COLUMN

2026.09.30

全社戦略とは?事業戦略との違いと手順

全社戦略と事業戦略の違いとは?
本記事では、「どこに張るか」を決める全社戦略の重要性と、事業戦略との役割の違いを分かりやすく解説します。

目次

閉じる

全社戦略とは?事業戦略との違いと手順

全社戦略とは

(1)企業のあるべき姿と資源配分

全社戦略とは、会社全体の「あるべき姿」を定め、その実現に向けて経営資源をどう配分するかを決める上位戦略です。事業ごとの打ち手を考える前に、まず経営として「どこに向かうのか」「何を伸ばし、何を抑え、何をやめるのか」を明らかにすることが出発点になります。中堅・中小企業では、目の前の売上や案件対応に追われるあまり、事業ごとの施策が先行し、全社としての意思が曖昧になることが少なくありません。しかし、環境変化が大きい時代だからこそ、個別最適ではなく全体最適の視点が求められます。

(2)10年先のあるべき姿から逆算して描く

ここで重要なのは、全社戦略が単なるスローガンではないという点です。あるべき姿を描き、それに合わせた市場の選び方、投資の優先順位、人材配置、組織体制にまでつながらなければなりません。将来のグループ化や多角化を見据えるのであれば、なおさら単一事業の延長線上ではなく、複数の事業や機能を束ねる視点が必要です。「わが社は10年先にどのような企業群・事業群を形成し、どのような存在でありたいのか」まで描くことが重要です。

事業戦略との違い

事業戦略との違い

(1)「どこに張るか」と「どう勝つか」の違い

全社戦略と事業戦略の違いは、考える対象と意思決定の階層にあります。全社戦略は、企業全体を俯瞰し、事業ポートフォリオ、成長領域、撤退判断、投資配分といった経営の大きな方向を定めます。一方の事業戦略は、それぞれの事業がどの市場で、どの顧客に、どの提供価値で勝つのかを具体化する戦略です。言い換えれば、全社戦略は「どこに張るか」を決め、事業戦略は「そこでどう勝つか」を決める関係にあります。

全社戦略と事業戦略の位置づけ

出所:タナベコンサルティング作成

(2)全社の意思が事業戦略の一貫性を生む

全社戦略と事業戦略の上下関係が曖昧になると、各事業がそれぞれ正しいことをしていても、会社全体としては資源が分散し、成長の軸が定まらなくなります。例えば、ある事業では拡大投資、別の事業では収益確保、さらに別の事業では新規領域への挑戦が同時並行で進んだとしても、それを束ねる全社の優先順位がなければ、経営資源は薄く広く配られるだけになりやすいのです。全社戦略は事業の意思決定に一貫性を与えるためのものです。だからこそ経営者には、「各事業が何をするか」以上に、「会社として何を重視するか」を先に定めていただきたいのです。

全社戦略の組み立てと実行のステップ

全社戦略の組み立てと実行のステップ

(1)あるべき姿を起点に5段階で組み立てる

全社戦略の組み立ては複雑に見えても、押さえるべき順序は明確です。ポイントは、「①あるべき姿の明確化」「②重点領域の選定」「③資源配分」「④実行体制の整備」「⑤見直し」の5段階で進めることです。最初に行うべきは、企業理念や存在意義も踏まえながら、将来どのような企業になりたいのかを言語化することです。ここが曖昧であれば、以後の判断基準が定まらず、投資も組織改編も場当たり的なものになります。

(2)重点領域を選び、資源配分を決める

次に、そのあるべき姿を実現するために、どの領域に経営資源を集中させるのかを決めます。既存事業の深耕なのか、新規事業の育成なのか、周辺領域への多角化なのか、あるいはグループ化を通じた機能補完なのか。この選定は、「やれること」ではなく「やるべきこと」を基準に行う必要があります。その上で、人材・資金・時間・マネジメントの重点配分を決めることが、全社戦略の核心です。戦略とは、選択の集合であると同時に、配分の意思そのものだと言えます。

