COLUMN

2022.08.31

長期ビジョンにおいて、
将来の組織図を描き、教育体系、育成計画を設計する

企業において、成長戦略を描くうえで、重要となるのが、長期ビジョンの構築である。自社が将来なりたい姿(長期ビジョン)を描き、現在の延長線上の姿(なりゆき)との差を正しく捉え、その差を埋める「戦略」を決めることが必要となる。(表1)

戦略は、大きく分けて、事業戦略と経営戦略に区分され、これらは「1T4M」の要素から成り立つ。Tは強みや固有技術(Technology)、MはMarket(市場)、Man(人)、Money(お金)、Management(管理)の意味である。事業戦略は、どの市場へ自社のどの強みや固有技術を展開するのか、経営戦略は事業戦略を実現するために人・お金・管理をどのようにするのかを決めることである。

筆者はこれまで多くの企業のコンサルティングに取り組んだ経験から、ビジョンを実現できるかどうかの分かれ道は、結局の所「誰がするのか」で決まると考える。どんなに素晴らしい事業戦略を立てても、推進者の姿勢・リーダーシップ次第で結果は大きく変わる。そのため、将来の組織図を描き、教育体系を整備し、計画的に次世代幹部を育成していくことが重要となる。

表1/表2

サクセッションプランに基づく、次世代人材育成の仕組みづくり

事例を一つ紹介しよう。A社は関西を拠点に、全国展開する総合建設業である。同社は今後の成長戦略の柱として、東京を中心とした関東市場でのシェア拡大をポイントに置いた。これまで同社の顧客は中堅デベロッパーが多く、1案件当たりの規模も数十億程の中規模案件が中心であったが、中長期的方向性として「1案件あたりの規模拡大(100億以上の案件の獲得)を目指した大手デベロッパーの開拓」「成長分野(例、物流・倉庫分野等)への展開」を掲げた。この方向性を実現するために、「サクセッションプラン(後継者育成計画)策定」「将来の組織図の設定」「次世代経営幹部育成のための教育体系整備」「社内人材育成強化の仕組み作り」に取り組むこととした。

まず、サクセッションプラン策定について、役員に求める人物像・役割・責任を明確にしたうえで、将来の組織図を描き、次世代の経営人材の候補者(後継候補者の人材プール)を計画的に育成を進めることとした。(表3参照)

表3

次に、次世代経営人材を支える、幹部人材の育成について検討を行った。現状とのギャップを整理したところ、大型案件・成長分野の案件を推進できる現場のリーダー、営業のリーダーが不足しており、「決定的に、現場所長・次席が足りない」ことが明らかになった。そのため、技術者育成の取組みとして「技能伝承プロジェクト」に取り組むこととした。技能伝承プロジェクトとは、「社内のモデル人材が講師となり、技術やノウハウを若手社員に、動画や集合型研修を通じて伝えていく、自社独自の学校を作る」というものである。メンバーは、現場経験豊富な所長10名である。

主に行った点は、以下の4点である。第1に、「固有技術の整理」である。わが社にはどんな技術があり、お客様に評価されている点は何か、他社より優れている点は何か、どんな実績があったかを整理し、討議を行い、技術力、強みを明確にした。第2に、「求める人物像・求めるスキルの設定」(表3参照)である。若手社員が自社の強み・技術を会得し、●年後にはどのような姿になっていて欲しいか、求める人物像の設定を行った。そして、求める人物像になるために、各年次でどのようなスキルを身に付ける必要があるかを明らかにした。第3に、「教育の体系化」である。若手メンバーに伝えていくためには、どのようなステップが必要かについて討議し、教育を体系化した。若手社員が、5年間で一人前として独り立ちできるように、技術をどのような順序で習得していけば、誰が何時間で教えるのが良いか「教え方のスタンダード」を決めた。第4に、実際、教えていくための教育ツール(テキスト、動画の撮影等)を作成し、それらをもとに若手育成を進めた。

