外食産業・食品製造の利益改善|値上げだけでは利益が残らない理由

コラム 2026.06.02

食の現場で見落とされる改善余地とは

マネジメントDX 生産性向上
外食産業・食品製造の利益改善|値上げだけでは利益が残らない理由
目次

前回の導入回では、食の現場の改善は、個別施策やシステム導入の前に「自社の現在地」を捉えることから始まると整理しました。
では、その視点で利益改善を見直したとき、最初にどこへ目を向けるべきなのでしょうか。

原材料費や人件費の上昇が続く今、値上げは避けて通れない経営判断です。実際、外食でも食品製造でも、価格改定なしに利益を守ることは難しくなっています。
ただ一方で、「値上げはした。けれど、思ったほど利益が残らない」という声も少なくありません。

その理由は、利益が価格だけで決まるものではないからです。
食の現場には、値上げだけでは埋めきれない改善余地が残っていることがあります。
本稿では、値上げの必要性を認めたうえで、なぜそれだけでは利益が残らないのかを、食の現場の実態に即して考えます。

1. 値上げは必要。でも、それだけでは利益は残らない

今の時代、値上げは現実的な選択肢です。特に多店舗展開の外食企業では、原価高騰に加えて人手不足の影響も大きく、価格改定を先送りするほど現場の負担は増えていきます。食品製造でも、原材料費、エネルギーコスト、人件費の上昇が収益を圧迫しています。
その意味で、値上げそのものを否定するつもりはありません。むしろ、適切な価格改定は必要な経営判断です。
ただし、値上げをしても利益が残らない会社には、いくつかの共通点があります。

  • ・原価やロスの実態が見えていない
  • ・現場の忙しさが放置されている
  • ・教育や引き継ぎが属人的で負荷が高い
  • ・会議や数字管理が改善行動につながっていない
  • ・システムや帳票はあるが、現場で活かされていない

こうした課題が残ったままだと、値上げによって一時的に売上や粗利が改善しても、その効果は現場のムダや構造的な損失に吸収されてしまいます。つまり、値上げは必要条件ではあっても、十分条件ではないのです。

2. 利益を削っている改善余地は、現場の中に埋もれている

利益改善というと、原価率やFL比率の話になりがちです。もちろんそれは重要です。ただ、数字だけを見ていても、何が利益を削っているのかが見えないことがあります。
たとえば、こんな状態です。

原価が見えているようで見えていない

  • ・メニューごとの原価が正しく整理されていない
  • ・歩留まりや使用量の実態が反映されていない
  • ・廃棄や過剰仕込みが定量的に可視化されていない

現場の忙しさが、そのまま利益を削っている

  • ・動線が悪い
  • ・工程が複雑
  • ・確認や手戻りが多い
  • ・特定の人に判断が集中している

手間をかけているのに、価値につながっていない

  • ・現場負荷の高い運営が固定化している
  • ・工数がかかるのに、顧客満足や利益に結びついていない

こうした状態は、帳票上では見えにくい一方で、コスト削減や業務効率化を難しくしている要因でもあります。つまり、利益を削っているのは単なる価格や仕入れの問題だけではなく、現場に埋もれた改善余地なのです。

3. 事例|病院と介護施設が併設された給食現場で見えてきたこと

以前、病院と介護施設が併設された給食現場の改善に関わったことがあります。その現場では、収益悪化と現場業務の逼迫が同時に起きていました。
一見すると、「売価の問題」「人手の問題」とも見えました。しかし、実際に現場を見ていくと、本当のボトルネックは別のところにありました。
まず、メニュー管理が十分にできておらず、正しい原価が見えていない状態でした。どのメニューにどれだけコストがかかっているのか、手間に見合っているのかが整理されておらず、収益構造の実態がつかめていませんでした。さらに、工程が複雑なわりに満足度が高くないメニューが残っており、現場業務を強く圧迫していました。
この取り組みでは、現場の見直しと並行して、栄養管理システムのリプレイスも進んでいました。ただ、重要だったのは、単にシステムを入れ替えることではありません。レシピを再入力するなかで、原価が正しく反映されるようにマスタを設計し、現場で必要な数字が見える状態をつくったことです。一人の栄養士に専任でマスタ設定を担ってもらい、デジタル側で数字を整えながら、アナログ側で現場の負荷やメニューの妥当性を見直していきました。
その結果、原価が高く、現場負荷も大きく、評判もよくないメニューから改善していくという優先順位が明確になり、着任3ヵ月目で黒字化につながりました。
ここでお伝えしたいのは、短期間で成果が出たことだけではありません。本質は、価格だけの問題として捉えず、現場構造と情報の見え方を一緒に見直したことにあります。

4. 価格改定と現場改善を分けずに考える

値上げは、収益改善のための一つの打ち手です。一方、現場改善は、その効果を利益として残すための打ち手です。この二つは別のテーマではなく、つながった一つの経営テーマとして考えるべきです。
特に、オペレーション改善や生産性向上を考えるとき、人手不足や原価高騰だけを個別に見るのではなく、現場に埋もれた改善余地まで含めて捉える必要があります。値上げだけに頼るのではなく、価格改定と現場改善をセットで考えることで、初めて利益が残る構造に近づいていきます。

5. 次回は、"見えていない損失"を構造化する

では、現場に埋もれた改善余地は、具体的にどこにあるのでしょうか。次回は、今回触れた論点をさらに整理しながら、「食の現場で"見えていない損失"はどこにあるのか」をテーマに、原価・ロス・動線・教育負荷・属人化といった観点から、見えにくい損失を構造化していきます。
「値上げはした。けれど利益が思ったほど残らない」そんな企業が、まず何を見える化すべきか。次回はその整理に入ります。

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AUTHOR著者
デジタルコンサルティング事業部
チーフコンサルタント
松永 大樹

給食業界でプレイングマネジャーとして病院厨房の管理から大規模国際スポーツイベントの運営管理担当と多岐にわたるフードサービスを経験し、当社に入社。「現場・現実・現品」の三現主義を軸に、5Sによる業務改善、デジタルを活用した業務効率化やIT化構想支援を行う。顧客とのコミュニケーションを大切にする伴走型コンサルティングスタイルを信条とする。

松永 大樹
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