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市場調査と一括りに言っても様々な分析・フレームワークが存在します。そのうち市場規模算出や成長性算出に関連する内容について実務・実例を交えて解説していきます。
外部環境分析における市場規模・成長性分析の立ち位置と概要
(1)外部環境の全体像イメージと市場規模・成長性分析の立ち位置
まずは図1をご覧ください。外部環境の構造は大きく3つに分解されます。マクロ・セミマクロ・ミクロといった形でマクロから順番に自社の属する業界により近くなる分析となります。そのうち市場規模・成長性分析は、いわゆるセミマクロ分析に属します。セミマクロ分析とは、マクロがPEST分析と言われる国・地域等業界の外側にあるものに対して、業界を中心とした周辺環境を分析する区分です。例えば、東京都で空調設備工事業を営む企業を例にとるとマクロ(=PEST分析)視点では建設投資やGDP、働き方改革、ICT施工などが調査項目になるのに対して、セミマクロ分析では建設投資内での東京都における空調関係への設備投資額等が挙げられます。
(2)市場規模・成長性分析とは何か
①市場規模分析とは、対象が属する市場がどの程度の大きさかを定量で示すものです。例えば化粧品市場→ヘアケア市場→シャンプー市場といったように細分化し展開していくことになります。自社、主力商品/サービスといった形で用途に合わせて分析していくことを目的とします。
②市場成長性分析とは、上記市場の成長(実績・将来予測)を定量で示すものとなります。
分析調査における着眼としては2つあります。
a.実績の情報収集
b.市場の将来予測
中期経営計画や長期ビジョン等将来にわたっての事業展開を検討するシーンにおいては、いかに精緻な将来予測を立てるのかが肝要になります。
タナベ流 市場規模・成長性分析の手法
(1)市場規模算出における分析手法パターン
市場規模算定については、『情報の「量」により打ち手が変わる』ということが言えます。
まずは図3-1をご覧ください。分析手法の方向性としては2つに大別されます。
①一般外部情報で市場規模の情報がある程度わかる場合
市場規模の情報が一般外部情報※一定程度取得できる業界・業種も多々あります。一定程度の情報が取得できる場合には、国・各省庁の統計データを軸に、外部団体による独自統計調査なども活用しながら整合性を確認するという作業が想定されます。例えば、以下のような主要産業では多くの統計データが存在します。
例1:住宅業界→国土交通省『新設住宅着工戸数統計』
例2:食品業界→農林水産省『食品産業動態調査』
※一般外部情報とはインターネット・国・自治体・業界団体・外郭団体などが公表しているオープンデータ。
②ニッチ市場のため、一般外部情報でも市場規模が不明瞭
一方で、ニッチ市場であるため、市場規模が不明瞭な場合も多々あります。その際には、外部団体の統計データ(有料レポートも含む)や取引先・関係者への情報提供依頼等を活用した市場規模算定を行うことが考えられます。それでも情報がない場合には、独自で算出するという形態も取ることができます。現在出ている一般外部情報の組み合わせ・掛け合わせで算出するというものです。言い換えれば「件数×単価」の2つの要素を特定・推定することで算出していきます。
図3-2をご覧ください。これは筆者が引越し市場を算定した実際のデータです。前提として引越し市場は想定市場としての一般外部情報はありますが、正確かつ信用度が担保された情報がない市場です。
市場規模算出の考え方は、シンプルにいえば、個人向け、法人向けに対して引越し件数と単価を掛け合わせたものです。
設定の肝は件数の考え方です。以下を確認ください。
個人向け件数:転入転出統計データ×引越し委託率(=自前で行う比率を見極め)
法人向け件数:新設件数+移転件数ー廃業件数を中小企業庁等の統計を基に算出
上述してきた例はあくまでも一例のため、各業界毎に特性を踏まえた思案が必要ではありますが、いずれにしても「件数×単価」で捉えることでの独自算出は決して難しいことではありません。
(2)市場成長性算出における分析手法パターン
市場成長性分析については、「いかに精緻な将来性予測を組み立てるか」ということが言えます。
まずは図4-1をご覧ください。分析手法の方向性としては3つに大別されます。ポイントは予測統計の存在可否です。
①予測統計が存在する
1つ目として予測統計が存在するケースです。例えば、一般財団法人建設経済研究所は2035年にかけての建設投資額の推移を独自ロジックを用いて複数シナリオで予測統計を公開しています。
②予測統計が限定的に存在する
2つ目に予測統計が限定的に存在するケースです。コンサルティング事例として、地方の某県に展開する地場住宅メーカーA社では、新設住宅着工戸数とエリア構成比を掛け合わせた算出を行っています。前述した新設住宅着工戸数は長期的な将来予測を野村総合研究所が定期的に公開しています。当該データを用いて、A社の展開エリアの全国に占める構成比を実績ベースで算出し、予測データにかけ合わせるというものです。ただし、この限定的なデータにどこまで信用がおけるのかの適切な判断は必要となります。このように業界に関連する限定的な予測データを用いた市場成長予測が可能な事例も多く存在します。
③予測統計が存在しない
3つ目に予測統計が存在しないケースです。このケースではさらに2つの分岐が存在します。
一つは前述してきた市場規模のこれまでの実績から簡易的に予測するパターンです。
直近10年程度ほぼ横ばいに推移している市場や逓増/逓減傾向が続く見込みの市場等、一定程度法則立った市場成長構造の際に用いることが適切です。実績ベースの任意の成長率を選択し、直近実績にかけ合わせるというものです。
二つにフェルミ推定で一般的な統計データ及び予測統計データを活用しながら独自に算出するというものです。(※フェルミ推定:正確に把握することが難しい数値を既存情報を基に論理的に推計する手法)
先ほどの引越し市場の例を用いて解説します。(図4-2)
当該事例における成長予測に必要な要因(赤網掛け箇所)は、a.個人移転者数、b.法人移転/新設数、c.単価(個人/法人)の3箇所です。それぞれの考え方は以下の通りです。
a.個人移転者数:人口予測(国立社会問題・人口問題研究所)×移転率(一定とする)
b.法人移転/新設数:移転・新設数の実績直近5か年推移率を加味して算出
c.単価(個人/法人):引越し業者大手各社の価格値上げ推移を長期にわたって情報収集。年平均上昇率を掛け合わせ
まとめ
コロナ前の各産業の市場構造は人口減少・高齢化などの社会課題はありながらも比較的右肩上がりで成長を遂げてきた市場が多くありました。しかし、現在はVUCA時代と言われる通り、100年に1回の出来事が毎年のように発生する中ではいかに自社の属する市場を理解し、将来を読むのかという点が重要となってきます。
その中で、市場規模・市場成長性分析を実践するということは有意義であると思料します。
改めて本コラムを3点でまとめると以下の通りです。
①市場規模分析は、情報の「量」により打ち手が変わる
②市場規模データがない/出しにくい場合には「件数×単価」で考える
③市場予測データはない場合が多い。ない場合にはフェルミ推定で算出する
本コラムが自社の属する市場を改めて分析するきっかけになると幸いです。
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