COLUMN

2026.09.29

中堅企業が実装すべき財務戦略
~ファイナンス理論における
持続的な企業価値向上~

  • 資本政策・財務戦略

中堅企業が実装すべき財務戦略~ファイナンス理論における持続的な企業価値向上~

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本コラムは、ダイヤモンド社発行の「コーポレートファイナンス戦略」の第6章の抜粋記事です。

ファイナンス理論における持続的な企業価値向上

ファイナンス理論における企業価値は、企業が将来に生み出すフリーキャッシュフロー(FCF)を割引率(WACC=加重平均資本コスト)で現在価値に割り引いた金額の合計である【図表6-4】。そのなかでも、継続価値の占める割合が非常に大きい。すなわち、企業価値の拡大は、短期・中期的なキャッシュフローの拡大と、長期・超長期的なキャッシュフローの拡大という両方が必要であり、そのために、社長や株主が交代しても継続的に事業や組織が成長し、存在し続けることが最優先課題となる。

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【図表6-4】企業価値は「企業が稼ぐキャッシュフローの合計」 出所:タナベコンサルティング作成


企業価値向上に向けては、収益力(稼ぐ力)と成長力(伸びる力)を短期・中期・長期・超長期で強化する必要がある。具体的には、経営理念に基づいた全社および事業・機能戦略の策定、それを推進するための組織戦略の構築、それを実現する人材戦略の確立、これらを支える財務戦略の推進が重要である。これらは、短期・中期的な社長の視点といえる。
一方、現在の不確実性の高い事業環境においては、長期・超長期的な株主視点での経営が重要視されている。10年、20年先に向かってキャッシュフローを最大化するというファイナンス思考による経営である。不確実性に備え、将来のありたい姿からバックキャスト(逆算)し、長期的なリスクと機会を想定しながら経営に反映させる。経営者は自身の任期だけを考えた経営ではなく、次世代への承継を見据えた経営を実践することが強く求められている【図表6-5】。

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【図表6-5】社長視点と株主視点による経営承継 出所:タナベコンサルティング作成


もちろん、不確実性を前提に経営を続けることは困難を極める。重要なのは、価値判断基準となる経営理念である。資本の承継、経営の承継とともに、経営理念や企業文化の承継、すなわち「志の承継」が企業の持続的成長と企業価値向上につながる【図表6-6】。

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【図表6-6】事業承継:3つの承継 出所:タナベコンサルティング作成


同族企業における親族内承継の場合、親族だからこそ承継できる志(家訓、家憲、心得、遺訓、掟など)というものがある。しかし、親族外承継にシフトした企業の場合、そうした創業家やオーナーの志を承継することが難しいケースもある。また、親族内承継においても、親族であるがゆえに本音でぶつかってしまい、後継者に対し経営者としての価値観を共有するプロセスを正しく踏めていないケースも散見される。
事業承継を終えた先代社長から、後継者について判断基準のずれや経営者視点の不足を嘆く声がよく聞かれる。しかし、それは後継者自身が悪いのではなく、先代社長が経営に対する志や判断基準を正しく承継できていないことに起因するケースが多い。
TCGの事業承継コンサルティングでは、「事業承継キャンプ」を実施している。そこでは、志や価値判断基準を引き継ぐことを目的に、判断基準を「憲章」として可視化することが多い。【図表6-7】は、あるクライアント企業の社長の経営における考え方・判断基準をヒアリングし、体系的にまとめた憲章を抜粋したものである。

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【図表6-7】経営者憲章(例) 出所:タナベコンサルティング作成


社長の志(価値判断基準)を承継するポイントは、それを可視化するプロセスを後継者に見てもらうことだ。社長が思いを語る場に同席させ、憲章としてまとめていく過程を通じて、判断基準の背景や狙いを理解してもらうことが肝要である。ただし、これを当事者同士だけで行うと感情が入りすぎ、コンフリクト(意見の衝突や対立による緊張状態)が生じることも多いため、第三者としてコンサルタントを活用し、ファシリテートしてもらうことが重要である。
志を承継するためには、自社の現状認識から戦略の方向性をまとめる必要がある。TCGでは、これを「MIRAI承継診断」と呼び展開している。例えば、家事代行サービス業を営むH社の社長は67歳と高齢で、妻との間に子どもがいなかった。社長から事業承継の相談を受けた私たちは、H社に対してMIRAI承継診断を実施した。そして、それに基づいた数パターンの承継戦略を社長に提示して、メリット・デメリットやリスクについて何度もディスカッションを重ねた。その結果、社長はM&Aを選択し、70歳までに会社を譲渡したいとの意向を固めたのである。
社長は会社の譲渡先を探しつつ、経営権を役員に承継するための準備を開始した。約1年が経過した後、大手の上場人材派遣会社がH社を買収することに決まった。社長はファウンダー(創業者)としてH社に残り、専務が新社長に昇格。親会社の人材派遣会社から役員が派遣された。大手企業の傘下に入ったH社の経営はますます安定し、現在は次世代の経営を役員に承継する準備を進めている。

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