はじめに
建設業界は、長年にわたり社会インフラの整備や人々の生活基盤を支え、約60兆円規模の市場を形成する日本経済の重要な基幹産業として発展してきました。しかし、その営業方法は、人脈・紹介依存型の属人的な手法が主流であり、従来の営業手法だけでは市場環境の変化に対応しきれず、成果を上げることが難しくなっています。本稿では、経営戦略の観点から建設業における現状の課題を整理し、投資対効果を重視した成功のポイント、そして取り組むべき新たな集客手法・営業戦略について解説します。
1. 建設業の営業はなぜ伸びない?市場縮小・紹介依存・デジタル化遅れという3大課題
建設業の営業は、既存顧客の「人脈」や「紹介」、入札などに依存してきた構造があります。特に、地域密着型の中小建設業者においては、過去の実績や地元のつながりを重視した営業が主流となっています。また、公共事業や大手ゼネコンからの下請け案件が多い企業では、既存の取引先との連携が営業活動の中心となっています。
しかし、近年、建設業界を取り巻く環境は大きく変化しています。国土交通省の統計によれば、建設投資額は1992年のピーク時(84兆円)から約3割減少しており、市場は成熟・縮小局面に入っています。インターネットやSNSの普及により、顧客の情報収集方法が根本的に変化しました。個人顧客や中小企業の依頼主は、施工実績や口コミ、価格比較などの情報をWeb上で事前に行うことが一般的となり、従来の営業アプローチでは顧客接点を持つこと自体が困難になっています。
建設業の営業における主要課題
(1)競争の激化と収益性の低下
少子高齢化や人口減少により市場規模が縮小している中で、同業他社との競争が激化しており、価格競争に巻き込まれるケースが増えています。特に地方圏では、公共事業の減少により競争が熾烈化し、粗利率が10%を下回る企業も少なくありません。また、大手ゼネコンの地方進出、異業種からの参入などにより、競争環境は一層厳しくなっており、新規顧客の獲得が難しくなっています。
(2)デジタル化の遅れによる機会損失
日本建設業連合会の調査では、建設業のデジタル投資は全産業平均の約6割程度にとどまっており、他業界に比べてITツールの導入や活用が遅れている状況です。オンラインを活用した営業手法が十分に浸透していないため、Webで情報収集する潜在顧客との接点を逃し、営業効率の改善が進んでいない企業が多いのが実態です。この結果、営業一人当たりの生産性は製造業と比較して約40%低い水準にとどまっています。
(3)顧客ニーズの多様化と高度化
顧客のニーズが多様化・高度化しており、従来の画一的な営業手法では対応が難しくなっています。特に、ZEB(ネット・ゼロ・エネルギー・ビル)やカーボンニュートラル対応、環境配慮型の建築や省エネ性能、デザイン性の高い施工など、専門性が求められる案件が増えています。これらの高付加価値案件を獲得できるかどうかが、収益性の確保と企業の持続的成長を左右する要因となっています。
2. 建設業の営業が難しい3つの構造要因|長期リード・属人化・差別化の壁
建設業の営業活動が他業界と比べ難しいとされる理由には、以下の特徴があります。
(1)長期的な関係構築が必要:リードタイムの長さによる資金効率の課題
建設プロジェクトは、一般的に高額な投資となるため、顧客は慎重に検討します。一般消費財と異なり、初回接触から受注まで平均6〜18ヶ月を要するケースが多く、建設業の営業は、短期間で契約を獲得することが難しく、長期的な関係構築が必要となります。この長いリードタイムは、営業コストの増加と資金効率の低下を招き、経営上の大きな負担となっています。特に、公共事業や大規模なプロジェクトでは、信頼関係を築くまでに時間がかかります。
(2)営業の属人化:組織的営業力の欠如とリスク
建設業の営業には、顧客との長期的な関係構築を実現するためのコミュニケーション力だけでなく、建築、土木、電気、設備など、多岐にわたる専門知識が求められるため、高度な専門知識を習得する必要があります。この結果、各営業担当者の経験やスキルに依存する傾向が強く、組織的な営業活動が確立されていないケースが多く見受けられます。属人化は、優秀な営業担当者の退職時に顧客を失うリスクや、営業ノウハウが組織に蓄積されないという経営リスクを内包しています。
