COLUMN

2024.02.02

「新規事業開発に必要な組織体制とは」作り方とポイント解説

「新規事業開発に必要な組織体制とは」作り方とポイント解説

人に誕生から死に至る生涯があるのと同じく、事業にも誕生から死までの「事業のライフサイクル」があります。あなたの会社の既存事業が成熟し衰退していく中、会社の存続を支えるのは「新規事業」です。ところが、新規事業の開発に成功する企業はほんの一握りです。新規事業をつくり出せる会社の違いは、いったいどこにあるのでしょうか。

新規事業に組織体制づくりが重要な理由

新規事業と既存事業の位置づけは180度違う

既存事業の拡大が100を110にする仕事であるのに対し、新規事業をつくるのは、0から1をつくり、そして1を10にするような仕事です。
新規事業開発に失敗する最大の理由は、新規事業を「今までの経験でできるもの」と考えていることにあります。

既存事業では今ある事業を守り、大きくすることで評価されますが、新規事業に要求されるのは「無から新しい事業をつくる」ことです。また、既存事業には「こうすれば良い」という過去の知見や業界の常識がありますが、新規事業は「何をどうすれば良いか」さえわからない世界です。
既存事業も元は会社の新規事業として始まったはずですが、事業をつくった世代の人たちは既に現役を退いています。今の経営陣の多くは彼らが残した既存事業を守り、大きくしてきた人たちでしょう。だからこそ、既存事業を育てるのと同じ感覚で新規事業を作ろうとします。これが新規事業の失敗における最大の原因です。

過去に行われた中小企業庁の調査によると、新規事業に取り組んだ企業のうち、「成功している」と回答した企業は約29%です【図1】。そのうち、「経常利益率が増加」傾向にある企業は約半数となっています。新規事業の成功の定義をどう捉えるかは企業によりますが、このデータから、新規事業の成功確率はおよそ1割~2割程度と考えられます。
「新規事業と既存事業は180度違うもの」であることを受け入れることが、新規事業開発成功の第一歩です。

新規事業に組織体制づくりが重要な理由

【図1】引用元:中小企業庁「中小企業白書2017」

新たなビジネスを起こすための本や情報は、世の中に多くあります。示唆に富んだ本も多いですが、それらの多くは米国のベンチャー企業や今をときめく急成長企業を題材としたものです。
こういった本で刺激を受けても、「では、自分の会社や部門でどのように新規事業を立ち上げようか」と振り返ると、悩むことも多いのではないでしょうか。
「普通の会社」が新規事業を考えるとき、まずは「何をするか」といったアイデアを出す段階から悩むことが多いです。すでにある事業との親和性や、社内で担当する部門や人材配置、検討の進め方など、ベンチャー企業とは違った悩みもあるはずです。
こういった「普通の会社」が新規事業を作る際には、既存事業とは異なった組織体制づくりが必要です。

新規事業の推進体制の作り方

必要な実行組織4パターン

新規事業を推進するにあたり、以下4パターンの実行組織をつくります。

(1)独立組織とする形
これには、「スピンオフ(分社化)」や「コーポレート・ベンチャー」といったものが相当します。いずれも、会社直接の管理系統から離れ、独立した組織で新規事業を運営するものです。小さな新規事業を切り離すのに「カーブアウト」という言葉が使われることもあります。

(2)本社直轄の部門とする形
新規事業の担当部門を、既存事業のオペレーションとは離れた、本社直轄の組織とするものです。社長・経営会議・企画部といった経営部門の下に新組織を置く場合もあれば、研究所などの下に置く場合もあります。

(3)既存事業部の中に置く形
既存事業との相乗効果(シナジー)が期待される場合に、このような形とすることが多いです。既存事業部と連携し新たに組織をつくる場合と、新たな組織を作らずに兼務などで担当者を置く場合があります。

