値上げに頼らず利益を残す|食品製造の原価管理から始める現場改善

コラム 2026.07.16
生産性向上 マネジメント
値上げに頼らず利益を残す|食品製造の原価管理から始める現場改善
目次

人手不足、原材料費の高騰、エネルギーコストの上昇、消費者の節約志向。
多店舗展開する外食企業にも食品製造業にも、利益を残しにくい環境が続いています。

こうした環境下では、値上げはたしかに重要な打ち手の一つです。
しかし実際には、値上げだけで利益改善が完結するケースは多くありません。客数が落ちる、販売数量が減る、値上げ後も現場の負荷が変わらない、原価や人件費の上昇を吸収しきれない、といった問題が重なるからです。

とくに食の現場では、売上が維持できていても利益が残らないことがあります。
その背景には、作りすぎ、欠品、廃棄ロス、段取り替えの多さ、教育負荷、属人化、発注精度の低さ、生産計画のズレなど、P/Lだけでは見えにくい損失が潜んでいます。

では、収益改善はどこから始めるべきなのでしょうか。
現場にさらに頑張ってもらうことなのか、すぐにシステム導入を進めることなのか、あるいは売れ筋商品の強化や価格戦略の見直しなのか。

食の現場の利益改善には、順番があります。
今回のウェビナーでお伝えしたのは、改善には「正しい順番」があるということでした。
そのポイントは、大きく3つです。

  • ・まず数字、次に市場、最後に現場を見ること
  • ・そのうえでボトルネックを見極め、アナログ改善で土台を整えること
  • ・最後にデジタルを効かせること

今回は、多店舗展開する外食企業や食品製造の現場で利益を残すために必要な「改善の順番」を整理します。原価管理、現場改善、標準化、見える化、デジタル活用をどうつなぐか、その考え方を改めて確認していきます。

1. 食品製造の原価管理は「数字」から始まる――市場と現場を正しい順番で見る

収益改善の第一歩は、感覚ではなく数字から現状をつかむことです。
ここでいう数字とは、売上や営業利益だけではありません。P/L(損益計算書)を見れば会社全体の結果はわかりますが、現場で何が起きているのか、どこで利益が削られているのかまでは十分に把握できないことが多いからです。

まず見るべきは、大きな異常です。
売上悪化なのか、利益悪化なのか。継続的な傾向なのか、一時的な要因なのか。直近5年程度の推移を見ながら、構造的な問題かどうかを切り分けることが重要です。

さらに重要なのが、見えていない数字の可視化です。
予定原価と実績原価の差、作りすぎによる過剰生産、欠品による機会損失、廃棄ロス、再調理、手戻り、過剰な残業などを把握することが重要です。こうした「隠れ損失」は、日々の忙しさの中で見過ごされやすく、数字として管理されていないことが少なくありません。

多店舗展開する外食企業であれば、店舗別の原価率差異、時間帯別の人時生産性、メニュー別の粗利、欠品頻度、発注精度などを見ることで、利益を削っているポイントが見えやすくなります。
食品製造業であれば、SKU別採算、歩留まり、製造ロット、段取り替え回数、計画変更頻度、在庫回転、廃棄率といった数字が重要です。

次に見るべきは市場です。
市場とは、客数動向、客単価、商圏変化、競合状況、売れ筋、チャネル構成、顧客ニーズの変化など、外部環境のことです。市場を見ずに現場だけを責めると、努力の方向がずれてしまいます。

たとえば、以前は売れていた商品でも、今の顧客ニーズには合わなくなっていることがあります。
あるいは、製造現場では少量多品種化が進んでいるのに、従来と同じ計画や運営方法のままで、非効率が膨らんでいることもあります。数字だけでなく、市場の変化とセットで現状を捉えることが欠かせません。

そして最後に現場を見ます。
ここで大切なのは、現場を「感覚の場」ではなく「検証の場」として捉えることです。「忙しい」「手が足りない」「回らない」「教育が追いつかない」といった声は、とても重要です。
しかし、その声自体が真因とは限りません。工程、動線、作業分担、標準手順、教育負荷、属人化の度合いを見ながら、数字と市場から立てた仮説を現場で確かめることが重要です。この順番が、現状認識の質を大きく左右します。

2. 食品製造の現場改善は「何をやめるか」で決まる――ボトルネックを絞り、標準化で土台をつくる

数字・市場・現場を見た後に必要なのが、ボトルネックの特定です。
ボトルネックとは、利益を最も削っている制約要因のことです。原価ロス、廃棄ロス、工程ロス、教育負荷、属人化、過剰品目、非採算SKU、発注精度の低さなど、候補は複数あります。

しかし、すべてを一度に改善しようとすると、現場はさらに疲弊します。
だからこそ重要なのが、何を続けるかより、何をやめるかを決めることです。
「あれもこれも残す」「すべてを高い品質で維持する」という発想では、改善の優先順位がぼやけ、結果として何も変わらなくなります。

実際の改善では、利益インパクト、改善のしやすさ、再発しやすさ、他工程への波及、人材育成への影響を見ながら、優先順位を定める必要があります。
この見極めができると、現場改善は「頑張り方」の問題ではなく、「絞り込み方」の問題だとわかってきます。

病院・介護施設に併設された給食現場でも、複雑なメニューや満足度が低く、負荷の高い提供が残り、赤字と長時間残業が常態化していました。
そこで、収支構造を整理し、続けるべき提供と見直すべき提供を切り分けた結果、利益率は赤字水準から10%の水準まで改善し、残業時間は月200時間削減されました。さらに、新入社員や若手栄養士を育成しやすい現場づくりにもつながりました。