(3)技術力や実績が重視される:差別化の困難さ
建設業においては、顧客が慎重に業者を選ぶ傾向が強く、技術力や過去の実績が重要視されます。しかし、技術力は顧客から見えにくく、従来の営業トークだけでは、契約を獲得するのは難しくなっています。施工事例や資格、技術者のスキルなど、具体的な裏付けが求められますが、これらを効果的に可視化・訴求できている企業は少数です。
加えて、2024年問題に象徴される労働人口の減少や働き方改革による人手不足も、営業活動の質と量に影響を与えています。限られた人的リソースで最大の成果を上げるためには、デジタルを活用した効率的な営業戦略が求められています。
経営戦略上の重要ポイント
上記の構造的な課題を放置した場合、営業コストの増加、受注単価の低下、優秀な人材の流出という悪循環に陥ります。特に、属人化された営業体制は、事業承継や組織拡大の障壁となり、企業の成長を阻害する要因となります。デジタル化による営業プロセスの標準化と効率化は、もはや選択肢ではなく必須の経営課題です。
3. 成果が出る建設業の営業戦略|CRMで顧客理解、価値提案の定量化、デジタル活用
営業改革を成功させるためには、従来の個別最適から脱却し、全社戦略として位置づける必要があります。以下のポイントを踏まえた営業戦略が求められます。
(1)顧客ニーズの深堀り:データに基づく顧客理解
顧客との関係性を維持・強化するために、顧客のニーズを深く理解することが重要です。CRM(顧客関係管理)ツールを活用し、顧客の行動履歴、過去の問い合わせ内容、受注・失注の要因などをデータとして蓄積・分析することで、顧客の潜在ニーズを把握できます。既存顧客であれば、定期的な情報提供やアフターフォローを通じて、満足度を高め、リピート率を向上させます。リピート顧客の獲得コストは新規顧客の約5分の1であり、収益性向上に直結します。また、新規顧客であれば、顧客が求めるデザインや機能性、予算、工期など、細かな要望をヒアリングし、過去の実績や施工事例を参考にしながら、提案型のコミュニケーションを心掛けることが重要です。
(2)差別化された提案:付加価値の明確化と定量化
技術力や施工品質だけでなく、設計提案やコストパフォーマンス、カーボンニュートラル対応や環境配慮などの付加価値を打ち出すことが、競合との差別化となります。重要なのは、これらの付加価値を定量的に示すことです。例えば、「省エネ性能により年間○○万円のランニングコスト削減」「工期短縮により○日早く営業開始可能」といった、顧客の投資対効果を明確に提示します。そのためには、施工事例や資格、技術者のスキルなど、自社の強みを効果的にアピールすることが重要です。他社との差別化ポイントを明確に伝えることで、顧客の関心を引くことができます。経営戦略として市場動向や顧客の潜在ニーズを把握し、環境対応や災害対策、省エネなど、社会的に関心の高いテーマに対応することが求められます。
(3)デジタルツールの活用:営業生産性の飛躍的向上
営業活動の効率化や新規顧客の獲得には、デジタルツールの活用が欠かせません。デジタルマーケティングを導入した建設企業では、リード獲得コストが従来比50〜70%削減され、営業一人当たりの商談数が2〜3倍に増加した事例も報告されています。例えば、SNSやWebサイトでの情報発信、CRM(顧客関係管理)ツールを導入して顧客情報を一元管理し、適切なタイミングでフォローアップの実施などが挙げられます。現場営業だけに頼るのではなく、デジタルを活用した営業活動を強化させることは、建設業において競争優位性を確立するための必須投資と位置づけるべきです。
4. 建設業の集客ロードマップ|ホームページ最適化(SEO/MEO)・動画/SNS・CRMでリード獲得と育成
市場環境の変化に対応し、持続的成長を実現するため、以下のデジタルマーケティング施策を段階的に実装することを推奨します。各施策と期待される効果を明示します。
