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はじめに
建設業においては、多くの企業が外注比率の高いビジネスモデルとなるため、他の事業と比較すると、どうしても利益率が低くなる傾向にあります。また契約から施工、竣工にいたるまでの期間が長いため、昨今の過去に例を見ない急激な価格上昇が起こると、その価格転嫁が中々すぐには果たされず、収益性をさらに悪くすることとなります。
そうしたビジネスモデル上のリスクを見ても、建設業において、新規事業を行うことは喫緊の課題であり、生き残りをかけた施策であると考えられます。
そうした新規事業を考えるに当たって、ポイントとなる要素は数多くありますが、大きなポイントの一つが、既存の取り組みとのシナジーです。このシナジーがあるかないかによって、新規事業の進め方は大きく異なってきます。もしもそれがまったく無いのであれば、その事業はゼロからの船出であり、ある種、新たに会社を興すような心づもりで、計画にあたる必要があります。
そのため、このシナジーがまったくない新規事業というものは対象から外し、既存の取り組みとのシナジーという点を軸に事例を交えながら考察を深めます。
また、新規事業に限らず、あらゆる事業の基本となるビジネスモデルは、"誰に(WHO)"×"何を(WHAT)"×"どのように(HOW)"売るかという形に集約できます。その基本的な考え方に沿って、解説いたします。
建設業における自社リソースの考え方
まず、既存事業とのシナジーを考える際に基軸となるものが、わが社におけるリソースの明確化です。ひとくちにリソースといっても様々な切り口があります。建設業での典型的な例でいいますと、
⑴ 自社の持つ固有技術(建設技術)
⑵ 個人の持つ固有技術(建設技術や管理技術)
⑶ これまで会社として得意としてきた建物種別(提案や設計)
等が典型的なものですが、それに加えて
⑷ 主要な顧客とのリレーション
⑸ 自社と結び付きの強い仕入れ先(協力業者やメーカー、商社)
などもリソースの対象となります。これらのリソースが、まずは"誰に(WHO)"や"何を(WHAT)"という事業の基本を考える際のベースとなります。
例でいいますと、ホテル建築を得意としていたある建設会社では、自社施工での中規模リゾートホテルを建築され、宿泊事業を展開されていますし、また別の建設会社では店舗建築で繋がりのあるオーナー企業とフランチャイズ店舗を契約され、新たに展開されるという事例があります。
それぞれに既存事業のネットワークを活かして建築費やメンテナンス費というイニシャルコスト・ランニングコストを抑えることができますし、そうした宿泊施設運営や飲食店運営のノウハウを蓄積することにより、本業である建築工事での提案などにおいても提案の幅や設計の精度向上などのシナジーを発揮しています。
自社リソースの優先順位付け
ただ、そうしたリソースをどういった優先順位で選んでいくかという基準についても押さえておく必要があります。その最大のポイントは、市場規模や成長性の考慮です。この二つがない対象においては、いくら既存事業とのシナジーがあったとしても、採算を取りにくく、新規事業の黒字化が困難を極めるという結果になりかねません。
そのような事態を避けるためにも、大事になるのがトレンドの把握です。ここでいうトレンドとは、社会的または経済的な動向、変化の傾向を指す言葉であり、マーケティングやビジネス戦略の策定において使用される定義とします。
トレンドについて、もう少し触れておくと、
❶長期間にわたって持続する「メガトレンド」
❷短期間で繰り返す流行り廃りの「ファッド」
という2種類が存在しています。メガトレンドについては社会の根本的な変化を反映し、ビジネスに長期的な影響を与え、一方の、ファッドについては短期的な流行に過ぎず、永続的な戦略を立てる際の重要な要素とはなりません。したがって、これらを正しく識別し対応することが、企業にとっての重要な戦略的判断の基準となります。
トレンドを把握するためには、市場調査やデータ分析が重要となり、ソーシャルメディアの分析、競合他社の動向調査、顧客の声を集めるアンケートなど、多様な情報収集方法を駆使して現在のトレンドを読み取ることが求められます。また、データを基に将来のトレンドを予測し、ビジネス戦略に反映させるための分析スキルも不可欠であるとされます。
ただ、一方で、直近のニュースなどの傾向からある程度のトレンドの予測は可能です。
昨今の例からキーワードを挙げるとすると、例えば、
⑴ ECの拡大に伴い増加した物流ニーズを満たすためのスマート物流
⑵ 仮想現実の拡大であるメタバース・メタワーク
⑶ スマートシティの誕生や大阪万博を起点に活性化が予想されるモビリティー革命
⑷ 昨今の異常気象を背景に数年前から取りざたされているBPO対策の強化
などは、メガトレンドまではいかなくとも、これから10年先も伸びていく市場であると予測されております。
また、基本的なことではありますが、先述の例で示したホテル業や飲食業といった実店舗を伴う事業を選んだ場合には、人の流動性の検証もポイントとなります。昨今のインバウンド需要の増加や、近隣の店舗構成と市況なども検証の要点となります。
そうした様々な観点から今後も中長期的な需要の増加が見込めるか、どういったトレンドを狙うのかという視点から、先述したリソースについての優先順位をつけることが重要です。
昨今のトレンドにある植物工場を例に挙げるなら、大和ハウスにおいて、数年前から倉庫⇒植物工場へのリノベーション事業を展開しています。特にポイントなのは、その分野において製造した野菜類の販売チャネルまで確保することにより、投資対象としての側面を持たせています。
販売方法の検討
そうしたリソースの選定から、"誰に(WHO)"と"何を(WHAT)"を決めることができれば、最後のポイントが、"どのように(HOW)"の項目となります。このHOWの部分は検討する幅が広いのですが、整理するポイントとしては、顧客に対してどのような手段で販売するかという点になります。
その部分を検討に当たっては、なぜその方法を留るのか、という深堀が重要となります。その手段について、ターゲットとする顧客視点に立って検討する必要があります。
例えば、Webを使って販売をするなら、顧客にとってのメリットである簡易性やアクセス性に配慮する必要がありますし、大和ハウスの例でいうと、顧客が植物工場を建てる動機の部分にもしっかりとフォーカスを当てているという点がポイントです。そのためにはある程度まとまった投資をする必要も生じます。また、先述のホテルの例においては自社の設計・建設リソースを使って、快適な空間作りを実現しています。
そうした販売方法に対する最適な案を検討してから、既存事業の訴求手段を応用するなど、コスト削減の方法を検討するという形が理想です。まずは、最適解を求めてから、現実的なラインに寄せていくというアプローチが、より新規事業の成功確率を上げる要点となります。
まとめ
以上、建設業における新規事業開拓の考え方について、
⑴ 自社のリソースの考え方
⑵ 優先順位付け
⑶ 販売方法の検討
と、いう3つの観点から整理しました。
自社の既存リソースをどのような角度から見るかによって、新規事業の種は多く見出せます。
冒頭にも記しましたが建設業における一般的なビジネスモデルは、専門工事業者を除いて、その外注比率の高さからどうしても薄利になるケースが多く見受けられます。新規事業における新たなビジネスモデルの創出は、そうした収益構造からの脱却の近道となりますので、ぜひ継続的に検討いただければと思います。
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