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複数ブランドを展開する企業では、事業やサービスの拡大に伴い、顧客から見たブランド間の違いが分かりにくくなり、自社内でのカニバリゼーションや発信のばらつきが生じやすくなります。
ブランドポートフォリオ戦略の観点では、保有ブランド全体の最適化が重要ですが、実務上は「どのブランドを持つか」だけでなく、「それらをどのような関係性として顧客に提示するか」が成果を左右します。
そこで必要となるのが、ブランドアーキテクチャの視点です。
本コラムでは、ブランドアーキテクチャの基本を簡潔に整理した上で、設計時の判断基準と見直しの進め方を解説します。
※本コラムをお読みになる前に、『ブランドポートフォリオ戦略:企業価値を最大化するブランドマネジメント』をご一読いただくと、理解がより深まります。
ブランドアーキテクチャが問われるのは、どのような場面か
ブランドアーキテクチャとは、親ブランドと個別ブランドの関係をどのように設計するかを示す考え方です。
ブランドポートフォリオ戦略が保有ブランド全体の最適化を目指すものであるとすれば、ブランドアーキテクチャは、そのブランド群を顧客にとって理解しやすい構造に落とし込むための設計思想といえます。
既存のブランドポートフォリオ戦略では、ブランド体系や、マスターブランド型・サブブランド型・マルチブランド型といった体制の理解が前提となります(詳細は『ブランドポートフォリオ戦略の大前提-ブランド体系を理解する-』をご確認ください)。
しかし、実務で課題となりやすいのは、その類型の説明そのものではなく、「自社はどこまで親ブランドを前面に出すべきか」「新しい事業やサービスを既存ブランドの傘下に置くべきか、それとも独立ブランドとして立ち上げるべきか」といった判断です。
特に、ブランドアーキテクチャが課題化しやすいのは、
- ・新規事業が増加した
- ・類似サービスが複数存在している
- ・M&A後に複数ブランドを抱えた
- ・企業名・事業名・サービス名の使い分けが曖昧になってきた
などのタイミングです。
問題はブランドの数そのものではなく、関係性の曖昧さにあります。
同じような価値を異なる名称で提供している、逆に異なる価値であるにもかかわらず同一ブランドの傘下に置いている、社内では区別しているつもりでも顧客には違いが伝わらない。
こうした状態が続くと、ブランドは資産ではなく複雑化の要因となり、事業推進を阻害するものとなってしまいます。
ブランドアーキテクチャ設計で押さえるべき判断基準
ブランドアーキテクチャを設計する際、最初に検討すべきは、親ブランドをどこまで前面に打ち出すかです。
企業名やグループ名の信頼を活用したほうが顧客を獲得しやすい場合もあれば、既存ブランドのイメージが新規事業の拡大を阻害する場合もあります。
例えば、企業としての信用が重要なBtoB事業では親ブランドの信用を活用する効果が大きい一方、ターゲットや世界観が大きく異なる事業では、独立したブランドのほうが価値を伝えやすいこともあります。
次に重要なのは、新ブランドを本当に創出する必要があるのかという判断です。
新規事業や新商品が生まれるたびに新しい名称を付けてしまう企業は少なくありません。しかし、既存ブランドの傘下で十分に価値を訴求できるのであれば、無理にブランドを増やす必要はありません。
新ブランドを検討する際には、
- ・ターゲット、価格帯、提供価値が既存ブランドと明確に異なるか
- ・顧客がその違いを認識できるか
- ・将来的な拡張性や統合可能性があるか
などを確認する必要があります。
一方で、既存ブランドの統合や廃止も重要な論点です。
顧客の認知が重複している、営業現場で明確な説明の使い分けがなされていない、維持コストに見合う価値がない、今後の事業戦略との整合性が取れていない。
こうしたブランドは、整理の対象として検討すべきです。
長年運用してきたブランドであっても、経営資源を分散させるだけであれば、大胆な見直しが求められます。
また、CI(コーポレートアイデンティティ)・VI(ビジュアルアイデンティティ)をどのように設定するかも重要です。
どこまで親ブランド名を冠するのか、「by 〇〇」のようなエンドース表記を使うのか、ロゴの上下関係をどのように示すのか、Webサイトや営業資料、採用広報で表現をどのように統一するのかまで含めて設計する必要があります。
よくある失敗は、ブランドの役割を定めないまま名称やデザインだけ整えてしまうことです。
設計思想が曖昧なままでは、表現を整えても、いずれ運用段階で一貫性が失われます。
ブランドアーキテクチャ設計の実務プロセス
それでは、具体的にどのようにブランドアーキテクチャを設計すればよいのでしょうか。
①保有ブランドの棚卸し
コーポレートブランド、事業ブランド、サービスブランド、商品ブランド、キャンペーン名称まで含めて洗い出し、それぞれの対象顧客、提供価値、価格帯、売上・利益への貢献度、使用部門、主な顧客接点を整理します。
この段階で、社内で日常的に使われている名称ほど抜け漏れが発生しやすいため注意が必要です。
ブランドの全体像を可視化するだけでも、重複や役割が不明瞭な領域が見えてきます。
②ポジショニング
次に、顧客視点で重複と空白を確認します。
社内ではAブランドとBブランドを明確に分けているつもりでも、顧客には同一または類似のブランドとして認識されている場合があります。
反対に、企業としては同一ブランドとして位置付けていても、顧客接点ごとの表現の違いによって別物と受け取られている場合もあります。
顧客アンケート、インタビュー、営業現場に対するヒアリング、問い合わせ内容の分析などを通じて、各ブランドがどのように認知され、どのような違いがあるものとして理解されているかを把握することが必要です。
ここでは、重複だけでなく、十分に獲得できていない市場や顧客層という「空白」も確認することが重要です。
③整理
その上で、各ブランドの役割と守備範囲を定義します。
ターゲット顧客、提供価値(選ばれる理由)、親ブランドとの関係性の位置づけを明確にし、強化、維持、統合、廃止の方向性を整理します。
この判断は感覚的に行うのではなく、顧客認知と事業戦略の両面から行う必要があります。
④CI/VI策定
続いて、命名・表現・運用ルールを整備します。
新ブランドを追加する際の判断基準、既存ブランドを統合する際の原則、命名ルール、ロゴや表記ルール、エンドースの考え方などを定め、ブランドガイドラインに落とし込みます。
これらの基準が曖昧なままでは、新規事業やM&Aのたびに個別判断が繰り返され、再びブランドは乱立を招きます。
⑤マネジメント体制の確立
最後に重要となるのが、移行計画と社内浸透です。
ブランド構造を見直しても、Webサイト、営業資料、提案書、採用資料、顧客向け告知などが連動して更新されなければ、市場には伝わりません。
また、営業、広報、採用、事業部門がそれぞれ独自にブランドを運用していては、統一感は生まれません。
誰がブランド判断を行い、どの部署が統制するのかというガバナンスまで含めて設計することが、ブランドアーキテクチャを機能させる前提となります。
最後に
ブランドアーキテクチャの見直しは、単なる名称整理やデザイン統一に留まるものではありません。
複数ブランドを企業価値向上につなげるための構造設計であり、事業ポートフォリオや経営資源配分にも関わる経営課題です。
自社のブランド構造に課題を感じている場合は、第三者の視点を取り入れながら整理・再設計を進めることを推奨します。


