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はじめに
市場環境の不確実性が増す現代においては「個の力に依存した営業」から「組織で戦う営業体制」への転換が求められますが、その起点となるのが顧客分析です。顧客分析とは、自社にとっての顧客の価値を多面的に捉え、営業資源の配分や打ち手を最適化するための戦略基盤です。
本コラムでは、顧客分析がなぜ営業戦略に不可欠なのか、どのような視点と手法で進めればよいのか、そして分析結果をいかに営業現場の行動変革につなげるかを解説します。

なぜ営業戦略に顧客分析が必要なのか
(1) 限られた営業資源を有効活用するため
営業に投下できる人員・時間・コストには限りがあります。すべての顧客に同じ濃度で営業活動を行うことはリソースの浪費につながります。営業リソースの最適化は重要テーマであり、有望な顧客を見極めて提案やクロージングに集中できる体制づくりが推奨されます。データはもはや単なる情報ではなく、企業の競争力を左右する「資産」です。顧客データを「見る」だけでなく「使う」、さらには「価値を生む」段階へと昇華させることが、営業生産性向上の第一歩となります。
(2) 売上拡大の打ち手を見極めるため
顧客の状態はそれぞれ異なります。既存深耕が有効な顧客、休眠掘り起こしが有効な顧客、新規開拓の余地が大きい顧客、それぞれに最適な営業アプローチは異なります。既存顧客へのアプローチを強化することでライフタイムバリュー(顧客生涯価値=1人の顧客から企業が生涯にわたって得る価値・売上・利益)を高めることは安定的な収益基盤の構築に直結します。既存顧客との接点期間を拡大する事業展開によって、LTV(ライフタイムバリュー)を飛躍的に高めた企業も少なくありません。顧客分析なくしてこうした打ち手の使い分けは実現できません。
(3) 戦略と現場をつなぐ共通言語をつくるため
「重点顧客」「成長顧客」「収益改善対象」といった定義が社内で統一されていなければ、営業会議も予算編成もKPI管理も精度を欠きます。経営理念からビジョン、方針、社員の行動までをつなぐ一貫した「戦略ストーリー」がなければ、戦略は絵に描いた餅で終わってしまいます。顧客分析によって共通の分類基準を持つことは、営業現場における戦略ストーリーの共通言語となり、経営戦略や中期経営計画と営業活動を接続する役割を果たします。

顧客分析で把握すべき3つの視点
(1) 取引規模の視点
売上高、粗利額、粗利率、購買頻度、シェアなど、定量的な取引実績を把握する視点です。営業活動の現状を認識するために取引先別ABC分析や営業担当者の一人当たり生産性分析を実施し、「大きい顧客」だけでなく「利益貢献の高い顧客」を見極めることが重要です。売上規模だけで顧客を評価すると、粗利率の低い大口顧客に過剰なリソースを投下してしまうリスクがあります。
(2) 将来性の視点
顧客企業の成長性、属する市場の伸び、自社との取引拡大余地など、将来の伸びしろを評価する視点です。顧客創造とは、自社の顧客を再定義し、今まで存在していなかった顧客層を捉え、既存の市場も含めて開拓していく一連の活動です。単なる新規顧客の獲得ではなく、顧客の「気づいていない課題」を見抜き、ともに未来をデザインする「価値共創」の姿勢が求められます。現在の売上だけでなく、中長期的な成長ポテンシャルで顧客を評価することが、持続的な事業成長につながります。
(3) 関係性の視点
接点の深さ、担当者依存の有無、提案受容度、競合の入り込み状況、継続性など、数字に表れにくい定性的な情報を把握する視点です。ロイヤルカスタマーを特定するためには、定量的アプローチだけでなく、インタビューや観察調査といった定性的アプローチも有効です。顧客の購買行動の背景にある価値観や感情を理解することで、より精度の高い営業戦略を設計できます。

