COLUMN

2023.02.03

小売業が取り組むべきSDGsのポイント

SDGsに積極的な企業割合を業種別にみると、「農・林・水産業」が 72.6%と最も高く、次いで「金融業」(62.3%)、「製造業」(57.1%)が上位に並び、「小売業」は50.1%と全業種平均を下回る状況です(※)。産業としてSDGsに遅れをとる小売業の中でも食品スーパーマーケットに絞り、その内容について解説いたします。

※(株)帝国データバンク「SDGsに関する企業の意識調査(2022年)」
https://www.tdb.co.jp/report/watching/press/p220811.html

食品スーパーマーケットが取り組むべき3つのSDGsテーマ

1.店舗活動における資源の有効利用

レジ袋の有料化は2020年7月1日より全国一律でスタートしました。日本チェーンストア協会によると、全国のスーパーにおけるレジ袋辞退率は2021年度約80%であり、制度開始前の約50%から義務化によって大幅に増加しています。レジ袋の有料化は、食品スーパーマーケットを始めとする小売業のSDGsへの本格的な取り組みへと舵を切り、さらには消費者のSDGsに対するマインドチェンジが起こった転換点と言えます。

今後の店舗活動における資源の有効利用の課題は以下2点です。

①温室効果ガスの排出抑制と省エネの推進
取り組みの第一歩は店舗のエネルギー消費量の把握です。EMS(エネルギーマネジメントシステム)やデマンド監視装置の導入により、店舗全体のエネルギー消費量を捉え、全従業員が正しく認識することが重要です。その上でエネルギー消費量の削減目標を設定し、省エネ機器の導入や太陽光発電といったエネルギーの代替、複層ガラス導入などの店舗設備の改善、屋上緑化などの店舗建築の改善、食品トレーの脱プラを一例として、取り組む必要があります。

②3R(Reduce、Reuse、Recycle)の推進
食品の廃棄ロスは食品スーパーマーケットにおける最大の課題の一つであります。再生利用等実施率は食品リサイクル法において2024年度までに60%達成を目標に、現在業界をあげた取り組みが展開されています。一例として、あらゆる理由で廃棄されてしまう食品を、必要としている施設や人に届ける活動である「フードバンク」が挙げられます。

2.顧客との協働によるSDGsの取り組み

消費者と密接に関わる小売業にとっては、顧客に参画してもらう取り組みが必須です。以下を取り組みの最たる例とし、企業が取り組むSDGs活動に対し、いかに顧客に理解および共感してもらえるかがポイントになります。

・エコ包装の促進(マイバッグ利用、包装のエコ化など)
・店頭回収リサイクル(廃容器、リターナブル瓶など)
・来店手段の呼び掛け(自転車利用など)
・募金や寄付(環境保全団体への基金など)

各社が同様の取り組みをする中で、顧客とのコミュニケーションを第一に、最低限の活動を押さえた上で自社独自の取り組みをしていくことが、SDGsにおける他社との差別化に繋がります。

3.サプライチェーン上流との連携活動

生産者、製造業、卸売業、物流業などのサプライチェーンにおける上流プレイヤーとの連携を考える上では、大きく3点の取り組みが挙げられます。

①環境配慮型商品の開発
環境配慮型商品の中でもフェアトレード認証製品の注目度は高く、その市場規模は2021年約158億円であり2020年比20%増と市場拡大が目覚ましい分野です。その主な背景は、コロナ禍によりフェアトレードにおけるコーヒーやチョコレートの売上が拡大したことが挙げられます。フェアトレード認証製品は今後、食品スーパーマーケット各社がPB(プライベートブランド)として積極的にメーカーと連携し開発していくものと見られます。

特定非営利活動法人フェアトレード・ラベル・ジャパン
https://www.fairtrade-jp.org/


②循環型システムの構築
先述の通り、食品ロスは食品スーパーマーケットにおける大きな課題であり、それを解決する上では流通におけるシステム改革を考える必要があります。その解決の一つが、食品関連企業から出た食品ロスを肥料や飼料にし、農業生産者が農畜産物を生産、そこでできたものを再度小売業などが購入するシステムである「リサイクル・ループ」です。

③物流の最適化
商品の配送ロットや輸送頻度、リードタイムについては、食品スーパーマーケット企業だけでなく、卸売業や物流業と照らし合わせ、適正化することで、商品の物流にかかる環境負荷の低減に取り組むことが大切です。他に企業間の物流共同化やモーダルシフトの推進などの取り組みも物流の最適化策となります。

サプライチェーン上流との連携活動

SDGsをビジネスモデルに融合し成長を遂げた企業事例

上記に挙げた食品ロス課題について、小売業側と小売業を支援する側、2つの側面から実例を紹介します。

CASE1:循環型システムの形成による地域貢献

東京都に本社を構えるE社は個人青果店を祖業とし、法人化以降は食品スーパーマーケットチェーンとして事業を拡大されています。同社の特徴は「地産地消」であり、地域市場を活用した高鮮度で高品質な商品を提供しており、近年では地域社会に貢献する活動を強化しています。
その取り組みの一つが「リサイクル・ループ」です。各店舗における作業過程で排出された野菜くずやお弁当の材料などの余剰を、新しい食品を生み出すための堆肥や飼料として再利用する取り組みを進めています。また環境に配慮した商品の開発を進め、販売を積極的に行うことにより、食品由来の廃棄物が出ないように努めています。
顧客にとって美味しく、安全・安心な商品をお届けすること、商品管理の強化による廃棄物を抑制することが、食を扱う企業としての使命であると同社は捉えています。
また、同社では顧客を対象とした農業体験ツアーや、食育セミナーの開催により、日本の食文化や食べ物の大切さを学ぶ機会を提供し、啓蒙活動を推進することで社会課題の解決へも貢献しています。

CASE2:老舗企業が取り組むフードロス低減活動

北海道に本社を構えるT社はアパレルの卸売を祖業とし、創業90年超にわたり北海道マーケットに限定しビジネスを展開する老舗企業です。
同社の現4代目社長はアパレル産業の衰退に正しい危機感を持ち、2010年以降にデジタルを経営に融合し、次々と新しい事業を開発しています。その一つが「フードシェアリングサービス」事業であり、食品が余った店舗と利用者とをマッチングするデジタルサービスです。消費者は毎月の定額料金を支払うことにより、地域の小売店や飲食店の売れ残りを店舗で受け取ることが出来ます。また、収益の5%は地域へ寄付をされています。2020年のサービス開始から、数にして約2000万の食品ロスの削減実績を誇ります。
アパレル卸売からフードシェアリングサービスへと全くの異分野へ参入した同社ですが、その目的は「社会課題への貢献」、「90年超にわたりお世話になった地域への恩返し」です。同社の社長は「これからの時代は"競争"ではなく"共創"である」と強く訴えています。

消費者に最も近い位置で業を営む小売業が全産業の中でもリードしていくことにより、日本全体のSDGsへの取り組みが一層加速化していくことに直結します。

SDGsをビジネスモデルに融合し成長を遂げた企業事例

著者

タナベコンサルティング

森田 裕介

大手アパレルSPA企業を経て、当社へ入社。ライフスタイル産業の発展を使命とし、アパレル分野をはじめとする対消費者ビジネスの事業戦略構築、新規事業開発を得意とする。理論だけでなく、現場の意見に基づく戦略構築から実行まで、顧客と一体となった実践的なコンサルティング展開で、多くのクライアントから高い評価を得ている。

森田 裕介

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