建設業の課題をシェアードサービスで解決する方法と導入ステップを解説!
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建設業界は、他業界と比較して特有の構造的な課題を抱えています。
例えば、施工管理技士や建築士などの資格保有者の不足に加え、プロジェクトごとの複雑化した資金繰り、現場ごとに異なる業務フローの非効率な運用などが挙げられます。
これらの課題を放置すると、業務負担の増加やコストの上昇、さらには競争力の低下を招く可能性があります。
こうした状況の中で注目されているのが「シェアードサービスの活用」です。
シェアードサービスとは、複数の企業や組織に共通する間接業務を集約し、全体最適を図る経営手法の一つです。
建設業界においても、業務の効率化やコスト構造の改善を目的として、導入が進められています。
特に、資格保有者の戦略的な人材マネジメント、資金繰りの可視化と統制、業務フローの標準化といった、建設業特有の経営課題に対応する上で、シェアードサービスの導入は非常に有効です。
本記事では、シェアードサービスの基本的な概念、建設業界における活用の方向性、導入プロセスの要点について解説します。
1. シェアードサービスとは
シェアードサービスとは、企業内の複数の事業やグループ企業における共通業務を統合・集約し、専門的なサービスとして一元的に提供する仕組みを指します。
これにより、業務の効率化や標準化、専門性の向上が図られます。
統合の対象となるのは主にコーポレート部門の業務であり、具体的には以下が挙げられます。
経理:入出金管理、仕訳業務、経費精算
人事労務:労務管理、給与計算、社会保険手続き
総務:備品や消耗品管理、施設管理、文書管理
情報システム:システム運用、データ管理
シェアードサービスの導入は、企業にとって以下の4つの意義を持ちます。
(1)コスト削減
重複業務の集約により、総作業時間の削減やバックオフィス人員の適正化を実現し、コスト効率を向上させます。
(2)業務品質の向上
業務の標準化により、品質のばらつきを解消し、全体の業務品質を向上させます。
(3)ガバナンスの強化
属人的な業務を解消し、不正防止や業務の透明性の向上につなげます。
(4)戦略業務へのシフト
シェアードサービスでオペレーション業務を効率化することにより、経営資源を優先順位の高い施策に集中させることが可能となります。
例えば、財務戦略や人材育成戦略など、企業の成長に直結する分野に注力できる体制を構築できます。
2.建設業特有の課題とシェアードサービスの解決策
(1)資格保有者の人材マネジメント
建設業界では、プロジェクトの遂行に資格保有者が不可欠です。
しかし、資格保有者の数には限りがあり、特に地方の中小建設会社は深刻な人材不足に直面しています。
また、資格保有者の配置が適切でない場合、プロジェクトの進行に支障をきたすこともあります。
シェアードサービスによるこの課題の解決策は、以下の3つです。
①資格保有者データベースの構築
資格保有者の情報を集約し、稼働状況やスキルセットをリアルタイムで把握できる仕組みを整備します。
これにより、適材適所の配置が可能となり、人材の活用効率が向上します。
②資格取得支援の一元化
資格取得に必要な研修や試験対策をシェアードサービスセンターで一括管理し、従業員のスキルアップを支援します。
これにより、資格保有者の増加が促進され、人材不足の解消につながります。
③プロジェクト間の人材シェアリング
複数の企業間で資格保有者をシェアする仕組みを構築することで、特定のプロジェクトに人材が偏ることを防ぎます。
これにより、全体の人材リソースを有効に活用できます。
(2)資金繰りマネジメント
建設業界では、プロジェクトごとに多額の資金が動くため、資金繰りの管理が非常に重要です。
しかし、現場ごとに異なる支出計画や請求スケジュールが存在するため、全体の資金状況を把握するのが難しいという課題があります。
また、下請け業者への支払い遅延が発生すると、信頼関係の悪化を招くリスクもあります。
シェアードサービスによるこの課題の解決策は、以下の3つです。
①資金管理システムの導入
各プロジェクトの収支状況をリアルタイムで把握できるシステムを導入し、資金の流れを可視化します。
これにより、適切なタイミングでの資金調達や支払いが可能となります。
②請求・支払い業務の集約
請求書の発行や支払い業務をシェアードサービスセンターに集約することで、業務の効率化と正確性を向上させます。
③キャッシュフローの最適化
プロジェクトごとの収支計画を統合し、全体のキャッシュフローを最適化します。
(3)業務フローの非効率性
建設業界では、現場ごとに異なる業務フローが存在するため、全体の効率性が低下することがあります。
特に、バックオフィス業務(経理、人事、総務など)においては、重複作業や手作業が多く、ミスが発生しやすい状況です。
シェアードサービスによるこの課題の解決策は、以下の3つです。
①業務プロセスの標準化
経費精算や勤怠管理のプロセスを統一することで、業務負担を軽減します。
②ITツールの活用
クラウド型の業務管理ツールを導入し、業務の効率化と正確性を向上させます。
③データの一元管理
各現場で発生するデータをシェアードサービスセンターで一元管理することで、情報の重複や漏れを防止します。
3.シェアードサービス導入のステップ
シェアードサービスについても、他の課題解決のステップと同様に「知・選・行」(知る、選ぶ、行動する)の3ステップで実行する必要があります。
(1)知る(現状の把握)
まずは、自社の現状を正確に把握することが重要です。
資格保有者の配置状況や稼働状況、各プロジェクトの資金繰り状況、バックオフィス業務の実態や課題点を整理します。
(2)選ぶ(導入範囲の決定)
次に、シェアードサービスの対象範囲を明確にします。
資格保有者の管理を優先するのか、資金繰りの効率化を優先するのか、スモールスタートで進めるのか、あるいは全社導入を目指すのかを判断します。
(3)行動する(導入と運用)
最後に、実際にシェアードサービスを導入します。
各現場とのコミュニケーションを密にし、導入初期のトラブルには迅速に対応し、定期的に進捗を確認しながら改善を継続的に行います。
▼クリックで拡大します
建設業界におけるシェアードサービスは、資格保有者の人材マネジメントや資金繰りの管理、業務フローの効率化といった課題を解決するための有効な手段です。
導入には一定の労力が必要ですが、適切なプロセスを踏むことで、大きな効果を得ることができます。
本記事で紹介したポイントを参考に、シェアードサービスの導入を前向きに検討いただきたいと思います。
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