この場合、事業部内の文化対立が起きるため、事業部門長はそれをよく認識し、新規事業を保護する必要があります。それでも、新規事業より既存事業の方が忙しくなり、新規事業の検討が進まないケースも多くあります。
(4)バーチャルな組織とする形
事業計画が承認されても、本格展開までにフィジビリティスタディが必要である場合、固定的な組織を作らずにバーチャルな組織で検討を進める場合も多いです。この組織は、最終的に事業化を中断した場合にすぐ解散できるというメリットはありますが、事業が本格化する場合は、また別の組織に移行する必要があります。

組織を作るうえで重要なカルチャーとして、「ブートレッキング(密造酒づくり)」が挙げられます。
この概念は、米複合企業のスリーエム(3M)が提唱したもので、たとえ上司の命令に背くことになっても、自分の信じる研究をするために、会社の設備を使っても良いというものです。
このおかげで生まれたのがポスト・イットです。同社の研究員が強力な接着剤を開発中、たまたま非常に弱い接着剤をつくりだしてしまい、別の研究員がその弱い接着剤を本のしおりに応用できないかと思いつきました。最初は接着剤の失敗作とされましたが、「何か面白そうだ」という開発者の好奇心を尊重する同社のカルチャーがなければ、この便利な商品は世に出なかったかもしれません。

このような、「実現するまで本社の管理部門に見つからないように隠れて新規事業を企画する」形の進め方は、硬直的な組織では特に有効に機能します。ブートレッギングから生まれた事業は少なくはなく、創造的な会社のお手本とされるGoogleや3Mでも、このブートレッギングを組織の中に取り入れています。
規制緩和し「ブートレッギング」できる環境整備を行うことも、新規事業開発の推進体制づくりに必要でしょう。

新規事業の推進体制の作り方

新規事業における組織体制づくりのポイント

アイデアをふ化させ育てる

新規事業の開発を支援するため、「新規事業推進室」や「ビジネス・インキュベーション・オフィス」といった名称の新たな組織が作られることがあります。
この「インキュベーション」は、卵をかえしヒヨコを育てるという意味で、アイデアという卵を、新規事業というニワトリになるまで保護して育てるような組織です。
新規事業を巣立たせるためには、まず卵に相当するアイデアとヒヨコに相当する新規事業がたくさん必要です。ところが、新たな支援組織を作ることには熱心だが、卵やヒヨコを揃えることに気が回らない会社も少なくありません。
新規事業を支援する組織の役割として、卵とヒヨコを育てるにはどのような機能が必要でしょうか。

新規事業の育成支援には、起業家視点から事業運営のアドバイスを行い、また仮説検証のPDCAをマネジメントすることが必要です。しかし、仮に新しい組織を立ち上げたところで、「普通の会社」には新規事業をマネジメントするために必要となる経験や知見を持った人材が不足しており、検討は錯乱したまま、無駄な作業が続くばかりとなることも多いです。また、良かれと思って既存事業の常識でアドバイスをしてしまうと、新規事業の発展どころか障害になりかねません。
新規事業を立ち上げるスキルや経験が不足する場合は、積極的に外部人材を活用することがおすすめです。専門家からは検討の全体プロセスの設計や進め方に対するアドバイスが受けられることに加え、開発人材の育成、検討のファシリテーションが期待できます。
外部人材は、新規事業に関する経験の深いコンサルタントを指名し、月に1~3回くらいで定期的な進捗レビューとファシリテーションを依頼し、一緒に事業計画をつくりあげ、PDCAをマネジメントしていくという流れが一般的です。彼らからノウハウを学び、自分たちで実行できる組織を構築することが、新規事業開発成功の近道といえるでしょう。

新規事業における組織体制づくりのポイント

著者

タナベコンサルティング
ストラテジー&ドメインコンサルティング事業部コ
ンサルタント

菊池 航

信用調査会社にて、経営者面談による企業信用調査、各種経営支援企画・官公庁受託調査企画などに取り組んだ後、当社に入社。「会社は潰してはならない」の信条のもと、これまでの経験を活かし、経営基盤を強化する様々な仕組みづくりと実行を推進、永続発展企業作りを目指す。

菊池 航

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