COLUMN

2025.12.23

シェアードサービスを事例を用いて解説!
事例から学ぶ3つのポイント

  • グループ経営

シェアードサービスを事例を用いて解説!事例から学ぶ3つのポイント

目次

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中堅・中小企業の経営課題として多く指摘されるのは、「人材が不足している」「業務が属人化している」「本社コストが増加している」といった点です。
これらの課題を解決する手段として注目されているのが、経理・人事・購買・ITサポートなどの間接部門を横断的に集約・標準化し、効率と品質を同時に高めるシェアードサービスの取り組みです。
かつては大企業に限られた取り組みと見られていましたが、クラウドやデジタル技術の進展により、中堅・中小企業でも導入可能な経営合理化の手段として普及が進んでいます。
本コラムでは、実際の導入事例をもとに、シェアードサービスによってどのような効果や成果が得られたのかを紹介します。

1.シェアードサービスとは

シェアードサービスとは、企業グループ内の複数の会社、事業、拠点に分散する間接部門の共通業務を標準化し、共通基盤のもとで集約・運営する仕組みを指します。
また、運営する組織を「シェアードサービスセンター(SSC)」と呼ぶことが一般的です。
集約の対象は、経理・財務・IT・総務・人事などコーポレート部門の業務が主ですが、企業規模や目的に応じて範囲を柔軟に設定することも可能です。
中堅・中小企業においては、シェアードサービスセンターでの業務集約を起点とし、領域別に外部委託(BPO)を組み合わせることで、効率性と専門性を両立させるハイブリッド型の運用を目指すことが望ましいでしょう。

事例1:A社「年商300億円 生活インフラ設備業でのシェアードサービス構築」

(1)背景

A社は、全国に支社・支店を持つ年商約300億円規模の生活インフラ設備工事業です。
グループ子会社が6社ありますが、間接業務はグループ各社ごとに実施しており、支社・支店内でも共通のオペレーションを各拠点単位で行っていました。
グループとしての多角化戦略や資本効率、経営効率を高めるため、ホールディング会社を設立し、ホールディングス組織としてシェアードサービスセンターを設立。グループ全体の共通オペレーション基盤としての機能を強化しました。

(2)機能実装までの取り組み

まず、支社・支店・営業所で行われている間接業務を洗い出し、集約可能な業務を選定しました。
集約業務の選定は、シェアードサービス化のプロセスにおいて重要な工程です。
特に中堅・中小企業は、人員の制約もあるため、初期段階でどの業務をシェアードサービス化するかを慎重に検討する必要があります。
A社では、決算の早期化に着目し、各支社・支店・営業所における決算処理関連業務を集約対象としました。
人事・総務業務やグループ子会社の間接業務は、スタート段階では集約しないことになりましたが、シェアードサービス化を短期・中期・長期のロードマップに落とし込み、グループ全体のシェアードサービスセンターにしていく方向性で指針を策定しました。

(3)成果

上記の取り組みにより得られた経営合理化の成果は以下の通りです。
①定量成果:10.2%の業務工数削減(約2.2人分の人員削減効果)
②定性成果:・シェアードサービスセンターへの業務移管過程における業務改善効果
②定性成果:・システム活用を通じたペーパーレス化の推進
②定性成果:・グループ全体最適の観点からのDX推進体制の確立

A社におけるシェアードサービス化の取り組みで特筆すべき点は、従来のバックヤード部門から「フロントヤード部門への進化」を掲げていることです。
本コラムでも触れている通り、シェアードサービスは間接部門の集約・統合による経営合理化を目的としていますが、従来のバックオフィス部門では、必要最低限の人員で効率を重視することが求められてきました。
今後、グループ全体の経営合理化を一層推進するためには、シェアードサービスセンターが戦略的にコーポレート機能を高めていくことが重要です。
単なる間接部門ではなく、企画機能を備えた経営支援部門として位置付けることで、シェアードサービスセンターの存在価値がさらに高まります。

3.事例2:B社「年商1,000億超 エネルギー卸・小売業でのシェアードサービス構築」

(1)背景

生活に欠かせないガスの卸売・小売を手掛けるB社は、積極的なM&A戦略により、国内で50社近い子会社を有する大規模なグループを形成していました。
今後もM&Aによる業容拡大を基本戦略としつつ、グループとしてシナジーを創出するためには、グループ本社機能を整理・再構築する必要がありました。
また、M&Aによってグループ傘下となった子会社では、バックオフィス業務が依然として各社内に残置されており、グループ全体で業務の重複や生産性の低下が生じている可能性がありました。

(2)機能実装までの取り組み

グループ全体を統括するホールディング会社を設立し、そこにシェアードサービスセンターを設計した点はA社と同様です。
ただし、グループ会社が多く全国に点在しているため、エリアごとに管掌する中間持株会社を設立し、マネジメントおよびガバナンスを適切に機能させるためのグループ再編を実施しました。
核となるシェアードサービスセンターはホールディング会社内に設置し、ホールディング会社・中間持株会社・グループ子会社それぞれが担う業務を明確化・再配置することで、より効率的な経営体制の構築を進めました。

(3)成果

上記の取り組みにより得られた経営合理化の成果は以下の通りです。
①定量成果:15.7%の業務工数削減(約2.8人分の人員削減効果)
②定性成果:・月次決算および年次決算の早期化
②定性成果:・シェアードサービスの業務委託手数料の設計によるシェアードサービスセンターの収益構造の確立

B社もA社同様、まずは決算関連業務における経理・財務機能の集約から取り組みましたが、中長期的にはシェアードサービスセンターにおいて採用や人材育成企画など、より付加価値の高い機能を担う方針です。 ホールディング会社(シェアードサービスセンター)は、グループ事業を円滑に推進するサポート機関であると同時に、経営戦略を支える戦略的コーポレート機能と位置付けるシェアードサービス構想を描いています。

4.シェアードサービス化の3つのポイント

シェアードサービスによる経営合理化を実現するには、適切なステップを踏むことが重要です。
第一に、「現状の業務内容を的確に把握する」ことです。
業務にかかる工数や必要人員数、業務フローを整理しながら、業務改善の視点を持つことが重要です。
改善の着眼点の一つに、ECRSの4原則があります。

・Eliminate:ムダな業務をなくす
・Combine:重複や二度手間の業務を統合する
・Rearrange:作業の手順を入れ替える
・Simplify:業務を簡素化する

シェアードサービスの目的は、単に業務を1カ所に集約することではなく、全体最適の観点から効率化を図ることにあります。
一つずつの業務工程を改善することで、業務集約後の工数削減にも確実に寄与します。

第二に、「組織風土や文化を理解する」ことです。
業務を集約したり、業務フローを見直したりすることは、初期段階では現場担当者に一定の負担を生じさせる可能性があります。
特に、長年にわたり同じ方法で業務を行ってきた場合には、その傾向が顕著になります。
経営層はビジョンや方針を明確に示し、シェアードサービス化によって実現する効率化や合理化の意義を、現場担当者に丁寧に伝えることが求められます。

第三に、「DX推進を前提としたシェアードサービス化」を進めることです。
単に業務を集約するだけでは、業務量削減の効果は限定的です。
集約後の業務に対して有効なシステムを導入し、それに適合する業務フローを設計することが、効率化を最大化する鍵となります。
システム導入には短期的なコスト負担が伴いますが、中長期的な視点で費用対効果を検証し、持続的な改善を図る姿勢が重要です。

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