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本コラムでは、製造業における新規事業のビジネスモデルと成功事例について紹介します。新規事業というと、新商品・サービスの開発やグローバル展開、M&A等、様々な手段がありますが、ここでは時代の変化に伴って移り変わる価値観の中で、昨今の製造業における新しいビジネスモデルへの変革について事例を交えた紹介とさせていただきます。構成は以下の通りです。
1.製造業で新規事業に取り組む理由
2.新規事業を始めるプロセス
3.製造業の新しいビジネスモデルと成功事例
1.製造業で新規事業に取り組む理由
労働生産性の停滞
日本のGDPは2023年にドイツに抜かれて現在世界4位ですが、1995年ごろより成長はほぼ横ばいとなっています。他国の成長に伴い、一人当たりGDPは年々順位を下げており、IMF(国際通貨基金)のデータによると、2022年の順位は32位となり、G7の中では最下位に位置づけられ、同時にOECDの平均値を割り込んでいます。GDPの値は人口の多さに影響を受けるため、日本が世界第12位の人口であることを考慮すると、必然と順位が高くなることは予想できますが、その国の平均的な経済力を表す一人当たりGDPの順位低下は、他国の成長から取り残されている日本の経済成長の停滞を表していると言えます。
この要因の一つとして日本の産業全体の20%以上の売上高を占める製造業の停滞が深く関係していると考えられます。
日本の製造業の労働生産性(就業者一人当たりの付加価値)は、OECDに加盟する主要35か国において、2000年代から順位が低落傾向にあり、2015年以降は16~19位を推移しています。生産性を高めるには、一人当たりの労働時間を減らして売上を伸ばしていく必要がありますが、技術者の高齢化かつ人口減少による内需の縮小が予測される日本において、既存事業のみを継続する延長線上に、楽観できる要素を見出すことは難しい状況です。だからこそ、新たな収益の基盤となる新規事業開発というテーマと向き合うことが求められています。
特に、日本の製造業の保有する有形資産の割合は高く、ビジネスモデルの変革によってこのリソースの有効活用を検討しておくことは、モノづくり大国としてこれまでの日本を支えてきた製造業の持続的な成長に欠かせないテーマなのです。
2.新規事業を始めるプロセス
推進体制の確立と自社の強みの把握
そもそも新しいビジネスモデルを検討するにあたっては、やみくもにたくさんのアイデアを出せば良いというものではありません。本コラムにおいては、最後に成功企業の事例を紹介しますが、単なるアイデアの紹介とならないよう、新規事業を検討する上での2つの着眼点(プロセス)を確認します。
①コーポレート戦略
何のために新規事業を行うのか。決めた目標へ向けて推進し続ける(意思決定できる)体制であるのか。
②バリューチェーン戦略
新規事業を行うにあたって活かせる自社のリソースは何か。既存のバリューチェーンを見直し、時流に合わせて再構築し続けることは可能か。
上記は業種を問わず新規事業を検討する上では非常に大切な部分となります。
目的意識、推進体制、自社の現状認識を踏まえて、初めて新規事業案を検討するフェーズに入ることができる、
というプロセスを抑えることができれば幸いです。
3.製造業の新しいビジネスモデルと成功事例
「モノ売り」から「コト売り」へ
従来の製造業のビジネスモデルは、問屋や小売店に卸したり、web広告やDMを打ってECサイトなどでメーカー直販を行うといった「モノ売り」と呼ばれるモデルが主流でした。このモデルにおける目的は「商品を購入してもらうこと」であり、「大量生産・大量消費・コスト競争」の中でどれだけ優位に立てるかが主要な着眼点でした。
一方、「コト売り」とは、商品の購入で終わりではなく、「顧客との継続的な関係構築」を目的とした戦術展開がテーマとなります。昨今の世界的なインフレ情勢の中、デフレスパイラルに陥ってきた日本において、企業が追及すべきは、価格において競争力のある「モノ」から、価値を追及する「コト」へ、変革期を迎えています。この価値観の変化の中で、新しいビジネスモデルが形作られてきています。それでは、製造業における「コト売り」を目的とした新しいビジネスモデルとはどういったものでしょうか。3つの企業の成功事例を紹介します。
事例① ファーストリテイリング(ユニクロ)
「製造小売業」から「情報製造小売業」へ
「作ったものを売る」のではなく、「消費者が欲しいものを作る」プラットフォームを確立し、従来はお客様の声を反映した商品が店頭に並ぶまで2年かかっていた工程を、2週間に短縮しました。これを実現するために、お客様とダイレクトにつながる基盤(ECサイト等)の構築やサプライチェーンの変革、業務フロー改革等、デジタル技術を活用した劇的な改革を実施し、お客様の声がすぐに商品に反映されるという付加価値を実現した結果、高い競争力とブランド力を手にすることができました。
事例② コマツ
「製品IoT」化
建設機械メーカーのコマツは、建設機械に多数のセンサーやGPSを組み込むことによって、1台ごとの位置や稼働時間、稼働状況、燃料残量などの情報の遠隔管理システムを構築。これにより、何らかの異常を検知した際のスピーディな対応や、故障を未然に防ぐ部品の交換など、これまで故障してから対応するまでにかかっていたダウンタイムの縮小となる付加価値の提供を実現しました。
事例③ BASE FOOD
「D2C」モデル
D2Cとは、「Direct to Consumer」の略称で、メーカーが自社で開発した商品を、卸や小売店を仲介することなく、ECサイトなどを利用してユーザーに直接販売する形式を指します。ただし、単なるメーカー直販のデジタル化ではなく、顧客との継続的な関係構築を目的とした手法であり、「コト売り」モデルにおける代表的な戦略の一つとなります。特徴としては、顧客とのタッチポイント(接点)を持つことで、顧客データ(興味関心、顧客満足等)を直接得て、顧客一人一人に合わせた価値提供を行えることにあります。
ベースフードは自社ECでサブスクリプションを中心に完全栄養食を販売しています。自社ECだけでなく、他社ECやリテール販売、テレビCMやSNS等を活用したデジタルマーケティングで、お客様とのタッチポイントを増やすことに注力し、最終的には自社ECで購入した方が安くなる仕組みを構築。その結果、健康志向の高まりも相まってサブスクリプションの顧客継続率は93%という、D2Cを代表するビジネスモデルを構築しています。
上記3つの成功事例は、「モノ売り」から「コト売り」への変革の中で、新しいビジネスモデルを構築していった事例となります。この新しい時代への変革において大切なことは、デジタル技術を取り入れ、これまでの常識を疑い、お客様の声に耳を傾けることです。これまで世界で活躍してきた日本の製造業が、時代の変化に合わせて、先に挙げた事例のように新規事業・新しいビジネスモデルへチャレンジしていくことの意義を強く感じるのと同時に、まだまだデジタル化への対応に余地を多く残している日本企業の未来に大きな期待をしています。
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