ここで効果を発揮したのは、いきなりITを導入したことではありません。
先に行ったのは、アナログ改善です。アナログ改善とは、ルール、基準、標準手順、役割分担、会議体、判断基準、運用設計を整えることです。つまり、誰が見ても、誰が入っても、同じ方向で動ける土台をつくることです。

冠婚葬祭会社の厨房でも同様でした。
「ロスはあるが大きくない」という感覚で捉えられていた損失を、作りすぎ、盛り込み差、廃棄、発注誤差といった項目に分解して可視化した結果、料理原価率は37%から35%未満へ、ドリンク原価率は30%超から25%未満へ改善しました。さらに、人件費は月100万円単位で削減できました。

見えない数字は、見えるようにしなければ改善できません。
そして、曖昧な運用は、基準を定めなければ変えられません。
原価管理も、厨房改善も、生産計画の精度向上も、その前提となるのは標準化です。ここに、利益改善の本質があります。

3. 食品製造DXは最後に効かせる――可視化・判断支援・定着のために使う

では、デジタルはいつ使うべきなのでしょうか。
答えは、土台を整えた後です。

デジタルの役割は大きく3つあります。
可視化、判断支援、改善の定着です。

可視化とは、数字や状態を誰でも見えるようにすることです。
たとえば、店舗別原価率、SKU別採算、歩留まり、欠品率、在庫量、労働時間、残業時間、生産計画差異などをタイムリーに把握できれば、問題発見のスピードは上がります。

判断支援とは、現場や管理者が同じ基準で意思決定しやすくすることです。
発注量の目安、生産量の判断、品目整理の優先順位、改善対象の選定などが属人化していると、改善は担当者依存に陥ります。デジタルは、その判断を共通化し、再現性を高める手段として有効です。

改善の定着とは、改善活動が一過性で終わらず、運用として根づく状態をつくることです。
現場改善は、一度やって終わりではありません。可視化した数字を定例会議で確認し、異常値が出たら対策し、再発を防ぐ。この流れが回って初めて、利益改善は持続します。

逆に言えば、何を見たいか、どの数字を管理したいか、どうなれば成功なのかが決まっていないままデジタルを導入しても、形骸化しやすいのです。
導入そのものが目的になり、現場の入力作業だけが増えてしまいます。こうした失敗は、多店舗展開する外食企業でも食品製造業でも珍しくありません。

食品製造現場の事例では、売上はある一方で利益率が悪化し、作りすぎ、欠品、段取り替え増、残業増が同時発生していました。
そこで、需要変動と生産計画のズレを見直し、非採算SKUを整理し、ロスや歩留まりを可視化した結果、人件費は月150万円削減され、生産計画の作成時間は3日から1日へ短縮されました。

ここでも、先にあったのは標準化です。
標準化があるから、データの定義がそろいます。標準化があるから、入力ルールがぶれません。共通基準があるから、AIやシステムも活用しやすくなります。
最後にデジタルを効かせるとは、そういう意味です。デジタル活用は目的ではなく、利益改善を加速させるための手段として使うべきなのです。

結論――食品製造業の課題解決は、デジタル導入より前に原価管理と標準化から始める

収益改善や現場改善に悩む企業ほど、打ち手を増やそうとしがちです。
しかし本当に必要なのは、やることを増やすことではなく、やることを絞ることです。

明日から実践できる第一歩はシンプルです。
まず、直近の売上・利益・原価・ロスの数字を並べて、「どこに異常があるか」を確認することです。
次に、市場の変化、つまり客数や客単価、売れ筋、商圏、競合、需要変動とのズレを見直すことです。
そのうえで、現場を見て「どこが一番利益を削っているのか」を仮説を立てて検証することです。

そして、すぐにシステム導入へ進むのではなく、ルール、基準、役割分担、標準手順を整えてください。
この土台がある企業ほど、原価管理も現場改善もデジタル活用も、早く、深く、成果につながります。

これからの食の現場に必要なのは、デジタル化そのものではありません。
現状認識の精度を高め、やめることを決め、標準化と可視化で土台をつくり、最後にデジタルを効かせる力です。

では、実際に改善が前へ進む現場には、どのような共通点があるのでしょうか。
順番が正しくても、途中で止まってしまう現場もあります。
一方で、改善が進み、自走し、成果につながる現場もあります。

その違いを生むのが、標準化・可視化・巻き込みです。
次回は、収益改善が進む現場に共通するこの3つの条件について、さらに整理していきます。

もし、自社の原価管理や現場改善をどこから始めるべきか迷っている場合は、まず現状の数字と現場運営を整理することをおすすめします。課題の見え方が変わるだけでも、次の一手はかなり明確になります。個別に整理したい場合は、現場の状況に即した切り口で一緒に優先順位を確認することも可能です。

関連資料
AUTHOR著者
デジタルコンサルティング事業部
チーフコンサルタント
松永 大樹

給食業界でプレイングマネジャーとして病院厨房の管理から大規模国際スポーツイベントの運営管理担当と多岐にわたるフードサービスを経験し、当社に入社。「現場・現実・現品」の三現主義を軸に、5Sによる業務改善、デジタルを活用した業務効率化やIT化構想支援を行う。顧客とのコミュニケーションを大切にする伴走型コンサルティングスタイルを信条とする。

松永 大樹
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