COLUMN

2023.09.27

失敗から学ぶ新規事業成功のポイント ~プレモータムシンキング~

環境変化が激しく、VUCAの時代と呼ばれる昨今のビジネスシーンにおいて、新規事業を考え・生み出していくことは全ての企業にとって共通の経営課題といえます。しかし、リソースも限られる中で、闇雲にトライ&エラーを繰り返している余裕もなく、出来る限りスピーディーに、かつ失敗するリスクを排除して事業化していかなければなりません。新規事業開発における失敗要因や失敗事例から、成功確率を高めるポイントについて考えていきます。

失敗から学ぶ新規事業成功のポイント ~プレモータムシンキング~

新規事業の成功確率

新規事業の必要性は、多くの企業が認識していると思われますが、その成功確率はどれくらいでしょうか?過去に行われた中小企業庁の調査によると、新規事業に取り組んだ企業のうち、「成功している」と回答した企業は約29%です。また、そのうち、「経常利益率が増加」傾向にある企業は約半数となっています。新規事業の成功の定義をどう捉えるかは企業によりますが、このデータから、新規事業の成功確率はおよそ1割~2割程度と考えられます。新規事業を10事業立ち上げたとしても、成功するのは1つか2つとなります。さらに言えば、1つの新規事業を立ち上げるだけで、どれだけの時間とコストを要するでしょうか?多くの企業では、既存の業務を行いながら、プラスアルファで新規事業のアイデア創出からビジネスモデルの検討、立上げ準備を進めるため、年単位での時間を要します。この確立と労力に対し、ヒト・モノ・カネのリソースを割くことは非効率とも捉えられますが、それでも企業の成長発展のために新規事業へのチャレンジが必要なことに変わりはありません。出来る限り、この確率を高めるためには、失敗要因を仮説し、事前にその要因を潰しこんでおく考え(=プレモータムシンキング)が必要になります。

図1「新規事業展開の成否別に見た、経常利益の傾向」

図1「新規事業展開の成否別に見た、経常利益の傾向」
出典:中小企業庁「中小企業白書2017」

新規事業が失敗する5大要因

1.調査不足による戦略のミス
典型的な失敗のパターンとして、事前の市場調査やニーズ調査など、内外環境の調査において、その内容の不足やミスリードによって戦略そのものが不十分あるいは間違っていることです。戦略そのものを間違ってしまうと、その後、いくら現場レベルでの対策を打っても根本的な解決にはならないため、挽回(成功)させることは難しくなります。自社で分析や戦略設計ができる人材がいない場合、コンサルティング会社などの外部パートナーを活用すると良いでしょう。

2.企業・既存事業とのミスマッチ
経営理念やクレドに掲げている内容に沿わない事業や、既存事業と全く関連のない分野での新規事業は、社員やステークホルダーからの共感を得ることができず、失敗する確率が高いです。経営理念やクレドは、企業における最上位の判断基準であるため、これにマッチしない新規事業はそもそも実施すべきではないでしょう。また、既存事業との関連性においては、全く関連のない分野では社内外の共感を得られないばかりか、経験も知見もないため失敗の可能性を高めてしまうだけです。世間の人気や流行りといったムーブメントに煽られて始める新規事業は、一過性のものとなり続かないでしょう。成功確率を高めるには、自社の知見を活かせる分野であることがセオリーです。富士フイルムは、今や医療・医薬、美容系分野でポジションを確立し成功していますが、その新規事業参入の背景には、写真・フィルム分野で培った抗酸化技術やコラーゲンに関する知見、ナノ技術などが応用されています。

3.リーダーの熱量不足
新規事業は、「何をするか」と同じくらい「誰がするか」も重要な要素となります。推進責任者であるリーダーの熱量が低いようでは、成功する事業も成功しないでしょう。リーダー人材には、「なにがなんでも成功させる!」という強い意志を持つ人材や、エース級の人材を選任することが良いでしょう。また、一緒に取り組んでいくメンバーも、リーダーの想いに共感・共鳴する人材を集めるとより成功確率が高まるでしょう。

一方で、その他の社員に対する理解を促す働きかけも企業として必要です。新規事業のプロジェクトメンバーは、通常業務を行いながら取り組むことも多いため、まわりの社員へ負荷や迷惑をかける場面も想定されます。会社のミッションとして取り組んでもらっている旨を全社に丁寧に説明し、理解と協力をいただけるように務める必要があります。

4.意思決定の遅れ
新規事業推進に関わるメンバーを多くし過ぎたり、意思決定権が不明確であると、スピーディーな意思決定や的確な判断ができなくなってしまいます。「船頭多くして船山に上る」状態になりかねません。参画メンバーは少数精鋭にすることと併せて、リーダーの権限と経営陣の関与の仕方などを明確にしておきましょう。

また、意思決定が遅れるもう1つの要因が投資判断です。新規事業は、特に具現化していく際には、ハードあるいはソフトに対する一定の投資が必要になります。その投資額に対し、トップがGOサインを出し切れず、事業化が遅れる、あるいは断念するケースは多く見られます。新規事業へのチャレンジを決めた以上、あらかじめ投資余力の見積りからその事業にかける予算枠は設けておきましょう。加えて、トップは"覚悟"を持っておかなければなりません。

5.撤退基準の未設定
新規事業立ち上げ当初は、赤字からスタートすることが一般的です。その赤字をなかなか黒字化できない場合、「ここまでやってきたので途中で引けない」という考えから、いつまでも赤字を引きずってしまうケースがあります。人は、投資が大きいほど損失を取り返そうという心理が働いてしまいます。あらかじめ、撤退基準(期間、売上、投資上限 など)を設定しておくことで、投資額や赤字が膨れ上がっていくことを抑えることができます。明確な引き際を定めておくと、次の事業や別の事業にリソースを割く判断ができるようにもなります。

新規事業が失敗する5大要因

慎重とスピードのバランス

上記で挙げた失敗要因の他にも、より具体的な事業計画レベルでは、「想定より客数が伸びなかったら?」「思っていたより顧客の評判が良くなかったら?」「予算より原材料価格が高騰したら?」など、あらゆる仮説が考えられます。事業計画は楽観的な計画だけでなく、悲観的な計画も設計しておくと対応も取りやすくなります。

このように、あらゆる失敗要因を考え、潰しておくことは大事である一方、慎重に考え過ぎるあまり時間をかけすぎることも良くありません。今の時代、どこからどんなライバル社が登場するかわかりません。ましてや、モノ余りの時代において、完全なブルーオーシャンな市場を見出すことは極めて困難です。考えた事業は、既に類似の商品やサービスが市場にあることの方がはるかに多いです。つまり、ゆっくり考えすぎていてはその間に他社にポジションを取られてしまうということです。新規事業プロジェクトの期間を限定し、足りない人材や知見は外部にも相談しながらスピーディーに進めていかなければなりません。そして、早く市場にローンチし、顧客の反応を伺うことです。顧客の反応を確認しながら、商品・サービスをブラッシュアップしていくことでクオリティを高めていきましょう。

著者

タナベコンサルティング
ストラテジー&ドメインコンサルティング事業部
チーフマネジャー

林 洸一

大手アパレルメーカーにて、ファッション・ユニフォーム・インナー・産業繊維など幅広い研究開発業務に従事し、当社入社。クライアントのコアコンピタンスを軸とした新規事業開発や事業戦略策定をはじめ、ナンバーワンブランド研究会サブリーダーとして、ブランディング・マーケティング領域においても企業価値を高めるコンサルティング活動を展開。

林 洸一

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