1. なぜDXが必要か
日本の製造業は、人口減少や急速な産業構造の変化に直面しています。日本の人口は2050年には1億人を切ると予測されています。この人口減少への対応において、労働集約型ビジネスモデルのままでは企業成長への足かせとなる可能性があります。特に、製造業は人手に依存する部分が多く、労働力不足が深刻化する中で、従来のやり方を続けるだけでは競争力を維持することが難しくなっています。
さらに、デジタル技術の進化により、産業構造の変化が急速に進んでいます。例えば飛行機といえばライト兄弟を想起しますが、この飛行機が産業として事業化されるまでに実に68年かかったのに対し、ChatGPTはわずか2か月で事業化されました。このような急速な変化に対応するためには、デジタルへの対応、デジタル技術を積極的に取り入れる必要があります。製造業においても、従来の改善活動だけでは対応が難しい課題が増えており、DX推進が求められる時代となっています。
また、DX推進は単なるデジタル技術導入に留まらず、企業のビジネスモデルや収益構造、組織文化そのものを変革することを意味します。これにより、企業はこれまでにない新しい価値を創造し、競争力を高めることができます。DXを進めることは、単に生産性を向上させるだけでなく、企業の持続可能な成長を実現するための重要な鍵となるのです。
2. 製造業DXビジョン・戦略とは
(1)長期的な目標:サプライチェーン全体の最適化
製造業DXの長期的目標は、サプライチェーン全体をデジタルで最適化することです。これにより、情報の同期化が進み、QCDS(品質・コスト・納期・サービス)のスピードアップと高度化が実現します。特にIIoT(インダストリアルIoT)は、サプライチェーン全体をネットワークでつなぐことで、効率化が大きく進みます。
例えば、ある大手自動車メーカーでは、サプライチェーン全体をデジタル化し、部品の供給状況をリアルタイムで把握し、生産計画を柔軟に調整する仕組みを構築しました。この結果、在庫コストの削減や納期の短縮が実現し、顧客満足度の向上にもつながりました。このように、サプライチェーン全体の最適化は、製造業の競争力を大きく向上させる可能性を秘めています。
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(2)短期的な目標:自社工場でのDX戦略
製造業DXの短期的目標は、自社工場でのDX戦略を推進することです。例えば、部品製造業のA社では、設備にセンサを取り付けて予知保全を実現し、設備の安定稼働を確保しました。これにより、チョコ停(短時間の設備停止)がほぼなくなり、生産能力と売上の安定化を達成しました。また、A社は安全管理にも注力し、社員の健康管理をDXで支援することで、労働環境の改善も実現しました。このように、DX戦略は経営課題の解決に直結するものです。
A社でDXが進んだ最大ファクターは経営層のリーダーシップでした。経営層がDXの重要性を理解し、DXをコストではなく投資とみなしました。そして社員の否応なしにトップダウンの大号令を打ち出して全社的な取り組みを推進したことで、従業員の意識改革が進み、DXの効果を最大化することができました。
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一方で「自社でDXを進めたいが、なにをどうしてよいのか分からない」「インターネットで調べても情報過多でDX推進方法を整理できない」という声も多数あります。そこで今回は「DX認定」をおすすめします。
3. 自社のDXを推進する"DX認定"に向けたステップとメリット
(1)DX認定とは
DX認定は、経済産業省が定める「情報処理の促進に関する法律」に基づき、デジタルガバナンス・コードに対応する企業を認定する制度です。この認定を取得することで、企業はDX推進の準備が整っていることを対外的に示すことができます。DX認定は、DXが進んでいる企業だけでなく、これからDXを推進しようとする企業にも適しており、全国で1,448社(2025年5月時点 ※経済産業省HPより確認)が取得しています。
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(2)DX認定取得のプロセス
DX認定を取得するためには、まず自社のDXビジョンを策定する必要があります。これは、企業がDXを通じて何を実現したいのかを明確にするプロセスです。「DXビジョンなくして、DXは推進できない」といっても過言ではありません。これを何よりもご理解いただきたいです。
DXビジョンの策定後、DX戦略を具体化し、組織体制や人材育成計画、ITシステム基盤の整備を進めます。さらに、成果指標(KPI)の設定やステークホルダーとの対話を通じて、DX推進の基盤を構築します。
※出所:「DX認定制度の概要及び申請のポイントについて」よりタナベコンサルティング作成
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(3)DX認定取得のメリット
DX認定の取得は、経営者が実践すべき事柄を取りまとめた「デジタルガバナンス・コード」に対応することになり、以下のようなメリットを享受できます。
・経営ビジョンやビジネスモデルの策定が進む
・DX戦略の具体化と推進体制の整備
・人材育成計画の策定と実行
・ITシステム基盤整備とセキュリティ管理の向上
・企業イメージ向上と採用ブランディングの強化
最大のメリットは、DX認定取得プロセスを踏襲することそのものが、自社のDX推進をナビゲートすることにあります。
※出所:デジタルガバナンス・コード3.0~DX経営による企業価値向上に向けて~(経済産業省)
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4. DXビジョン策定と戦略立案
(1)フレームワーク
タナベコンサルティングでは、製造業DX推進において「事前分析」「事前課題」「DX戦略策定」の3ステップを活用した独自のフレームワークを推奨しています。事前分析では、業績分析や市場環境分析、競争環境分析、固有技術分析を実施し、企業の現状を把握します。その後、事前課題として、DX戦略策定メンバーが自社の戦略を整理し、DX戦略ミーティングで意思決定を行います。このプロセスにより、企業は明確なDXビジョンを策定し、戦略を具体化することが可能です。
(2)DX認定取得支援プロセス
タナベコンサルティングは、DX認定取得に向けた支援を3つのフェーズで提供しています。フェーズ1では、全社でデジタル化の推進によって実現したい姿を明確化します。フェーズ2では、業務上必要なデータを可視化し、現状を認識します。フェーズ3では、取り組みの優先度を整理し、デジタルガバナンス・コードに準拠したDX認定の申請を可能にします。このプロセスを通じて、企業はDX認定を取得しやすくなり、DX推進の基盤を整えることができます。
5. まとめと今後の展望
日本が直面する人口減少および産業構造の急速な変化に対応するには、DX推進が不可欠です。今回ご紹介したDX認定の取得は、企業がDXを進めるための重要なマイルストーンとなります。認定取得を通じて、経営ビジョンの策定や戦略の具体化が進み、企業の競争力が向上します。
繰り返しとなりますが、DX推進は単なるデジタル化に留まらず、企業文化や働き方の変革をもたらします。例えば、デジタル技術を活用することで、従業員の業務負担を軽減し、より創造的な業務に集中できる環境を整えることが可能です。また、データを活用した意思決定の精度向上や、顧客ニーズに迅速に対応する能力の向上も期待できます。
製造業におけるDX推進は、企業の競争力向上に加えてサプライチェーン・業界全体の発展にも大きく寄与します。
今後、企業が取り組むべき具体的なアクションとしては、まず自社のDXビジョン・戦略を明確にすることです。自社がDXを通じて実現したい姿を明確化し、それを具体的な戦略に落とし込むという考え方が大事です。DX認定取得を目指すことで推進しやすくなります。
令和の時代、DXはやるかやらないかの選択肢ではなく、企業が生き残るための必須条件です。自社の未来を見据えたDX推進に取り組み、製造業の新たな可能性を切り拓いていきましょう。
「自社がDXを通じて何を目指すのか」というビジョンからDX戦略を描き、実践すべき改革テーマへ落とし込むメソッドを提言します。