(3)戦略を予算や評価へ実装する

さらに、全社戦略は決めるだけでは意味を持ちません。実行に移すためには、本社と事業部門の役割分担を明確にし、意思決定の基準を共有し、進捗を定期的に確認する仕組みが必要です。中堅・中小企業では、経営者の頭の中には戦略があっても、幹部や現場にまで翻訳されていないことが多くあります。その結果、日々の判断は従来の延長に戻り、戦略は「掲げただけ」で終わってしまいます。あるべき姿を浸透させるとは、言葉を共有するだけでなく、会議、評価、予算、組織設計の中に落とし込むことにほかなりません。

(4)グループ化・多角化を見据えて機能を設計する

また、将来のグループ化や多角化を見据える場合には、全社戦略の段階で「単独で持つべき機能」と「外部と組むべき機能」を整理しておくことが重要です。すべてを自前で抱える発想では、変化に対する対応力が落ちます。一方で、むやみに事業や機能を増やせば、統合の難しさが先に立ちます。したがって、どの強みを中核に据え、どの機能を連携・補完によって広げるのかを見極める視点が欠かせません。ここに、将来のグループ経営を見据えた全社戦略の意味があるのではないでしょうか。

(5)環境変化を踏まえ、戦略を再設計する

全社戦略における「見直し」とは、期初に定めた方針を単に点検することではありません。市場環境の変化、投資の進捗、各事業の成果を踏まえながら、重点領域や資源配分の妥当性を検証し、必要に応じて修正する経営行為です。特に中堅・中小企業では、一度決めた戦略を変えないことが一貫性だと捉えがちですが、実際には、守るべき軸を保ちながら打ち手を更新することこそが重要です。見直しの仕組みを持たなければ、全社戦略は環境変化に取り残され、実行そのものが形骸化してしまいます。したがって、全社戦略は「策定して終わるもの」ではなく、「実行し、検証し、再配分する」循環として運用していく必要があります。

変化に強い組織を実現する

変化に強い組織を実現する

(1)守る軸と変える打ち手を切り分ける

変化に強い組織とは、戦略を固定化しない組織です。ただし、何でも変える組織という意味ではありません。守るべき軸と、変えるべき打ち手を切り分け、環境変化に応じて資源配分と実行方法を見直せる組織こそが、真に強い組織です。そのためには、第一に全社としての方向を共有すること、第二に本社と各事業の役割を明確にすること、第三に戦略を定期的に検証し修正する仕組みを持つことが必要です。

(2)全社戦略が変化対応力と成長力を高める

経営環境が不確実な時代には、事業戦略の巧拙だけで成長を持続することは難しくなっています。むしろ問われるのは、全社としてどの未来を選び、その未来に向けて経営資源をどう束ねるかです。全社戦略は事業戦略の上位にあり、経営の優先順位と資源配分を決めるものです。この原点が定まってこそ、各事業の戦略は生き、組織は変化に対応しながら成長できます。いま自社に必要なのは、個別施策の追加ではなく、全社としての意思をもう一段高い視座で問い直すことではないでしょうか。

著者

タナベコンサルティング
ストラテジー&ドメインコンサルティング
コンサルタント

水戸部 咲

広告・メディア業界にて営業、広告企画運用、経理財務に従事したのち、多角的な視点でクライアントの課題を捉え、事業を前進させる支援をしたいと考え当社へ入社。「提言に留まらず、自走できるまで伴走する」をモットーに、クライアントの視点に立ったコンサルティングを提供している。

水戸部 咲

WEBINAR

一覧ページへ

ABOUT

タナベコンサルティンググループは
「日本には企業を救う仕事が必要だ」という
志を掲げた1957年の創業以来、
69年間で大企業から中堅企業まで約200業種、
22,100社以上に経営コンサルティングを実施してまいりました。

企業を救い、元気にする。
私たちが皆さまに提供する価値と貫き通す流儀をお伝えします。

コンサルティング実績

創業69年
約200業種
22,100社以上