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2025.01.21

財務戦略における資金調達の設計ポイント

  • 資本政策・財務戦略

財務戦略における資金調達の設計ポイント

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企業の成長や持続可能性を確保するためには、適切な資金調達戦略が不可欠です。資金調達は単なる資金の調達にとどまらず、企業の財務戦略全体に影響を与える重要な要素です。本コラムでは、財務戦略における資金調達の設計ポイントを4つの章に分けて解説します。

1. 資金調達の目的と戦略的意義

資金調達の第一歩は、その目的を明確にすることです。企業が資金を調達する理由は多岐にわたりますが、主に以下のような目的があります。

(1)運転資金の確保: 日常的な業務運営に必要な資金を確保するための調達。
(2)設備投資: 新しい設備や技術の導入、既存設備の更新に必要な資金。
(3)M&Aや新規事業の展開: 企業の成長戦略としての買収や新規事業の立ち上げに必要な資金。
(4)財務リスクの管理: 既存の負債のリファイナンスや資本構成の最適化を図るための資金調達。

これらの目的に応じて、資金調達の手法や条件が異なります。例えば、運転資金の確保には短期借入が適している一方で、設備投資には長期の融資や株式発行が考えられます。したがって、資金調達の目的を明確にし、それに基づいた戦略を策定することが重要です。
また、資金調達の際には資金計画を立案することが重要です。資金計画は、企業が将来の資金の流入と流出を予測し、適切な資金調達や運用を行うための指針となります。資金計画があってこそ、必要な資金規模やキャッシュフローを考慮した検討が可能となり、適切に資金調達を設計できるといえます。資金計画を適切に管理することで、企業は安定的な成長を遂げ、持続可能なビジネスを実現できます。
資金計画がしっかりと策定されている企業は、新たな投資や事業拡大の機会を逃さずに済みます。例えば、競合他社が新しい市場に進出する際に、資金計画が整っていれば、迅速に対応することが可能です。これにより、企業は競争力を維持し、成長を続けることができます。

2. 資金調達手法の選定

資金調達には多様な手法が存在し、それぞれにメリットとデメリットがあります。主な資金調達手法には以下のようなものがあります。

(1)自己資本調達: 株式発行や内部留保の活用。自己資本比率を高めることができ、財務の安定性を向上させる一方で、既存株主の持分が希薄化するリスクがあります。

(2)他人資本調達: 銀行からの融資や社債の発行。利息負担が発生しますが、自己資本を希薄化せずに資金を調達できるメリットがあります。

(3)リースやファイナンスリース: 設備投資において、初期投資を抑えつつ必要な設備を利用できる手法です。資産の所有権が移転しないため、バランスシート上の負債が増加しないという利点があります。

(4)クラウドファンディングやエクイティファイナンス: 新興企業やスタートアップにとって、資金調達の新しい手法として注目されています。多くの投資家から少額ずつ資金を集めることができるため、資金調達のハードルが下がります。

資金調達手法の選定にあたっては、企業の財務状況や市場環境、資金調達の目的を考慮する必要があります。また、資金調達のコストやリスクを評価し、最適な手法を選ぶことが求められます。

また、手法と共に考慮しなければならないものが資金繰りです。企業運営において資金繰りは非常に重要です。資金繰りが適切に行われていないと、たとえ利益を上げている企業であっても、短期的な資金不足に陥り、経営が困難になることがあります。
資金繰りの失敗は、企業にとって致命的な結果を招くことがあります。例えば、ある企業が急成長を遂げたものの、売上の回収が遅れ、運転資金が不足して倒産したケースがあります。このような事例から学ぶべきは、成長に伴う資金繰りの重要性です。成長を追求するあまり、資金繰りを軽視すると、企業の存続が危うくなることがあります。

3. 資金調達のタイミングと市場環境

資金調達を成功させるには、タイミングが非常に重要です。市場環境や経済状況に応じて、資金調達の条件やコストが大きく変動します。以下のポイントを考慮することが重要です。

(1)金利動向: 金利が低い時期に資金を調達することで、利息負担を軽減できます。逆に金利が上昇する前に資金を確保することも重要です。

(2)市場の流動性: 株式市場や債券市場の流動性が高い時期に資金調達を行うことで、より有利な条件で資金を調達できる可能性があります。

(3)企業の信用力: 企業の信用格付けや財務状況が良好な時期に資金調達を行うことで、低金利での融資や有利な条件での株式発行が可能になります。

(4)競合他社の動向: 同業他社の資金調達状況や市場の競争環境も考慮する必要があります。競合が資金調達を行っている場合、自社も同様のタイミングで行動することが求められることがあります。

資金調達のタイミングを見極めるためには、経済指標や市場動向を常にモニタリングし、柔軟に対応する姿勢が重要です。
足元の市場環境は、アメリカをはじめとする諸外国が金利引下げの局面にあり、日本は金利の引上げの時期を検討している状況にあります。日本では、長くゼロ金利(マイナス金利)の状態が続きましたが、その状況にも変化が起こっています。住宅ローン利用者の約7割が変動金利を選択しているといわれており、利上げの影響を実感された方も少なくはないと思います。企業による資金調達も同様で、今後、日本銀行による利上げの決定により、国内金利が上昇する場面が訪れれば、おのずと調達コストである金利も上昇します。
今後は金利上昇を前提に計画する必要があり、既に調達を決定している資金については、市場金利が上昇する前にあらかじめ調達を進めることが有効な手法といえます。

4.資金調達後の管理と評価

資金調達後、その資金をどのように管理し評価するかが重要です。資金調達後の管理には以下のポイントがあります。

(1)資金の用途管理: 調達した資金が計画通りに使用されているかを定期的に確認し、必要に応じて見直しを行います。資金の使途が不明確になると、資金調達の目的が達成できなくなるリスクがあります。

(2)財務指標のモニタリング: 資金調達後の財務状況を定期的に評価し、自己資本比率や負債比率、流動比率などの指標をモニタリングします。これにより、財務リスクを早期に発見し、適切な対策を講じることができます。

(3)投資家とのコミュニケーション: 株式発行などで資金を調達した場合、投資家との信頼関係を築くことが重要です。定期的な情報提供や業績報告を行い、透明性を確保することで、将来的な資金調達の際にも有利に働く可能性があります。

(4)資金調達の評価: 資金調達結果を評価し、成功点や改善点を分析します。これにより、次回の資金調達に向けた戦略を見直すことができます。

財務戦略における資金調達は、企業の成長や持続可能性に直結する重要な要素です。資金調達の目的を明確にし、適切な手法を選定し、タイミングを見極め、資金調達後の管理を徹底することで、企業はより強固な財務基盤を築くことができます。これにより、変化する市場環境に柔軟に対応し、持続的な成長を実現することが可能となります。

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