上記の取り組みの結果、以下の効果があった。技術習得期間の短縮、部署や上司の違いによる育成格差の解消、教えるベテラン社員・学ぶ若手社員双方のレベルアップ、採用活動において学生の強い興味関心を引き・質の高い人材の確保(採用ブランディング化)である。

建設業において、「長年の経験と勘」に頼りがちな、技術力を次世代に伝えていくことは簡単ではない。「背中を見て覚える」という育成スタイルに依存している会社はまだまだ多い。A社においても、技術を次世代に伝える仕組みが十分に整備されておらず、人材育成に長い年月を要することが積年の悩みであった。これらを解消するため、上記の仕組みを構築したことで、現在の社員の早期の人材育成が可能となり、また新たな人材の獲得に繋がるなど、長期ビジョンを推進する「人材基盤」の強化を大きく進めることとなった。長期ビジョンの成功は「誰が戦略を推進するのか」「不足する人材をどう社内で育成していくのか」で決まる。長期ビジョン・中期経営計画を立てたものの実行力が弱い、絵に描いた餅になってしまっているとお悩みの経営者の皆様においては、ご参考にしていただきたい。

まずは、サクセッションプランの策定による次世代経営人材の計画的育成、そしてそれらを支える次世代幹部成の仕組みづくりを進めていくことを、ぜひご検討頂きたい。

年次 目指すべき姿 求めるスキル
1年目
  1. 社会時としての基本スキルを身に付ける
  2. 工程表をもとに工事の流れを理解すると共に、工種毎の工程理解を進める
  • (1)朝礼の司会
  • (2)専門用語
  • (3)CADの基本知識・操作の習得
  • (4)工事写真の撮影・整理
  • (5)測量機器の取り扱い
  • (6)新規入場者の教育を担当
  • (7)安全関係書類のチェック
  • (8)工事日報の作成・整理
  • (9)工程表(週間・月間)の内容理解
  • (10)構造力学の基礎
2年目
  1. 上司のサポートを受けながら、工種担当として、主体的に工種工事の施工管理をすることができる
  • (1)墨出しの補助
  • (2)基礎・躯体工事
    ①数量・積算
    ②自主検査
    ③施工図の読み取り
  • (3)品質管理・記録
  • (4)協力業者への指示
  • (5)内装工事の基礎理解
  • (6)週間工程の作成
3年目
  1. 上司のサポートを受けながら、主体的に●億円程度の規模の新築物件の各工種を担当することができる
  2. 後輩社員の指導ができる
  • (1)躯体工事においてはできる状態
    ①躯体図の作成(CAD)
  • (2)昼礼の司会進行
  • (3)マスター工程を見て月間工程の作成
  • (4)業者手配・管理
  • (5)墨出し全般の管理
  • (6)安全衛生協議会の運営
  • (7)見積手配
  • (8)上司への問題定義ができる
  • (9)後輩指導
  • (10)議事録の作成
5年目
  1. 主任(所長と同党の能力が必要:実行予算以外の能力)として通過するレベルで、●億円程度の新築物件について工程・品質・安全管理を一通りできる
  • (1)安全管理
  • (2)近隣対応
  • (3)品質管理
  • (4)施工図の作成チェック
  • (5)内装工事全般ができる
  • (6)マスター工程管理
    ①出来高管理
  • (7)請求書の処理
  • (8)見積書作成
    ①オプション工事の見積
  • (9)総合施工計画書の作成

表4:技能伝承プロジェクト「次世代幹部に求める人物像・求めるスキルの設定」

著者

タナベコンサルティング
ストラテジー&ドメインコンサルティング事業部
チーフマネジャー

大裏 宙

前職はBtoC向けサービス事業(外食・教育・介護・保育)を全国展開する上場企業に勤務。経営企画、店舗開発、FC加盟店開発、新規事業立ち上げを経験し、当社へ入社。主に建設業における事業戦略構築、人材育成、働き方改革推進を得意とし、全国で多数の実績を有する。

大裏 宙

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コンサルティング実績

創業66
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