営業戦略に活かす顧客分析の代表的な手法
(1) ABC分析
売上や粗利への貢献度で顧客をA・B・Cランクに区分する手法です。重点管理先を明確にしやすく、営業資源の傾斜配分の基本となります。ただし、将来性や関係性は反映されないため、他の分析と組み合わせて活用することが望ましいです。
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(2) RFM分析
最終購買日(Recency)、購買頻度(Frequency)、購買金額(Monetary)の3指標で顧客を分類する手法です。休眠化の予兆把握や優良顧客の特定に有効です。顧客をセグメント化し、各顧客層に対して適切な施策を実行することで、ロイヤルカスタマーの育成と売上拡大を同時に図ることが可能です。
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(3) 顧客ポートフォリオ分析
「現在の収益性×将来性」「取引規模×関係深度」など、二軸のマトリクスで顧客を整理する手法です。顧客群ごとの戦略方針を視覚的に整理でき、営業戦略への落とし込みに最も適しています。

(4) LTV視点での分析
単発の売上ではなく、中長期での累積収益貢献を評価する手法です。具体的には、顧客ごとに「年間取引額×取引継続年数×粗利率」を算出し、平均取引期間や離反率を割り出します。さらに、今後の取引継続見込みを加味して将来の収益貢献を予測することで、単年では取引規模が小さくても、長期的に見れば利益貢献の大きい顧客を特定できます。
顧客分析を営業戦略に落とし込む進め方
顧客分析は、分析して終わりでは意味がありません。営業行動の変革につなげてこそ価値があります。顧客分析を営業戦略に落とし込む際には以下の5ステップで進めることを推奨します。
ステップ1:目的を明確にする。
売上拡大なのか、粗利改善なのか、新規開拓強化なのか、既存深耕なのか。目的が曖昧なまま分析を始めると、分析作業だけで終わってしまいます。「あるべき姿」から逆算して目的を設定することが重要です。
ステップ2:分析軸を設計する。
売上、粗利、成長性、シェア、関係性など、自社の事業特性に応じた指標を選定します。データ利活用の目的は経営ビジョンや事業目標の実現にあり、分析軸もそこに直結させる必要があります。
ステップ3:顧客を分類する。
最重点深耕先、育成先、収益改善先、維持先、選択と集中の見直し先など、戦略的な意味を持つカテゴリーに分類します。
ステップ4:顧客群ごとの打ち手を決める。
最重点深耕先には提案頻度の増加や経営層アプローチ、クロスセルの提案をすること、育成先には案件化支援と接点拡大と顧客分類に応じて営業行動を変えることが必要です。
ステップ5:KPIに落とし込む。
重点顧客訪問件数、提案件数、クロスセル率、休眠復活件数、顧客別粗利改善額など、具体的な指標を設定し、PDCAを回します。

顧客分析の先にある「非顧客」への視点
顧客分析は既存顧客の理解を深めるための手法ですが、その延長線上には「非顧客」への視点が欠かせません。非顧客とは、現時点で自社と取引のない購買層を指し、離脱客・潜在客・休眠客・見込客に分類されます。既存顧客を分類・整理していく過程で、「なぜこの層には届いていないのか」「かつて取引があったのに離れた顧客はどこにいるのか」という問いが生まれます。この問いこそが、未開のマーケットを切り拓く出発点です。顧客分析と非顧客の顧客化は、守りと攻めの両輪として営業戦略を支えるものです。

まとめ
顧客分析は、営業戦略の精度を高めるための基盤です。重要なのは、顧客を「並べる」ことではなく、「分けて、打ち手を変える」ことです。取引規模・将来性・関係性の3つの視点で顧客を多面的に捉え、自社に合った分析軸を定め、重点顧客戦略や営業KPIに落とし込むことで、営業活動はより戦略的になります。
何もしなければ既存顧客は自然に減少していきます。コスト上昇と価格転嫁の困難さに直面する中、顧客数の自然減は売上と利益の双方をさらに圧迫します。この負のスパイラルを断ち切るためにも、顧客分析に基づく戦略的な営業活動が不可欠です。
不確実な環境下だからこそ、顧客理解に基づく営業戦略が企業成長を左右します。顧客分析を「一度やって終わり」にせず、継続的に見直し、営業行動の変革につなげていくことが、これからの営業組織に求められる姿勢です。まずは自社の顧客データを改めて見直し、「どの顧客に、どのような打ち手で向き合うべきか」を問い直すことから始めてみてはいかがでしょうか。その一歩が、営業組織を変える起点になるはずです。
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