(1)ホームページの最適化
顧客の情報収集方法がデジタル中心になっている現在、自社のWebサイトは「24時間稼働する営業担当者」として機能させるべきです。
具体的には以下の施策が有効です。
施工事例の充実
自社ならではの強み、施工事例や顧客の声を写真・動画付きで掲載することで、顧客にとって有益な情報を提供します。特に、ビフォー・アフター、工期、コストなど具体的な情報を含めることで信頼性が向上します。
コンテンツマーケティング
顧客の課題解決に役立つ情報(「工事費用の相場」「工期短縮のポイント」など)を発信することで、見込み客を育成することができます。
SEO対策の実施
「○○県 建設工事」や「○○工事 建設会社」などの地域や業界に特化したキーワードで上位表示させることで、検索した潜在顧客に効率的にアプローチできます。適切なSEO対策により、Webサイト経由の問い合わせが月間5〜20件増加した事例もあります。
(2)動画コンテンツの活用
施工事例や施工過程を動画で紹介することで、視覚的にわかりやすくアピールすることができます。特に技術は言葉では伝えにくいですが、動画であれば自社の技術力を効果的に訴求することができます。ドローンを活用した空撮映像や、タイムラプス動画は顧客の関心を引きやすく、SNSでの拡散も期待できます。
作成した動画は自社サイトに加え、YouTubeやInstagramなどのSNSでの発信が効果的です。SNSでの発信を通じて幅広い層にリーチすることで、ブランディング効果も期待できます。動画視聴者は非視聴者と比較して問い合わせ率が約1.8倍高いというデータもあり、投資対効果の高い施策です。
(3)CRM(顧客関係管理)ツールの導入
獲得したリードに対して効率的な営業活動を展開するためには、CRMの導入と運用が効果的です。CRMは顧客情報や営業実績データを一元管理し、過去の取引履歴を把握することができます。特に建設業においては、以下のメリットが顕著です。
営業プロセスの可視化
案件の進捗状況、ボトルネックの特定が可能となり、適切なタイミングでの上司のフォローや戦略修正ができます。
属人化の解消
CRMツールを活用することで、顧客のニーズに合わせた提案やフォローアップなど、適切なタイミングでアプローチすることができ、成約率の向上に繋がります。担当者が変わっても顧客情報が引き継がれるため、顧客満足度の維持と事業継続性が確保されます。
データドリブン経営
CRMツールを活用することで、営業活動の成果が可視化され、データに基づいた客観的な評価や改善が行いやすくなるため、KPI管理と戦略的意思決定が可能になります。
チーム連携の強化
営業活動の計画と実行をチーム全体で一元管理できることから、担当者同士の連携がやりやすくなり、営業活動の一貫した顧客対応の実現が可能です。
5. 経営戦略としてのマーケティングDX|段階導入とKPIで持続的に受注を伸ばす
建設業界では、市場縮小と競争激化という構造的な環境変化の中で、従来型の人脈依存営業だけでは持続的成長が困難な局面を迎えています。この状況を打破するには、デジタルマーケティングを単なる「ツール導入」ではなく、「経営戦略の中核」として位置づけることが不可欠です。
成功のカギは以下の3点です。
(1)トップのコミットメント
経営層がデジタルシフトの重要性を理解し、明確なビジョンと予算を示すことが重要です。
(2)段階的な実装
一度にすべてを変えるのではなく、Webサイト最適化→動画活用→CRM導入と段階的に進めることが重要です。
(3)効果測定と改善
KPIを設定し、PDCAサイクルを回しながら継続的に改善することが重要です。
顧客ニーズを的確に把握し、信頼関係を築きながら、オンラインとオフラインを融合させた提案型の営業活動を展開することで、価格競争から脱却し、高付加価値案件を獲得し、持続可能な成長を実現することができます。
デジタルマーケティングへの投資は、単なるコストではなく、営業生産性向上と収益性改善を実現する「戦略的投資」です。今こそ、経営戦略としてマーケティングDXに取り組むべき時期にあると言えるでしょう。