは、どの市場でより評価されやすいのか。既存の強みは、今後も同じように通用するのか。こうした問いを持たないまま内部改善だけを続けていると、気づいたときには市場が狭まり、競争優位が薄れていることがあります。

利益改善は、単にコストを下げることだけではありません。自社の強みを、どこに、どう当てるかという視点があってこそ、持続的な成果につながります。だからこそ、現状認識には、社内だけでなく社外を見る視点も必要です。ここで言う市場の視点は、大がかりなマーケティング施策の話ではありません。まずは、自社の強みが誰にとって価値になるのか、どの変化に対応すべきなのかを認識することです。この視点があるだけで、現場改善の意味づけも、デジタル活用の方向性も、かなり変わってきます。

6. 自社の強みを認識することが、改善の軸をぶらさない

現状認識とセットで大切なのが、自社の強みの認識です。改善というと、多くの企業は課題ばかりを見がちです。もちろん課題把握は必要です。しかし、課題だけを見て改善を進めると、どうしても「不足を埋める活動」に偏りやすくなります。結果として、現場は疲れ、取り組みは続かず、成果も出にくくなります。

一方で、自社の強みを把握したうえで改善を進める企業は、取り組みの軸が明確です。現場力が強みなのか。品質の安定性が強みなのか。商品開発力や対応力が強みなのか。教育力なのか。顧客との関係性なのか。この強みを起点にすると、何を残し、何を変えるべきかが見えやすくなります。

デジタル活用も同じです。課題解決のためのデジタルなのか、強みを伸ばすためのデジタルなのか。その見極めができていれば、投資判断はより明確になります。

7. 次回は、「値上げだけでは利益が残らない理由」を考える

改善のスタートは、打ち手探しではありません。まず、自社の現在地を正しく捉えること。現場、デジタル、市場の3つの視点から現状を見つめ、自社の強みを認識すること。そこから初めて、利益改善と現場改善は前に進みます。

ただ、こうした現状認識が曖昧なままだと、利益改善の議論も表面的になりやすくなります。特に近年は、原材料費や人件費の上昇を受けて「値上げ」が重要なテーマになっています。しかし実際には、値上げだけで利益改善が完結する企業は多くありません。現場の運営構造や、見えていない損失、属人化、ロス、教育負荷といった要素が残ったままでは、価格改定の効果が十分に利益へつながらないからです。

次回は、こうした視点を踏まえながら、
「値上げだけでは利益が残らない理由──食の現場で見落とされる改善余地とは」
をテーマに、食の現場に潜む改善余地を整理していきます。
「値上げはした。けれど利益が思ったほど残らない」
そんな企業が見直すべきポイントを、外部環境と収益構造の両面から考えていきます。

関連資料
相談会
AUTHOR著者
デジタルコンサルティング事業部
チーフコンサルタント
松永 大樹

給食業界でプレイングマネジャーとして病院厨房の管理から大規模国際スポーツイベントの運営管理担当と多岐にわたるフードサービスを経験し、当社に入社。「現場・現実・現品」の三現主義を軸に、5Sによる業務改善、デジタルを活用した業務効率化やIT化構想支援を行う。顧客とのコミュニケーションを大切にする伴走型コンサルティングスタイルを信条とする。

松永 大樹
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